みんなでプール! 中編2(流れるプールでのパニック)

 ――腕と首が取れるハプニングに見舞われたが、気を取り直して……。

 俺達はリゾートプールの施設をぐるっと一周する流れるプールで遊ぶことにした。

 ここの流れるプールは全長五キロと言う県内で一番長い距離を持っている。ただこのプールは、ただまったりと流れているだけのプールではない。途中からプールの流れが速くなったり、うず潮が発生したり、プールの幅が狭くなったり、滝みたいな高低差があったり……など、デンジャラスなギミックが兼ね備えているのだ。

 つまり、アトラクション型の流れるプールである!


「う、うわぁ……は、早いなぁ……」


 早速プールに入ると、プールの流れに体を押されるような感覚を味わった。立ってもいられないぐらい流れる速度が速い。下手をすればそのまま流されてしまいそうだ。

 それにぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうしているみたいに混み合っている。老若男女問わずに楽しめる定番スポットだなぁ……。


「玲愛、体のパーツが取れないように気を付けてよ。流石にここは俺もカバーできないと思うし……」


 玲愛に近寄って、ひそひそと耳に囁くように注意事を伝えた。流石に何かの弾みで玲愛の体のパーツが取れたら、大騒ぎになってパーツが回収出来なくなる。


「う、うん、そうだね! 次は転んで首が取れないように気を付けるわ!」


 ブルブルと武者震いしながら、玲愛はそう答えた。


「な、何身震いしているんだよ……」

「だ、だって……私、ど、ドジっ子から変なところで滑っちゃうかもしれないという恐怖を感じて……」

「いや、お前ってドジっ子の設定だっけ? 俺の記憶が正しければ、真面目で甘々すぎるキャラじゃなかったか?」

「ち、違うわよ……昔から、その……よくドジしちゃうんだよ……。テストの解答を一問飛ばしてずらした事あるし、よく腕取れちゃうし……」

「へぇ……」


 意外だったなぁ……。いつもテストでは学年一位に立っている玲愛が、初歩的なミスを犯した事あるんだ……。後者の件は日常茶飯事だから意外でも思わないけど。


「まあ、ドジっ子の性格だった事はいいとして……とりあえず流れるプールで遊ぼうぜ! 玲愛!」

「うん!」


 こくりと頷いた玲愛の姿を見ると、プカプカと浮き輪の上に乗っていた。全然気が付かなかった……。こいつ、浮き輪に乗っていたのか? 


「……どうしたの? 私、関節が変な状態になっている?」

「あ、いや……変な状態にはなっていないよ」


 ポリポリと頬を掻いて、そう答えた。


「よかったぁ……。――ねえ。それよりもさ、浮き輪を押してくれる?」


 安堵の表情を浮かべた後、話を切り替えてそうお願いしていた。


「えーなんで……流れるプールなんだから、押さなくてもいいだろ?」

「別にいーじゃん。速い方が楽しいし」

「そうだけどさぁ……」

「じゃ、お願い。彼女のお願いはなんでも聞いてくれるって言っていたでしょ?」


 首をくいっ……と背けて、ニマニマと微笑みながら言う玲愛。


「――――っ」


 その光景に俺はドクンと胸を弾ませていた。あぁ……何度も思うけど、この表情は可愛いすぎる……反則でしょ!?


「し、しょうがないなぁ……」


 可愛さに免じて、俺は玲愛が乗っている浮き輪を押す事にした。


「これから浮き輪を押すから、振り落とされないようにしろよ」


 バシャバシャとバタ足して流れるプールを泳ぎながら、浮き輪を押し進めた。


「はーい! 全速前進~~ヨーソロー!」


 なんて、某アイドルキャラの名台詞と敬礼ポーズを取る玲愛であった。


「クソっ……イチャイチャしやがってッ! リア充爆発しやがれ……」

「れーちゃん、私より先に彼氏作るなんてぇ……。私たち非リア同盟の絆は何処いったのぉぉぉ……?」

「クソ兄貴……モテないくせに生意気な……」


 なんて、背後から怨嗟のオーラを醸し出す非リア三同盟のメンバーたち。そのおぞましい視線にゾクリと悪寒が全身の神経に走った。


(うぅ……非リア三同盟の視線がおぞましい。まるで包丁でめった刺しされているような感じだなぁ……)


「どうしたの、海水くん? 顔が真っ青だよ?」

「あ、いや……何でもない」


 玲愛にそう質問されたので、大丈夫と誤魔化した。妬ましく睨みつける非リア三同盟の視線はさておき、俺は玲愛と一緒にイチャイチャな世界に浸ろう。


「ふーふふ~~ん~~」


 玲愛は鼻歌を奏でながら、浮き輪の上で優雅にくつろいでいる。一方、浮き輪の動力部を任されている俺はもうヘトヘトになっていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ねえ、もうバテているの? 早くない?」

