ゲーセンの巻④

「う、うぅ……ん」


 数分後、玲愛のプレイを終えて早速動画を見て悩んだ表情を浮かべていた。なんと言えばいいのだろうか……? ゾンビだからこそ出来る事があると言った方がいいのか……その、一番苦手な連打ノーツとサイドノーツ両方が流れるときの手首の動き方が、グニャグニャと関節を曲げているような動きをしていた。


「どう? 私の腕前を真似て苦手なノーツを拾える?」


 全曲のプレイを終えた玲愛がそう質問してきた。


「う、うぅ……ん――ま、まぁ……エアメイメイで練習すればちゃんと拾えると思うよ……」


 ちょっと歯切れ悪く答える。ゾンビだから関節をグニャグニャと曲げられるけど、俺に玲愛と同じやり方でクリアできるのかちょっと無理があるかもしれない。


「ん……? 音ゲーコーナー混んできたわね」


 玲愛が周りを見回しながらそう言った。俺も周りを見ると、うちの学校の学生たちがぞろぞろと音ゲーコーナーに集まってきた。まあ、顔は見た事があっても知らない人だらけだけどな。


「メイメイもチュウズムも混み始めてきたなぁ……」


 メイメイやチュウズムもプレイするウチの学校の学生が多く集まり、近くのベンチも待つ人で埋まり始めていた。どのぐらい待つのかな……と思った俺は、網ラックの上に置かれたメイメイとチュウズムの二つの順番待ち表の紙を見てみる。この表は三十人ほど記入できる。最初のペケ印10人を除くと、いつの間にか表一面の順番がペンネームで埋まっていた。二枚目の順番待ちの表を見ると、半分ぐらい埋まっていた。しかも、両方ともだ。


(そうか……テストが終わって昼飯を取り終えた人たちがちょうどゲーセンに来る時間帯になったのか……)


 なるほど……それで混んでいるって訳か。


「玲愛、この後どーする? さっきメイメイとチュウズムの順番待ち見たら両方とも三十人ぐらい待っているの。一旦音ゲー止めて違うゲームで遊んでいかないか?」


 この二つの音ゲーはワンプレイ三曲、ボーナスチケット使用でプラス一曲プレイする事が出来る。時間的に考えれば一曲三分前後、三曲で大体一〇分かかる。ここのゲーセンはメイメイとチュウズムの本体機は二台あるので二人プレイできたとしても、三〇人半分で割っても単純計算すれば二時間ぐらいかかる。流石にずっと待つのも嫌だし、他のゲームをプレイした方がいいと考えたのだ。


「そうだね……音ゲー一旦やめて、違うゲームやりましょう」


 そうと決まれば、早速違うゲームコーナへ行こう。


「ぐるぐる歩き回る感じで、面白そうなゲームがあったらそれをやる――そんな感じでもいい?」


「いいよ!」と、玲愛は子供のように元気よく答えた。


「よし、ゲームを探しますか!」


「だね!」


 俺達は音ゲーコーナーを立ち去り、ぶらぶらとゲーセン内を回り歩き始めた。

 最初に、ゲーセンの店内に入ってすぐにあるクレーンゲームコーナーを眺める。フィギュアやでっかい箱に入ったポテトチップスやぬいぐるみなどバラエティー豊かな景品が揃っている。凄いな……等身大の半分ぐらいの大きさのあるぬいぐるみまであるぞ……。このレベルのぬいぐるみは東京ぐらいの都市にしか置いていないって聞いた事があるぞ。それがここにあるなんて……素晴らしいな。ここのゲーセンは!


「うわぁぁ……可愛いィィ~~」と、玲愛はクレーンゲームの景品である半等身のブサかわ犬のぬいぐるみに物欲しそうにべったりと見つめていた。


「――玲愛、このぬいぐるみ欲しい?」


 ブサかわ犬のぬいぐるみを見つめる玲愛に欲しいか尋ねる。


「うん、欲しい!」と、即答で答えた。


 なるほど……欲しいのか。よし、彼女――玲愛のためにこのぬいぐるみをゲットしよう。


「よっしゃー! 絶対にゲットしてやるぜぇぇぇ!!」


 気合のある声を上げて、さっそくワンプレイ分のコイン――百円を投入した。

 ピロピロという音楽が鳴ると共にクレーンを移動するボタンが光り始める。ボタンを押す前にちょっと場所の位置を確認しよう。ぬいぐるみの位置は、前から見て真ん中よりの二つの突っ張り棒の上に置かれている。攻略方法は、クレーンで少し持ち上げて落とす方法がベストだな……。

