昼食とラブコメ 玲愛side

 ――立夏君と付き合って二週間になった。付き合って変わった事と言えば、彼との喋る機会が増えた事、昼食の時には一緒に食べるようになった。隣の陰キャと最近一緒に居る事が多くなったね……ってディスり交じりに友達から言われている。入学以来から惚れて以降、ずっと彼を遠くから眺めていた時期は終わって付き合えたんだ……って実感してきた。


「ふぅ~~ふふん~~」


 私は鼻歌を奏でながら、窓の向こうに映る学校の中庭を眺めていた。


「あ~~うれしいなぁ~~私、やっと付き合う事が出来たぁ~~」


 なんてウキウキした気持ちになっていた。あれから二週間――あっという間だよなぁ……。昼食を一緒に食べたり、一緒に勉強したり、途中までだけど一緒に帰ったり……二週間と一日前は全然出来なかったんだよ!? 恥ずかしくてッ! 恋愛相談しなかったら、この二週間……こんな事出来なかったよ!? 相談してよかったぁぁ~~! ありがとう、雪菜ちゃん!


「ふふ~~ん……ん~~?」


 ふと……何か物足りないような気がした。付き合っていて、何か足りないもの……連絡先は聞いたし、デートはしたし……なんだろう、基本的な事を忘れているような?


「最近、ラノベにハマって――――」と、近くでクラスの生徒が趣味の話をしていた。


 趣味かぁ……立夏君の趣味ってなんだろう? ――そう言えば、立夏君の趣味も特技もなーんも知らないよね。入学早々のホームルームの時にクラス全員自己紹介していたのは覚えているけど、その時に立夏君が何を言っていたのか思い出せないぃぃぃっ!!


(そ、そうだわ……今日の昼休みに立夏君に趣味とかいろいろ聞いてみよう)


 そう考えると、授業開始のチャイムが鳴り響く。


(さて……授業の準備しよ)


 席について、いつでも授業出来るように準備した。



 授業が終わり、昼休みがやってきた。私は斜め前の席に着いて一週間前から始めた立夏君と一緒に昼食を食べ始める。今日の私の昼食は、私特製の手作り弁当だ。ハンバーグと卵焼き、野菜やミートボールなど基本的に人気のあるおかずとのりたまのふりかけご飯だ。立夏君はコンビニの惣菜パン5つだけだ。

 モグモグ……モグモグ……うん、我ながら手作りのハンバーグと卵焼きは格別に美味く出来上がっている。ハンバーグは冷めても硬くなっていないね。


「お、玲愛の弁当、美味しそうだな」と、立夏君は私の特製弁当を眺めていた。


「へへへっ! この弁当、私の手作りなんだ!」


「ふぇ~~すげぇなぁ……作るの大変だろ?」


「ま、まあね……ハンバーグと卵焼きは私の手作りで、他のおかずは冷凍食品からだけどね」


「ふむ……なあ、玲愛のハンバーグ食べてもいいか?」


「ふぇっ!? は、ハンバーグたたたたたたたっ!?」


 り、立夏君から、そ、そんなこと言うなんて……ま、まるでこの前図書館で読んだラブコメ漫画な展開じゃないッ!


「何動揺しているんだ? まさか……」


「ま、不味くないよ! と、とりあえず、食べてみてっ!!」


 ハンバーグを箸で取り、彼の口にスポンとそれを押し込んだ。


「むもっ!? モグモグ……モグモグ……」


 モグモグ……と味わいながら食べる立夏君。


「ど、どう……?」


「おっ……このハンバーグ、柔らかい。冷めると硬くなるって聞いたことあるけど、硬い感じがしないし、ジューシーな味わいだ!」


「そ、そう……よかったぁ……!」と、不味くなくてよかったと安堵の表情を浮かべ、再弁当を食べ始めた。


(あれ――私いま、立夏君の口に突っ込ませた箸でそのまま食べちゃった……あっ、こ、これってもしかして間接キス――?)


 間接キス……と立夏君にハンバーグを突っ込ませた光景を思い出した瞬間、やかんが沸騰したように急に顔全体が熱くなってきた。そ、それに……バクンバクンって止まっている筈の心臓の鼓動がき、聞こえるッ!?


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……わわわわわわわわわわわわッ……」


 き、キス……間接的だけど、き、キスしちゃったのッ……? 立夏君の唾液が混じった箸をそのまま私の口に――――――!


「……ん? 玲愛、顔が真っ赤だぞ?」と、心配そうな表情で私に声をかけた。


 や、ヤバいッ……立夏君が……、ま、松〇潤みたいに、か、カッコよく見えるよぉぉ……か、間接キスのせいなのっ!? あ、わわ……、わわわッ……!


「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃッ!!」


 キスの事で頭がいっぱいになった私は、我を忘れて手作り弁当を飲み物のようにがっついて食べた。


「ぐっくん……むむむっ!?」


 噛んで食べているのか……分からないまま食べたので、喉を詰まらせてしまった。水を飲まなきゃ……と、ペットボトルのお茶を一気に飲み干した。


「ぶはぁぁッ……ごちそうさまでした」と、完食した。


「は、はや……」と、あっけない表情で私を見つめる立夏君であった。


 なんだろう……早く食べたせいなのか、さっき頬の熱とドキドキが治まった? ふ……ふぅ……と、とりあえず治まってよかった。


(あれ……私、立夏君に何か話そうとしていたけど、何だっけ――――そうだ思い出した。立夏君の事、質問しようかと思っていたんだ)


 三時間目開始前に、立夏君に聞きたいと思っていた事を思い出して、早速「立夏君」と声をかけた。


「なんだ?」


「その……海水くんの事を知りたいなぁって思って……、趣味とか、誕生日とか……うん」


 もじもじと恥ずかしそうに立夏君に質問する。な、なんで、か、硬い片言で質問しているの!? も、もう少し柔らかく言えないの、私っ!