「だ、だってぇ……お、泳ぐのは……ぜぇ……ぜぇ……ひ、ひさび……ぜぇ……」

「海水くん、本当に体力ないわね……」

「だ、だってぇ……。運動なんてしないし……」


 段々と足が水の中に沈んでいき、スピードが落ちる。それと同時に太腿が痺れ始めてきた。


「はぁ……ほらほら、頑張って!」

「ふいぃ……!? き、きつい……」


 スパルタ指導のような事を言われて、思わず悲鳴を上げた。これ以上、バタ足したら足がつりそうだ……。


「――ん? アレは……」

「ふぃ……ふぃ……そ、そろそろ、や、休ませて……足が……」

「ちょ、止めて! この先、デンジャラス滝だよッ!」


 バンバンと浮き輪を叩いて、吃驚の声で俺に伝えていた。


「えっ……!?」


 デンジャラス滝……。それは高低差一メートルの滝で、ひな型構造みたいに段々と落ちていくというアトラクションなのだ。

 そのゾーンに近づいたという事は……。この先から五百メートルにも及ぶデンジャラスゾーンに突入するじゃん!


「ヤバいヤバい!」


 このままじゃ、滝に落ちた衝撃で玲愛の何処かがバラバラになってしまう! そうならないように一旦プールから出なきゃ!

 浮き輪の紐を持ち、プールの流れに逆らってプールの端に寄せようとバシャバシャと足を動かしていた。だが、疲労マックスの足ではプールの水流に叶うはずも無く、そのまま滝の方へ向かって行く。

 そのまま俺達は、水流と一緒に滝に飲まれてしまった。


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


 玲愛と一緒にデンジャラス滝に巻き込まれて、ドッバーンと滝つぼに落ちた。


「ぼこ……ぼごごごごごっ!?」


(や、ヤバい……溺れる! は、早く……水面に出なきゃ!)


 視野がぼやける中、俺は必死に水面に向かって泳ぐ。


「ぶはっ!? あばばばっ……!? おぼぼぼ……!」


 水面から顔を出したのはいいが、足が底に着かず溺れかけていた。

 何でもいいから掴めるものが無いか俺は必死に手を伸ばす。そしてガシッと縁みたいなものを掴んだ。


「はぁ……はぁ……た、助かったぁ……!」


 なんて安堵の息を溢した。


「はっ……!? れ、玲愛は!?」


 焦りの気持ちを感じながら、キョロキョロと彼女を探し始める。玲愛は一体どこにいるんだろう……? もしかしたら首か腕が取れてしまっているのでは……? その姿を他の人に発見される前に見つけないと!


「ちょっと、海水くん……?」


 聞き覚えのある声――これは玲愛の声だった。声の方向に振り向くと、玲愛は不気味な微笑みを浮かべながら俺を睨んでいた。

 なんでだろうと思った矢先、手の方へ視線を向ける。

 ――それは玲愛の競泳水着の襟あたりをがっしりと掴んで、少し水着が下がっていたのであった。


「ふぁっ!? なななななななななななッ!?」


 動揺しまい、思わずぐっと水着を下の方へ引っ張ってしまった。


「ヒャッ!?」


 玲愛の短い悲鳴と同時に競泳水着がずり落ち、ぷるんと豊満の二つのメロンが露わになった。


「あ、あわわわわわわわわわッ……」


 ラブコメ漫画であるようなラッキースケベな展開に、俺はドクドクと心拍数が上昇し始めた。


「こ、このぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! バカッ、変態ィィィィィィィッ!!」


 玲愛はどっごぉぉん……と俺の頭上に肘打ちして、プールに沈めた。


「ぼごぉぉぉぉぉッ!?」

「何処触っているのよ!! 変態、変態! バカバカバカバカバカッ! プールに沈んじゃえッ!!」


 罵倒と言う言葉のドライブシュートを放ちながら、ゴンゴンと肘で俺の頭を打ち続ける。


「ぼごぼごごごご……! ば、ばべてくべぇぇぇ!! (痛い痛い! や、やめてくれぇぇぇ!!)」

「バカバカバカバカッ! この変態ッ!!」

「ギャァァァァァぁぁぁぁぁッ!! ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぼこぼこぼこぼこ……」


 玲愛のお仕置きコース……。この状態が十分ぐらい続いたのであった。

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ゾンビイズラブリミック! 本渡りま @yuruio

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