ゲーセンの巻③ ※

『ランクSS、スコア―――、パーフェクト――、グレート――、グット――、ミス六回』


 数分後――一曲目が終了した。スコアの表示を見て俺ははぁ……と深い溜息をついた。ミスが六回出ちゃった……。やっぱり最初の出だしのノーツを拾うのが難しいなぁ……。


「よっしゃぁぁぁッ! やっとAP取れたぁぁぁぁッ! っしゃ!!」


 隣で玲愛がガッツポーズを決めて喜んでいた。玲愛の奴……めっちゃうまい。最初の出だしのノーツを完璧に拾い上げている。それと……目を疑ってしまうような光景が目に入った。なんと、LV一四のマスターレベルをミスとグット無しのAPだ。しかも、マッチングで表示されているランキングも玲愛に負けている。本当に音ゲー得意じゃないのか? 音ゲー大会に出ても問題なしの腕前だぞ。

 うへぇ……れ、玲愛が!? あのゲームなんてしないイメージがある玲愛が……こんなに音ゲーが上手いなんて……。お、恐れ入ったぜ……。


「ねえねえ、今度は私が曲を選んでもいい?」


 なんて嬉しそうな表情で玲愛は俺に尋ねてきた。


「あ、お、おう……いいぞ」


 くっそぉッ……悔しい。玲愛にかっこいい所見せようと思ったのに……。そうだ……勝負すればいいじゃん……。今度こそ玲愛に勝って見せるって思えばいいじゃないか!


「なあ、玲愛……次の曲、一回勝負しねーか?」

「勝負?」

「あぁ、マッチングのランキングの勝負。負けたら、今日のゲーセン代金はすべて奢るって言うのはどうだ?」

「いいわね、その勝負乗ったわ!」


 この勝負、絶対に負けられねぇ……! 玲愛の腕前はすごい事が分かった。俺が本気を出せば、玲愛の腕前なんて簡単に超えられるんだぜ? フフフ……勝ってみせるぜ!!


「じゃあ、勝負にかける曲の方は――これでいい?」


 隣の玲愛のディスプレイの表示画面を見る。彼女が選んだ曲は、ボカロ曲の『六億年と一夜物語』だ。マスターのLV一二と少しだけさっきの曲よりレベルが低い。けど、前曲の中盤とサビが少しばかりイヤラシイノーツが潜んでいる。そしてこの曲もフルコンは出来ていない。あと、一ミスさえ除けばフルコンボなんだよ! まあ、この勝負で絶対にこの曲をフルコンさせてみる!

 マッチング受付の表示をタッチすると、レベルや設定などの画面が開いた。設定とレベルは変更せず、ポチっと『プレイする』の表示をタッチする。そして彼女の設定を終わるまで待機する。


「準備オッケーだよ、玲愛」

「はいよぉ~~ちょっと待ってね~~」


 ポチポチと操作する玲愛――そして彼女は『プレイする』ボタンを押した。


(さて――いざ、勝負ッ!!)


 カンカンカン……と三拍子が流れ、タンタン……タン~~とのリズムと同時押しのノーツが流れてタップする。その後に円を描くようなサイドノーツが流れて、長押しでタップ。そしてだぁぁん~~と言う一定の音程とホールドノーツをタップする。


(さて……ここからだ。ここら辺で稀にミスする場所だ――気を付けて……ノーツを拾うッ!!)


 問題のノーツに差し掛かる――果たして今回はノーツを拾える事が出来るのか。


 ▽


『ランクSSS、スコア―――、パーフェクト――、グレート――、グット――、ミス一回』


 数分後――二曲目が終了し、俺は愕然とした表情でディスプレイのスコアの表示を眺める。あぁ……今回はサビの連打ノーツの方でミスってしまった。ま、まぁ……ランクトリプルSだし、いい方なのかな? それで勝負の結果は……。


「やったぁぁぁ! 私の勝ちだ! 海水くん、今日のゲーセン代よろしくね!」


 一位抜けで勝利した玲愛は、ヒャッホーと子供みたいに喜んでいた。結局、俺は負けてしまったのだ。くぅぅ……く、悔しい……ッ!! れ、玲愛の奴、またもやAPでクリアしている。な、なんなんだ……三レートの差だけなのに、こ、こんなにも腕前の差があるって言うのか!?