 俺は最初に一番――横に進めるボタンを押した。前から見たぬいぐるみの位置を確認し、今度は二番――奥に進めるボタンを押した。


「よしよし……行けるか?」


 くいっとクレーンのアームがぬいぐるみの頭を掴むがスポッ……と抜けてしまった。ちょっとだけぬいぐるみを動かす事が出来たが、突っ張り棒に留まったままだった。


「あっ……惜しいぃィィ!」


 隣で玲愛が嘆いていた。確かに惜しいが……あと少しぬいぐるみを動かせば下のゲットボックスに落ちるはずだ!

 そう捉えた俺は再びワンプレイ分のコインを投入し、ゲームを再開する。


「よ、よし……今度こそ――」


 アームの移動位置はさっきのやり方で間違いない。後はぬいぐるみが突っ張り棒から落ちてくることを願いたい……。

 一番のボタンを押して真ん中に寄せて……。二番のボタンでぬいぐるみの頭に持ってきて……。


「そこだッ!!」


 ぬいぐるみの頭を掴み、スポッ……と抜ける。少し傾いたが頭から倒れ込んで、結局ぬいぐるみはゲットボックスに落ちる事は無かった。


「ぐっ……そう簡単には落としてはくれないか……」


 ギリっ……と歯ぎしりする。こいつは結構手ごわいかもな……重力が足の方に行けばゲットボックスに行けるが、頭になれば落ちない……。と、とにかく、頭を持ち上げて突っ張り棒を滑らせば行けるかも!


「よ、よし……今度こそ――行けるッ!!」


 今度こそ取れると確信した俺は、再びワンプレイ分のコインを投入し、ゲームを再開した。



 ――数分後、大きな進展がないまま二十四回のプレイが終わった。


「ぐ、ぐぐ……な、何故取れない……? さ、さっきから同じ所を攻めているのに……ぬ、ぬいぐるみが全然落ちない……」


 がくり……と膝を崩して、まるで戦闘中に負傷した兵士のようなポーズをしながらクレーンゲーム機を睨んだ。

 何度もトライしてみたが頭の方に重力が行ってしまい、そのまま前のめりに倒れてしまう……。くそぉ……い、一体どうすれば取れるんだ……?


「なかなか取れないね……」と、後ろでずっと見ていた玲愛が呟く。


「あぁ……頭が逆なら簡単に落ちるんだけど、頭を上げて落とすのは難しい……甘く見ていたのかなぁ……?」


「でも、もう少しなんでしょ?」


「まあな……もう少しだけ、待ってくれないか?」


「うん、分かった」と、玲愛は笑顔で頷いた。


 くっそぉ……十回以内で取れると思ったけど、思った以上に難しいな。そろそろ取らないとお金が無くなっちゃう……。小銭が空になる前に決めないと!


(よし……行くぞ!)


 本日二十五回目のワンプレイ分のコインを投入し、ゲームを再開する。アームを真ん中に寄せて……一旦横からぬいぐるみの位置を確認して、二番のボタンを押す。ぬいぐるみの頭をアームが掴むと、今まで起こらなかった急斜面になった。


(さあ、行けるか……?)


 アームが前に動く。そして――ぬいぐるみは突っ張り棒を滑り、ゲットボックスに入った。


「よ、よっしゃぁぁぁ!!」


 やっとゲットしたぜぇぇぇ!! よっしゃ、よっしゃッ!!


「ゲットできたの!?」


「あぁ! ほら、この通りぬいぐるみをゲットしたぜ!」


 玲愛にドーンとゲットボックスから取り出したぬいぐるみを見せつける。やった……時間かかったけど、やっと手に入れた。


「玲愛――」と、少し緊張しながら彼女の名を言う。


「はい、プレゼント。その……初デート記念として……」


 もじもじと頬に熱を籠らせながら、先ほどのゲットしたぬいぐるみを玲愛にプレゼントした。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………あ、ありがとう!」


