倉宮玲愛は留学生に嫉妬する 前編 玲愛side

 ――遅い梅雨明けがやってきた六月末。もうすぐ期末テストと夏休みが近づく中、今日のクラスメイト達はある話・・・で盛り上がっていた。


「おい、聞いたか!? 今日、この学校に留学生がやってくるって――」


「あぁ……聞いた聞いた! 一体誰が来るんだろうな――」


 ある話――それは今日このクラスに留学生がやってくるのだ。今朝、留学生とその両親が校長や先生たちと挨拶しているところを何人か目撃していたらしい。何でも金髪の少女でまるでアイドルグループの一人みたいなキュートで可愛いとか……色々留学生に関する話が飛び交っている。


「学期末に留学生ねぇ……」と顔を私の方へ向いた立夏君がそう呟いた。


「だね……、普通なら二学期の始まりの方がキリいいのにね」


「まあな。それにしてもこの学校に留学したい奴がいるんだなぁ……。普通なら私立か頭のいい県立高校の方へ行くんだけどねぇ? そう思わねーか玲愛?」


「ま、まあ……そう思うけど、ここでしか学べない授業があるから留学してきたんじゃないかな?」


「ここでしか……ねぇ……」と立夏君がボソッと呟くと同時に担任の先生が教室に入ってきた。


「おはよう!」という挨拶をすると同時にクラスメイト達は自分の席に着き、朝のホームルームが始まった。


「えー今日からこのクラスに海外からの留学生が来ました。みんな、仲良くしろよ。それじゃ、入ってきて」


 先生が廊下の方を向いて言うと、一人の少女が教室に入ってきた。ぴょこんとアホ毛が生えた金髪、エメラルドグリーンの宝石を埋め込んだようなキラキラとした翡翠色のまん丸な瞳、まるでアニメの某アイドルアニメのキャラが現実世界に飛び出たようなスタイルのいい少女だった。少女は教壇に立ち、みんなと目を合わせていた。


「ゴホン……皆さん、コンニチワ~~! イギリスのスコット聖堂女学院からやってきましたエレン・スペンサーデース! 今日からヨロシクデース~~!!」


 アイドルがやるピースポーズしながら、少女――エレンは自己紹介した。テンション高いな……。私なんて、入学式の時はぼそぼそ声で自己紹介していたからね!

 よろしく……と私も含むクラスメイト達はテンション低く挨拶し、軽く歓迎の拍手をした。


「オロ……? み、皆さんテンション低いデース!?」と、クラスメイトのテンションの低さに戸惑うエレン。


「あはは……ま、まぁ……そんな訳だから彼女と仲良くしていこうな!」


 ちょっと苦笑いしながら、先生はとりあえず話をまとめた。


「そうだ、次の現代国語の授業に席替えするぞ!」と、ホームルームが終わる前に先生はそう言った。二時間目の現国の時間に席替えするって事は、今日の授業進まないな……まあ、それよりも――


(つ、遂に……この時が来てしまったぁぁぁぁ……!!)


 私はこの事に頭を抱え始めた。席替えする事は、隣の立夏君の席と離れてしまう。そうなると気軽に話しかける事が少なくなってしまうッ!!


「うわぁ……立夏君と離れたくない……また隣どうしになってくれないかなぁ……?」


 なんて席替えする前からビクビクする私であった。


 ▽


「それじゃ、席替えを始めるぞー!」


 チャイムと同時に現国授業の担当――担任の先生がそう告げた。


(う、うわぁ……つ、ついに来てしまった――席替え……どうなるかなぁ~~?)


「いつも通り、くじ引きでやるぞ。最初は留学生のエレンから」


「ハーイ!」と返事して、スマホのくじ引きアプリを使ってくじを引いた。


「オー、7が出たデース!」


「7……それじゃ、窓側の列から順番に来て」と、先生が窓側の列の席にいる生徒たちを呼びかけた。その中に私も含んでいたので席を立ち、くじ引きの待機列に並んだ。まあ、もうすぐなんだけどね……。

 そして数分も待たずに私の番になり、躊躇せずにくじを引く。画面を見ると、出た番号は12だった。これが普通に12番目の席ならいいが、この先生の席の決め方はくじで引いた番号をそのまま席の番号通りにしない。予めランダムで決めた席番号<例えば窓側の列から3、8、13……>で決める。ランダムで決めた席番号の場所は先生以外知らないので、一体何処に席を移動するのか皆分からない状態なのだ。


(12番の席が、立夏君の隣になればなぁ……)


 なんて思っているといつの間にか立夏君の番になっていた。立夏君は私と同じく、すぐにくじを引いて席に戻ってきた。


「海水くん、番号は何だったの?」と質問する。


「21番だった。玲愛は何番なの?」


「12番――」と答えた。


「12番か……また隣どうしの席になれるといいねぇ……」


「だね~~私も海水くんと一緒の席がいい」と立夏君の言葉に同感した。だってそうでしょ? 授業中に立夏君の顔が見れなくなっちゃうし、気軽に話せなくなるし、二人の距離が離れてしまうからなんか嫌じゃん! うわぁぁ……どうなるのかなぁ……心臓止まっている筈なのにめっちゃドキドキする。


 どうしよう……と思っているうちに、クラス全員くじを引き終えていた。


「それじゃ席の場所を発表するぞー!」と言って、新しい席の場所を記したA4紙を黒板に掲示した。それと同時に生徒達は、一斉に掲示された席の場所を確認しに黒板の方へ向かっていた。


 あぁ……いよいよ席の場所が発表される……。一体……どこになるのかな……?


「ねえ、海水くん……一緒に見に行かない?」


「そうだな……見に行こう」


 立夏君とほぼ同時に席を立ち、新しい席の場所を確認しに向かった。


(あぁ……神様、また立夏君と隣どうしの席にしてください。マジでお願いします! もうお金とか要らないから、マジで立夏君と隣どうしにしてください! 本当にお願いします!!)


 新しい席の場所を確認する前に、必死に神様に向けて『立夏君と隣どうしにしてください』と願いを乞う。


「ね、ねえ……海水くん、同時にいっせーのでで見ようよ」


「あぁ、いいぜ」


 ふぅ……と深呼吸した後、いっせーので……と立夏君と同時に新しい席の場所を確認した。果たして、再び立夏君と隣どうしになれるのだろうか―――!

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