玲愛の家に行こう ①※

 ――今日の授業が終わり、帰りのホームルームの時間がやってきた。担任のつまらないお話を聞いて終わる……そう思っていた。

「はい、気をつけて帰ってね。以上です!」

 今日は珍しく副担任の先生が帰りのホームルームを仕切っていた。短い言葉を告げた後、クラスメイト達は部活に向かったり帰宅したりしていた。


「あぁ……づがれだぁぁぁ!」


 俺はぐぅぅ……と背伸びする。


「今日も疲れたね……」

「あぁ……今日から体育、水泳始まってなぁ……。やっぱり、塩素水で体と髪の毛がベタベタすらぁ~~」


 そう、今日から体育の授業が水泳になった。泳ぐのは苦手じゃないけど、塩素水が髪の毛に張り付いて気持ち悪い。まあ、プール上がりのシャワー浴びて塩素水が取れたと思うけど……。


「女子が言いそうなセリフを言うね……」

「だってぇ……気持ち悪いじゃん」

「はははっ……」


 なんて、苦笑している玲愛の姿を眺めていた。

 しかし、付き合ってからこうやって何気ない事で話す事が多くなったなぁ……。付き合う前は、嫌っているような目つきと口調で話そうって思わなかったもん。


(こうやって彼女を見ていると、『孤高の黒姫』と呼んでいたのも昔の話か……)


 一年前の彼女は、学年トップの成績、運動神経よく、お淑やかで友達も作らない物静かな少女。誰も近づけられない孤高の存在で、黒髪のお姫様――『孤高の黒姫』と全校の男子生徒の中で玲愛はそう呼んでいた。一年前の俺だったら、まさかあの彼女と付き合うなんて驚愕していただろうな。


(くぅぅ!! あの玲愛と付き合えるなんて夢じゃないよな!? めっちゃ嬉しいわ! 彼女に会うたびにドキドキするもん! あはぁ……)


 現実世界で付き合えた事に対して、ニマニマと頬を緩ませていた。


「ね、ねぇ……り――海水くん!」と、玲愛は顔を真っ赤にして俺を呼んだ。

「ん? どうした、玲愛? 顔を赤めて……」


 心配そうに俺は彼女を見つめた。どうしたんだろう……? 風邪引いたのか……? いや、よくよく考えたら彼女はゾンビだよ? ゾンビって風邪ひくのか? まあ、それよりもゾンビとはいえ顔真っ赤にして一体どうしたんだ!?


「その――き、今日、私の家に遊びに来れる!?」


 彼女は、恥ずかしそうな口調で家に来ないかと誘ってきた。


「――ふぁっつっ!? でででで、ヴぁおヴぉヴぉヴぉヴぉ……!!」


 それを聞いた瞬間、俺は突然の事に思わず動揺してしまった。

 い、今なんて言った!? れ、玲愛の家に遊びに来ないかと誘ってきた!? ゆ、夢じゃないよな……!? とりあえず、頬を抓って夢かどうか確認する。


(いてて……ゆ、夢じゃない!? 夢じゃないなら……玲愛の家に遊びに行くぜ!)


「いいいいいいいいいっ! いいのッ!? ふぇふぇふぇッ! ままままま、マジでかッ! 行く行く!」


 動揺した状態のまま、俺は遊びに行くと答えた。

 付き合い始めてから、ずっと玲愛の家に行きたいって思っていたんだ! でも、玲愛の家に遊びに行ってもいいかって尋ねるのって、ちょっと恥ずかしかったんだよなぁ……。玲愛から誘ってくれるのは驚いたけど……、とりあえず玲愛の家に行けるぞ!


「それじゃ、早速玲愛の家に行こうぜ!」


 そう言って俺は颯爽と教室を飛び出して、玲愛の家に向かった。


「え、ちょっ……待ってよぉぉぉ! 海水くぅぅぅん!! 私の家、知らないでしょぉぉ!!」


 教室にいる玲愛が大声でそう言うと、俺はずこーっ……と滑り込むようにコケてしまった。


「そ、そうじゃん……玲愛の家、知らないじゃん……ガク」


 敗北した雑魚キャラみたいなポーズを取って、玲愛がやってくるまで冷たい廊下の上に寝転んでいた。

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