第21話 第二夜~分断
――午前零時
神谷さんと菜月さんを除いた残りの人たちと共に、島の端にある空港へと来ていた。もちろん、目的は天成教の奴らを出迎えるためだ。奴らの声明には、日時は書かれていなかった。
だが、ボス曰く、日付の変わる瞬間に彼らは訪れるらしい。そして、その予感が正しかったことを証明するように、黒い影が群れをなして飛んできているのが見えた。
月明かりを頼りに目を凝らしてみると、中央の大型ヘリを巨大なプロペラを携えた軍用機が、取り囲んでいるのが分かる。あの数からして、数十人規模の部隊が乗ってそうだな。
オレは改めて呼吸を整えるために、息を吐き出す。そして、その群れはゆったりと島に近づき、中央に鎮座していた大型のものだけが、着陸態勢に入った。他の機体はこちらを監視するように、頭上を飛び回っているのが見える。
暗い緑色で塗られたヘリは、冷たい風をまき散らしながら、オレたちの目の前に降りてきた。前後についている三枚の羽根は、徐々にその動きを止めていく。
前方についていた四角い扉が開き、三人の人間が下りてきた。先頭を歩いているのは、ガスマスクを被った不気味な奴。そして、その後ろには二人の……おそらく、少年少女が付いてきている。月明かりに輝く銀髪の長さで、おおよその違いは認識できるが、本当によく似ているな。
双子なのか、それとも……。オレが最悪な想像をしていると、ボスがゆっくりと彼らに近づいていった。
「よう。初めましてだな、天成教のクソども」
「未開のサルは口の利き方も知らないようだな。交渉もまともにできないとは……」
ガスマスク越しに話しているためか、くぐもった反響音のような声が聞こえてくる。
「交渉? そんなもんはなから必要ねーだろ」
「少なくとも我々は、必要だと思っている。我々の意思を明確にしておくためにもな」
「聞くだけ聞いてやるぜ」
ボスは、早く話せと言わんばかりに顎をしゃくる。……本当にこの人はいい性格してるよ。そんな横柄な態度を気にしていないのか、ガスマスクは淡々と話し始める。
「我々の目的は一宮永遠、唯一人だ。お前たち……PPAと争うつもりはない。奴をおとなしく渡せば、それなりの金品でも資源でもやる用意はできている。他にも――」
「断る」
拒絶で会話をぶった切り、静かに……だが、力強く東さんは否定を口にする。その様子に思わず、笑みがこぼれてしまう。
「今ならまだ……撤回できるが」
「断る」
ボスは壊れたロボットのように、同じ言葉を繰り返す。その様子に呆れたのかもしれないし、落胆したのかもしれない。天を仰ぐように上を向き、ガスマスクの目の部分に手を添えたことからも伺える。ほんの数秒の間の後、ガスマスクはボスの方を向き直す。
「では、言い方を変えよう。これは命令だ。そいつを我々に渡せ。さもなければ――」
ガスマスクは徐に右手を上げる。すると、上空のヘリたちが一斉に動き出し、オレたちを取り囲む。もちろん、そのヘリたちの下部についている機関砲の照準は、こちらに向いている。奴の言葉の続きは容易に想像できるな。
「殺すぞ」
完全に予想通りの宣言だった。だが、想定以上の殺気がオレたちに向けられる。幾多の戦場で生き抜いてきたのだろう。そう感じられるだけの鋭さが、ガスマスクの声音には宿っていた。だが、その選択は――
「悪手ね。その判断」
ステラが言葉を発した瞬間、プロペラ音を響かせるヘリたちが一斉に、海へと吸い寄せられていく。すると、ガスマスクは勢いよく手を下ろす。何をする気だ? 警戒しながら吹き飛ばされていくヘリを見ていると、中から奴と同じ格好をした人間が、わらわらと飛び出してくる。視界に映るその数、およそ三十。
「チッ」
ステラは湧いて出た人員も捌こうとしたのか、両手を目線まで上げ、狙いを定め始めた。取り合えず、これで相手の兵器は排除できたか……。
「――緩むにはまだ、早いんじゃねーか」
不意に、耳元に聞いたことのない男の声が響く。反射的に振り向こうとするが、半身の状態で肩を突き飛ばされる。視界の端に映ったのは、緑色の軍服に身を包んだ見知らぬ男だった。
「さあ、ここからが本番だ。楽しめよ」
嫌らしく歪んだ笑みを最後に、オレは白い空間へと呑み込まれていた。
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