玲愛の家に行こう ②※

 数分後、俺は荷物の準備で遅れた玲愛と合流して一緒に彼女の家に向かっていた。


「玲愛の家って、何処にあるの?」

「もうそろそろ到着するわ」


 玲愛はそう答えた。ここは学校から歩いて数分、周りは住宅が無く田んぼしかない。


(本当にこんなところに家があるのか?)

「あれ、あれが私の家よ」


 玲愛は家の方向へ指差しする。その方向へ視線を向けると、田んぼのど真ん中にぽつんと建つプレハブ小屋だった。


「あれか……って、何でプレハブ小屋に住んでいるの!?」


 アパートに住んでいるかと思っていたけど、何も無い田んぼのど真ん中に住んでいるの!?


「お隣さんにゾンビバレしない為。万が一バレたら、住めなくなるじゃん」

「そ、それでも……ちょっと、寂しすぎないか?」


 ゾンビバレしない為とは言え、田んぼの中にぽつんと建つ家に住んでいるなんて……。俺だったら寂しいと思う。


「全然――寧ろ落ち着くわ。まるで北海道の広い農地のど真ん中に一軒家……静かで心が落ちつくのよ――」


 玲愛は、ぐぅぅっ……と手を広げて草原に寝転がるようなポーズをしていた。


「そ、そう……」と、相槌を打った。


 確かに心を落ちつけると思うけど、何も無いとなんか不便じゃないか? コンビニやスーパーなんて見当たらない場所に住みたくないなぁ……。

 なんて考えていると、家の玄関の前に立っていた。玲愛はガチャリと鍵を開け、家に入った。


「さ、入って、ちょっと散らかっているけど……」

「お、おう……お邪魔します」


 ドキドキと心臓の鼓動を高鳴らしながら玲愛の家に上がり込む。最初に、玲愛の家の中をキョロキョロと目を回し始めた。

 プレハブの家って初めて見るけど、台所と部屋が全て一体になっているんだ。エアコンもあるし、トイレもある。風呂場はスペースの関係上、設置しなかったんだ。

 あと、ゴミや衣類などが床に散らかっている。なんか、一人暮らしのサラリーマンみたいな生活を送っているみたいな環境だった。

 女子の部屋って、お洒落なデコレーションをしていると思っていた。しかし、この部屋はそのイメージとは大きくかけ離れているなぁ……。もう少し華やかな感じに模様替えすればいいのに……。


「どうしたの?」


 キョロキョロと部屋を眺める俺を見た玲愛は質問する。


「あ、いや……こういう家、初めてだからさ……。気になるというか……」

「ふぅん……まあ、いいや。とりあえず、適当に座って」


「うん」と頷いて、適当な場所に座る。


「――――」


 落ち着きなくソワソワしながら、彼女の部屋をもう一度眺める。


(うぅ……なんだか緊張するなぁ……。そう言えば、同い年の女子の家に遊びに行くのって初めてなんだよね……)


 俺は小学校の時は男子と校庭で遊んでいる事が多かったし、中学の時は女子との関りなんて希薄だった。その為、女子の家に遊びに行くなんて人生で一度も無かった。


(ま、まず何しようかなぁ……? そうだ……家で遊ぶならゲームだよね! 今日、スゥイッチを持ってきたんだ。


「玲愛。早速だけど、一緒にゲームしよーぜ!」


 俺はリュックサックからスゥイッチを取り戻して、玲愛に尋ねた。

 スゥイッチとは、綿天堂から発売されている家庭用ゲーム機だ。このゲームの魅力は、持ち運びプレイとテレビ画面でプレイの両方が出来る。

 両端に付属しているコントローラーは取り外し可能である。一つのコントローラーとしても使用できるし、二人プレイで使用する事もできる。最近になって持ち運び限定のスゥイッチライトが発売され、今話題のゲーム機なのだ。