「うーん、俺の事を知りたいかぁ……陰キャで大人しくて目立たないキャラだし。これと言って、すごい事をやり遂げた事なんて無いぞ」


「へ、へぇ……そ、そうなんだ」


「陰キャ」って自虐な事を言っている……何かごめん、立夏君。


「誕生日は7月3日で――」


 誕生日は7月3日と――手帳にメモった。って後二週間で立夏君の誕生日じゃん! 誕生日プレゼント何にしようかなぁ……?


「趣味かぁ……色々あるからなぁ~~アニメとか漫画、鉄道模型を集めるとかな……?」


 フムフム……立夏君はアニメオタクか。失礼だけど、雰囲気がアニオタだって言っているもんね。


「玲愛はアニメを見たり漫画や小説を読んだり……している?」と立夏君は質問してきた。


「うん、アニメや漫画は結構好きな方だよ」と答えた。


 私は去年からライトノベル――特にラブコメ作品の方にハマっている。理由として立夏君と付き合う為にはどうすればいいのか……ヒントになるかもしれないと思ったからだ。


「そっかぁ~~玲愛も、アニメとか漫画を嗜んでいるのか。よかったぁ~~こういう話を女子の前でやるのって、嫌われるかもって思ったのよぉ~~」


 なはははっ……と笑っていた。立夏君……多分、その概念は古いと思うけど……。


「そ、そんな事無いよ……海水くん」と、苦笑交じり言った。


「な、な、玲愛って漫画のジャンル、何が好きなの?」


 ふぇっ……ぐ、グイグイと攻めてきたぁぁぁ……!


「え、えっとぉ……私、ジャンルで言うならラブコメかな?」


「ラブコメかぁ~~俺も好き。ピュアな恋をしたいなぁ……って思いながら、読んでいたんだよなぁ……」


 わかるわかるッ! ラブコメ小説とマンガ読んでいると、本当にピュアな恋をしてぇぇ……って思っちゃう。あ、つ、付き合っているし、恥じらいがあるからピュアなだよ! 私たちの恋はッ!!


「お、そうだ。ラブコメで思い出した――」と言って、がさがさとリュックサックを漁り始めた。一体何を探しているんだろう……?


「お、あった。玲愛に勧めたいラブコメ小説があるんだ♪」


 リュックサックから文庫本サイズの本を取り出して、私に手渡した。


「ん?」


 それを取って見ると、可愛らしい女の子とメガネ男子の表紙が描かれたラノベだった。タイトルは――


「『メガネ男子の不器用な恋?』……」


 これは聞いた事も読んだ事も無いラノベだな……。


「これ一昨日発売されたラノベなんだけどさ――一言で言うなら、不器用な恋だけどピュアな恋――って感じかな?」


「不器用な恋でもピュアな恋?」と、私はオウム返しに質問した。


「うーん……なんと言えばいいかなぁ……説明するとこの本のネタバレになっちゃうからなぁ……」


 ネタバレ……か。そう言われちゃうと、聞くのを躊躇っちゃうな……。


「じゃあ、うん……ネタバレなら、聞かないでおく」


「ありがとう。それじゃ、この本を貸すから読んでみて。すっごい面白いから!」


「え、いいの? だって――」


「あぁ、俺は今日の朝で読了したから。読んでもいいよ」


 は、はやぁ……読むの。一昨日発売して、今日の朝読了……読書するの結構早い方なんだぁ……立夏君って。立夏君がお勧めしてきたラブコメ小説……どんなお話なんだろう? 面白いって言うなら、読んでみようかしら? それに……これ読んでどういう風に彼と接するのかなど、この小説のお話が今後の付き合い方について勉強になるかもしれない。


「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて、借りるね……」


 そう言って、本を私のカバンの中に仕舞った。次の休み時間か家に帰ったら、じっくり読もう。


「あっ……やべっ! もうこんな時間!? 化学基礎の授業、今日は実験やるんだった!」と、言ってむしゃむしゃと惣菜パンを平らげて、いそいそと授業の準備をしていた。


「え、もう!? いくらなんでもは――うわわっ! 一三時二〇分!? わ、私、次体育だぁぁッ! う、運動着に着替えなきゃッ!! そ、それじゃ、海水くん! ま、またあとでぇぇぇぇ!!」


「お、おう」


 バタバタと空の弁当箱を片付けた後、廊下にあるロッカーから長袖の体操着が入った袋を取り出して更衣室へ向かった。

 くっそぉぉ……! ここで昼休みがタイムアップ直前になるなんてぇぇぇぇ! もう少し立夏君の事、聞きたかったっ!!

 涙交じりに叫んで、更衣室で体操着に着替え始める私であった。




 ――ま、まあ……うん、今日は立夏君の事、少しだけど知る事が出来てよかった。立夏君の誕生日プレゼント……どうしようかな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る