「う、うん……そ、そうだな……ゲーセン代、今日やる分全額支払うよ……」


 どよぉ……ん――と暗い表情をして呟く。か、完敗だ……。玲愛の虹レートには敵わないと思ってはいた。けど、もしかしたらって希望を賭けていたけど……ダメだった。


「玲愛……さ、最後はちょっとソロでやらせてくれないかな?」


 だめだ……玲愛の腕前が凄すぎて、これ以上マッチングしても敵わないや……。初デートでゲーセンの音ゲーで負けるなんて……。音ゲー、上手いって褒められたかったのになぁ……くすん。

 負けたショックで気分が載らなくなった俺は、エキスパートモードで適当な曲をプレイする。はぁ……くっそぉぉぉ……ッ! と内心で叫んでいた。



 数分後、三曲すべて終えた俺は一旦プレイを止め、近くにあるベンチに座り込んだ。


「ねー海水くん~~どうしたの~~? 疲れちゃったの~~?」と、丁度プレイを終えた玲愛が隣に座って俺の様子を伺ってきた。

「す、すげぇ……な、玲愛――な、何で虹レートまでたどり着いたんだ? ふ、普通なら相当やり込まないと到達できないレートだぞ?」


 今まで気になってきた虹レートについて玲愛に質問する。


「なんでって言われても……ただプレイしているとレートが上がるんだよね……。私イライラしていた時、ゲーセン寄ってこのゲームプレイしたんだよ。ゲームが楽しくて、その時のバイト代全部使い切った思い出があったなぁ~~」


 苦笑交じりに説明していた。特殊な事を使って虹レートに達したと思っていたけど。ま、まぁ……音ゲーマーあ、あるあるな事でレートが上がったんだよな。チートなんて使っていないもんね、うん。


「――なあ、玲愛。メイメイの腕前を後ろから眺めてもいいか?」


 玲愛に尋ねた。そうだ、スコアランクで玲愛に負けて悔しい思いをしているなら、前向きに玲愛の腕前を見て学習しよう。


「ふぇッ!? わ、私の腕前をみ、見たいッ!? そ、そんなぁ~~わ、私だって下手だよぉ――」

「頼む見せてくれ! 俺、ずっと拾えないノーツがあるんだ。そこを拾うところ見せてくれッ!」


 ギュッと玲愛の冷たい手を握りしめ、キラキラとした眼差しでお願いする。


「は、はわ……あわわわわわわわわわわわわわわわッ……わ、私……私……や、やってみまふゅっ!!」


 あ、噛んだ。可愛いなぁ……照れて噛み噛みになって言うの……俺まで照れそうだよ。あと、ゾンビって照れるんだ――初めて知った。


「それじゃ、早速頼むわ!」

「う……うん! わ、わたしゅいに……ま、任せなさぁぁぁぁい!!」


 某きららアニメの名言に似たセリフを言って、玲愛はメイメイの方へ向かった。


「あ、海水くん。お金、ちょーだい!」


 キラキラした眼差しでお金を要求してきた。そうだ、さっきの勝負で負けて、俺が今日のゲーセン代全額支払うんだよな……。


「はいはい……」


 財布からワインプレイ分を玲愛に手渡した。


「ありがとー!」


 そう言って、セイミーパスと貰ったワンプレイ分のコインを投入してメイメイを始めた。


「とりあえず、曲の方はどうする? 苦手な曲はなんなの?」


 楽曲選択画面が表示されたディスプレイが映った後、玲愛が訪ねてきた。


「そうだなぁ……とりあえず、最初やった曲をお願いするよ」


 ベンチを立ち、玲愛がプレイする場所の隣に並んで答える。


「あ、言い忘れていたけど、見ているだけじゃ分からないところもあるから動画撮ってもいい?」

「ふえっ……ど、動画撮るの!?」

「大丈夫、ネットには流さない個人利用だけだから」

「そ、そう……ならよかった――それじゃ、行くよ」

「う、うん……」


 そう頷いた後、俺はスマホを取り出してビデオカメラモードにし、早速録画を始める。さて……虹レートが取れる腕前見せてもらおうじゃないか。


 そして――彼女の腕前を発揮する瞬間を目撃したのであった。

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