第2話 超能力者

「それで、事情を聞かせてもらってもいいかしら? 飛行機を墜落させようとした犯人さん」


「まあ、その辺のことにはちゃんと答えるよ。だが、その前に……どこで分かったんだ?」


 彼女は金色の髪を弄びながら、勝気な笑みを浮かべる。


「そんなの、あなたが全く慌てていないからに決まっているでしょ。あの状況で慌てない人間なんて、自分が助かる手段を持った奴か、この飛行機が堕ちないことを知っている奴のどちらかしかいないわ。そして、あなたが何らかの行動を起こそうとする素振りはなかった。よって、あなたは後者。これが堕ちないことを知っているということはつまり……」


「犯人だってことか」


「そういうことよ」


 自慢げに語る少女に拍手を送る。まあ、多少の穴はあるが、状況を鑑みれば妥当な推理だし、機嫌をとっておいて損はないだろう。


「ま、今のは冗談として……」


「冗談?」


「ええ、冗談よ。今の色々と穴がある推理を、私が本気で言っているわけないでしょ」


 自分で言っておいて自分で即否定するのか。冗談としても面白くないし、おかしな奴だ。思わず拍手していた手も止まる。


「だって、さっきの推理にはあなたが自殺志願者で、最後の瞬間に私のような美少女に、格好つけようとしているという可能性が抜けているもの」


「そんなわけないだろ! 大体、そのつもりならあんたを元気づけたり、励ますようなことを言うはずだろうが!」


「ええ、そうね。だから、これも冗談」


 のらりくらりとした態度に、若干の苛立ちが募る。だが、ダメだ、怒っては。オレには今、こいつの力が絶対に必要だ。拳をぐっと握り、煮立つ感情を抑える。


「本当にあなたって揶揄からかいがいがあるわね。一宮永遠いちみやとわクン」


 くすくすと笑いながら、彼女はそう言った。つまり、こういっているのだろう。元からオレのことは知っていたと。まあ、余計な問答を避けられる分、得と考えよう。


「なるほどな。既に調査済みということか、ステラ・ホワイト」


 負けじと同じことをやり返してみる。だが、彼女は……ステラは、全くと言っていいほど余裕の笑みを崩さない。


「本当に面白い反応してくれるわね。私のことを知っていることなんて、当たり前じゃない。この私なんだから」


 少女は自信満々に目を閉じて、胸に手を当てる。まあ、その反応も当然か。何せ、彼女は世界最強と言われる超能力者なのだから。


 超人的な力を持つ人間は、世界の裏側にひっそりと存在し続けている。その中でも彼女は、裏の人間なら知らぬものはいないほどの有名人だ。


 彼女の力は所謂、念動力と言われるもので、この能力を使った逸話は多岐にわたる。ニ十階建てのビルを丸ごと持ち上げたとか、飛んでいるミサイルをはたき落としたとか、挙句の果てには衛星の軌道を変えたというのもあった気がする。


 それでついた呼び名が世界法則ワールドオーダー。物理法則のように、逆らいようがないもの、みたいなニュアンスらしい。今までは納得できなかったが、本人に会って理解できた。


 こいつのあだ名は、おそらく性格も含めて言っているのだろう。自由奔放で気まぐれ、そして人の話を聞きそうにない、そんなところも表していると考えられる。そうだ、そうに違いない。


「ちょっと、何か言いなさい。私は大事な取引相手でしょ」


 オレが少し考え込んでいると、目の前に彼女の顔があった。美麗な青い瞳が、オレの目を間近で覗き込んできている。こいつに遠慮というものはないのか……。頬が熱くなるのを感じながら、顔をそらす。


「いや、どちらかと言えば、クライアントのこちら側に気を使うべきだろ? それなりの額を払ってるわけだし」


「お金なんて関係ないわ。いくら積まれても気に入らなければ私は動かないもの」


「じゃあ、何があんたの琴線に触れたんだよ」


 ちらちらと伺うように、少女へと視線を送る。すると、オレの目に満面の笑みが飛び込んできた。


「あなたよ、あなた。魔術師マジシャン、一宮永遠の依頼だから私はここにいるの」


 その言葉に、思わず怪訝な表情を浮かべる。こいつも、オレの力を利用しようというクチか。まあ、お互いさまと言えばそれまでだが。


「……オレに何を求める。条件次第では少しくらいは融通しても……」


「ああ、勘違いしないでくれる? 私はあなたの力ではなく、あなたに興味があるの。だから、何かして欲しいこと何てないわよ」


 少女はあっけらかんとした様子で、そう言った。


 なんだ、こいつ……意味が分からない。完全に信じるわけにもいかないが、もしかしたら好都合かもしれない。目に見えない利益がオレにあるのならば、依頼も本気で取り組んでくれるはずだ。


 何せその依頼とは、オレを奴らの凶刃から守ることなのだから。

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