 告白以来 (?)のとびっきりの笑顔でお礼を言い、早速ぬいぐるみをギュッと抱きしめた。


「どういたしまして――」


 ふふっ……と微笑みながら、笑顔で喜ぶ彼女を見つめていた。


「ん……? バイブレーション?」


 突然玲愛はポケットからスマホを取り出して、何かを見ていた。すると笑顔から一転、動揺した表情になっていた。


「あっ……ヤバッ! 今日、バイトの日だった! えっと……今の時間は、十五時――バイトのシフトは……うげっ!? 一六時からっ!?」


 意味もなく右往左往しながら動揺する玲愛。


「ど、どうしたの!?」


「海水くん、本当にごめん! 今日、バイトがある事すっかり忘れていた! 悪いけど、今日のデートはここまで……ほんとーにごめん!!」と、バイトの日だったことにペコペコと謝っていた。


「あ、あぁ……そうなんだ」


「本当にごめん! そ、それじゃ! ま、また来週ッ!!」


 そう言い残した後、玲愛は全速力でバイト先へ向かって行った。


「――バイト間に合う――痛っ?」


 べちんと顔面に柔らかい棒みたいな物が当たった。一体なんだろうとそれを手に取る。それはビクビクと指が蠢く玲愛の右腕だった。


「――ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! ちょッ! 玲愛ぁぁぁぁぁぁッ!!」


 すっぽりと取れた腕を返そうと店を飛び出し、全速力で駆け抜けて行った玲愛を追いかけた。


「バイト、バイト、バイトぉぉぉぉ!! 遅刻しちゃううううううううう!!」


 玲愛はバイトの事を考えて腕が取れた事に気が付いてないし、いつの間にか彼女の姿が点になるほど遠くまで行ってしまった。


「ちょっ……玲愛ぁぁぁぁぁぁッ!! バイト行く前に、右腕が取れた事に気づけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! お前、ゾンビバレしたらどーするつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 彼女を呼び戻そうと大声で言うが、結局腕の事に気が付かずに消えてしまった。


「――一体、どうすればいいんだ? この――ぴちぴちに蠢く右腕……」


 はぁ……と溜息をついて、俺も家に帰ることにした。あぁ……そうだ、彼女の連絡先を交換するの忘れていた。




 ――こうして、短い初デートは彼女の右腕を残して終了したのだった。




 ※




 ――数時間後、玲愛の自宅。


 バイトを終えて疲労が溜まる中でも、今日の出来事をノートに綴っていた。


『――今日、初めて立夏君とデートした。最初に音ゲーで立夏君とマッチングした。私が虹レートのことに動揺を隠しきれない立夏君可愛かった! その後、マッチング勝負してあっけなく私が勝っちゃった。ごめんね、私苦手とか言っているけど音ゲー結構ハマっているの……立夏君に嘘を付いちゃった。てへぺろっ! 最後にやったクレーンゲーム、立夏君すごかった。諦めてもおかしくない状況だったのに、私の為に諦めずにプレイしていた。そして、二十五回目でやっとぬいぐるみが取れ、プレゼントしてくれた。本当に嬉しかった。これは忘れられない初デートになりそうかも……。もっと遊びたかったけど、バイトを入れた事をすっかり忘れてしまった。今度、バイトのシフトが無い時にデートするようにしよう。』


 ふぅ……とシャーペンを置き、ぐっと体を伸ばした。


「はぁ……デートは楽しかったけど、バイトはきつかった……右腕は何処かに落としちゃうし……」


 がしっと……右肩を掴む。どこで無くしちゃったんだろうか? 時給のいい地元のホームセンターでやっているけど、右腕が無いせいで荷物を運ぶの大変だった。なんせ、ホームセンターのバイトは殆ど荷物運びだもんなぁ……。まあ、店長が途中でレジの方に回してくれたのは嬉しかった。


「とりあえず、明日と明後日は土日だしゆっくり探してみよう」


 立夏君からのプレゼントのぬいぐるみをむぎゅっと抱きしめて、布団の上に寝転がった。


「ふぅ~~ふぅふふん~~ふふっ……立夏君、最高のプレゼントをくれてありがとう」


 なんて、微笑みながら立夏君に感謝した。本当に忘れられない初デートになりそうかも……。


「あー、早く立夏君に会いたいなぁ~~月曜日にならないかなぁ~~?」


 早く立夏君に会いたいと、月曜日が待ち遠しくなる私であった。

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