第8話

「今度はそうきたか」


 月曜日。

 学校に行くと、先に来ていた司を見つけ、土曜日に、司と別れた後の話をする。


 司は呆れたというか、諦めたというか、そんな表情で話を聞いていた。


 最後まで話を聞き終えた司は、おもむろに頭をかいて、溜息を漏らす。


「まあ、話がぶっ飛んでるのは、今さらか」

「だが、辻褄はあってるだろ?」

「いや、あってるあってないの問題じゃないだろ」


 司はピシャリと言う。


「とりあえず、ふざけてる訳じゃないと思ってるから、一緒に考えてるけど、普通、馬鹿にされてるのかと思うからな。その話」

「うっ。それは、わかってる。けど……」


 変なことに付き合わせている自覚はある。

 だが、気のせいでは済ませられない。


 黒内先輩の話も合わされば、その思いは強くなる一方だった。


 俺の雰囲気を感じたのか、司はもう一度大きく溜息を漏らす。


「まあ、わからないなりに考えるけどさ」

「助かる」


 ああ、美しきかな友情よ。持つべきものはやっぱり友だな。


「報酬は、希沙羅さんとの間を取り持つってことでどうだ?」


 前言撤回。

 こいつはやっぱり、友情よりも恋愛なんだな。


 俺の恨ましげな視線を感じたようで、司は、半分冗談だよ、と取り繕う。

 半分かよ。とも思ったが、声には出さなかった。


 それだけ、変な話に付き合わせているのは事実だからな。


「でも、そこまで行けば、話は簡単だろ。後は龍神様とやらについて調べればいいんだから」


 司はこれで解決とばかりに言う。


 だが、

「それについては、黒内先輩が調べ尽くしてる。けど、詳しいことはわからなかったみたいだ」


 龍神様は、願いを叶えてくれる存在。代償なしで。周期は100年に1度。それだけ。


 何処に現れるのか、どういう姿をしているのか。なぜ、願いを叶えてくれるのか。

 そこら辺は何もわからないらしい。


「ふーん。まあ、俺も龍神様なんて聞いたことないしな」

「だろ? 俺もネットで調べてみたりしたけど、特に何もわからなかったよ。後で図書室にでも行って調べてみようとは思うが」


 図書室は、黒内先輩も利用していて、調べた後だと聞いているので、無駄足になる可能性は高いが、それでも、自分で調べてみないことには、確信は持てない。


 龍神様というのが、本当にこの辺りの守り神的な存在なら、歴史の本とかを見てみれば良いと思うのだが。


 と言っても、この学校の図書室は、そこまで豊富に本がある訳ではない。本気で調べるなら、図書館に行った方がいいだろう。

 今度の休みにでも行ってみるか。


「でも、その龍神様について、一樹は聞いたことなかったのか?」


 何を言ってるんだ。


「だから言ったろ? 調べたけどわからなかったって。聞いたことあったら、調べないって」

「いや、そうじゃなくて、龍神様に会ったことがあるんだろ、奈那先輩は。なら、奈那先輩からそんな話を聞いたことはないのか?」

「あ」


 司の言葉にハッとする。

 確かに、確実に龍神様に会ったことがあるのは、奈那先輩だけだ。


 黒内先輩は、奈那先輩から龍神様に願いを叶えてもらえたと聞いたと言っていた。


 その時の状況は詳しく聞いていなかったらしいが、もしかしたら、俺や世良との会話で、龍神様の話題をしていたかもしれない。


「まあ、鶏が先か卵が先かって話になっていくけど。もし、思い出せるなら、それもヒントになるだろ」

「確かに。でも、これといって……」


「私は、君に、言わなきゃいけないことがあるんだよ」


 不意に聞こえてきた声。それは、声だけじゃなくて、頭の中に、その時の光景まで浮かび上がってきた。


 奈那先輩は、珍しく真剣な顔で、それでいて、余裕の無さそうな顔をしている。 

 いや、悲しそうで、辛そうで、それでもいつもの笑顔を見せようとしている。


「私は、……」


 その後の言葉が思い出せない。

 とても大切な話だったはずなのに。


「一樹?」


 あの場所は、確か、奈那先輩だけじゃなくて、世良と司も一緒に行った所だったはず。そう言えば、黒内先輩もいたかもしれない。


「なあ、司。ちょっと、行きたい所があるんだけど」

「ん?」

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