 俺が持っているのは、持ち運びやテレビ画面のプレイが出来るモデルである。


「ふぇっ!? す、スゥイッチッ!? も、持っているの!?」


 玲愛は驚きながら、まじまじとスゥイッチを眺めていた。


「うん、今日は持っていくべきだなって思って持ってきた」

「よ、用意周到……だね。しかし、スゥイッチってこんな形しているんだね。いいなぁ~欲しいなぁ~」

「ライトの方だったら、ネットショッピングで二万円出せば買えるぜ」

「うっ……に、二万円!? た、高いなぁ……でも、一週間ご飯抜きにすれば買えるかなぁ……ううん?」


 買うか買わないか……玲愛は腕を組んで悩んでいた。まあ、一人暮らししている玲愛だと、スゥイッチって気軽に買えるものじゃないからなぁ……。


「あはは……」


 苦笑しながらコントローラーを取り外し、テーブルの上に本体を置き、電源ボタンを押した。


「ほい、コントローラー」


 先ほど取り外した片方のコントローラーを玲愛に渡した。


「あ、あうん……ありがとう」

「早速、何のゲームやる? 色々あるぞー! レーシングゲームや、電車運転ゲーム、にゃんにゃんメーカーもあるよ」


 コントローラーをポチポチ弄って、どのゲームをやるか尋ねる。


「うぅん……ど、どうしようかなぁ? と、とりあえず知っているゲームのにゃんにゃんメーカーで……」

「オッケー、にゃんにゃんメーカー2……ポチっと」


 決定ボタンを押してゲームを開始する。


「ローディングしている間、スマホのテザリング機能をオン、ゲームをオンライン接続して……」


 ポケットからスマホを取り出して、テザリング機能をオンにした。これなら、オンラインでプレイできる。


「ねえ、このゲーム、オンライン専用なの?」と、玲愛はそう質問してきた。


 そうか……玲愛の奴、このゲームの仕組みを知らないんだっけ……。ややこしくないように説明しよう。


「んにゃ……。オフラインでもできるけど、オンラインなら世界のクリエイターが作ったコースをプレイできるんだ」

「世界のクリエイターが作ったコース……?」と首をかしげる。

「あ、そこから……まあ、簡単に言えばにゃんにゃんのコースを好きなように作れるんだ。そして作ったコースをネットで公開して、世界の人々にプレイしてもらうんだ」

「へ、へぇーそうなんだ。にゃんにゃんのゲームは昔よくやった事あるけど、コースを作ってみんなで遊ぶ時代になったのねぇ……」

「まあな……。ゲーム画面が表示したら、早速バトルしようぜ!」

「う、うん……」


 こくこくと頷く様子を眺めていると、『にゃんにゃんメーカー2』とタイトルコールが流れた。


「お、ゲームが始まった。とりあえず……世界のコースを選んで――」


 ポチポチとコントローラー流暢に操作して、世界のコースを選んだ。


「――そうだ、玲愛。コントローラーを操作方法は分かるか?」

「いや……分からないわ。教えてくれないかな?」

「うんとね……基本操作は、スティックが移動、Aボタンはジャンプ、Bボタンがモノを掴む事が出来るんだ」


 玲愛の後ろを回り、コントローラー操作方法を教える。しかし玲愛は、うぅん……と表情を険しいままコントローラーを睨んでいた。


「ま、実際にプレイの様子を見た方が早いな。簡単なコースでお手本を見せるべ」

「お願いします」


 一旦タイトル画面に戻って一人でプレイを選ぶ。俺が作った適当のコースをプレイしながら、コントローラー操作をレクチャーする。


「フムフム……こうやってこう……」


 玲愛はくっつくように近づき、コントローラーと画面を交互に眺めながら操作を確認していた。


(うぉっ……れ、玲愛が近くで見ている!?)


 その光景を見て、俺は驚きと興奮の感情が沸き上がってきた。


(おぉ……玲愛からいい香りがする)


 無意識に鼻で空気を吸うと、ラベンダーの匂いが入り込んで鼻孔をくすぶる。


(流石にダメだ……匂いで興奮してしまう……。プレイに集中できない……)


 玲愛との距離とラベンダーの匂いと言う二つの媚薬が、俺の体を蝕んでいく。これ以上蝕まれたら――もう我慢できなくなる! 俺のビックマグナムが彼女を穿ちたい……変態的な欲情が頂点に達する前に!


「玲愛……その、ちょっと近い」と言った。

「え……ふぁっ!? ご、ごめんッ!!」


 玲愛は、かぁぁぁぁ……と頬を紅潮させてすぐさま離れていった。


(うぅ……た、助かったぁ……。けど、もう少しだけくっつきたかった……)


 なんて思いながら操作を続けると、敵キャラが現れた。


「玲愛、ここで敵があるからジャンプして避けるんだ」


 Aボタンを押してジャンプし、軽々と敵を避けた。


「――玲愛、どうした? 顔が真っ赤だぞ?」


 反応が無かったので、彼女の方へ視線を向けると頬を真っ赤にしていた。しつこいようだけど、ゾンビって頬って真っ赤になるの? いっつも気になるんだが!


「あ、いや、その……大丈夫だよ! そ、それよりも早く世界のコースでバトルしようよ。コントローラーの使い方、分かったからさ!」


 なんて動揺しながら、早くゲームプレイしようと提案してきた。


「そ、そうだな……それじゃ、早速二人でバトルするか!」

「うん!」


 そんな訳でレクチャーを終了し、早速世界のコースでバトルを始めるのであった。

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