玲愛の家に行こう ④※
カァカァ……とカラスの鳴き声が聞こえ始めていた。もう何時間、経ったんだろう?
「はぁ……お、俺の勝ち……だ」
ボソッと呟いた後、ばたりと床に倒れ込む。頭が痛い……久々に頭を使った勝負だった。
あれからずっと玲愛が選んだコースで勝負を続けた。……結果は全部俺の勝ちである。
「――うわぁぁぁん!! 全然勝てなぁぁぁい!! なんでぇぇぇぇッ!?」
わなわなと手を震わせた後、玲愛は泣き喚いてしまった。
「ま、まぁ……その、うん……ドンマイ」
起き上がって、とりあえず玲愛の肩をぽんと叩いて励ました。流石にざまーねーぜ……と言う場面じゃないと思った。
そう思っていると、突然玲愛はタックルするように俺の体に抱きついてきた。
「ちょ……うわっ!?」
「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! さっきの『ちょーよゆーでクリアできるからぁ~~』の発言取り消すから、このコースの攻略教えでぇぇぇぇ!!!」
俺の襟首を掴むと、ぶんぶんと体を揺さぶり始めた。
「ちょッ、玲愛ッ!?」
「おじえでぇぇぇ! それとごめんあざぁぁぁい!!」
ブンブンブンブン……。ヘトバンしているわけじゃないんだけど、頭が激しく揺さぶられて……。うべぇ……気持ち悪くなってきた。うげぇ……は、吐きそう。
「ちょ、落ち着け玲愛! き、気持ち悪くなってきたから……ストップぅ……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁん!!! おじえでぇぇぇぇぇ!!」
「分かった、分かったから! 教えるから! とりあえず揺さぶるのを止め――痛ぁッ!?」
「きゃっ!?」
ゴッツン……と双方の額がぶつかり、スポン……と何か抜ける音が聞こえた。
「いたたた……だ、大丈夫か玲愛――おわっ!?」
目の前の光景を見て後ずさった。だって首が消失した玲愛の姿があったのだから。
「ちょ……れ、玲愛……く、首が――」
「あれ……私の頭、取れちゃったの? 立夏君……」
何処から声を発しているのか――とりあえず玲愛はそう尋ねる。
「う、うん……さっきすっぽーんって取れちゃったよ。絵面的にちょっと怖いんだが……」
今思ったけど、まるで首無し人間と話しているようで不気味すぎる。まあ、それに慣れている自分が一番怖いんだけどね……。
「……悪いけど、私の頭を胴体にはめてくれる?」
「わ、わかった……どこにあるんだ?」
よっこらしょ……と立ち上がって探し始める。そしてキッチンの方に彼女の頭部を見つけた。
「大丈夫か、玲愛?」
「うん……ちょっと埃が付いたけど……」
確かに埃が髪や目元に付着している。ポンポンと付着した埃を取り払った。
そして、玲愛の頭部をぐりぐりとプラモデルみたいに胴体にはめ込む。
「ん……ありがと――」
玲愛は、ぽっ……と頬を赤くしてお礼を言った。うぅ……なんだろう。お礼を言われるとこっちまで頬が熱くなってくるよぉぉ……。
「――う、ぐぐっ……!」
ぐっ……と腕を伸ばして、ゲームの疲れと恥ずかしい気持ちを吹き飛ばした。
(あぁ……ずっと同じ体勢で座っていたから体がガチガチだ……。そう言えば今何時なんだろうなぁ?)
キョロキョロと時計が無いか探すと、「あああっ……!」と突然玲愛が驚きの声を上げた。
「海水くん……! もう一九時過ぎだよ!」
「ふえっ……マジ!? うわっ……やべぇェ!」
スマホの時計を確認すると、本当に一九時になっていた。マズイ……長居しちゃった! 早く帰らないと、暗くなっちまう! いつも通る県道は夜になると街灯が無く真っ暗になって怖いんだよぉ……! 俺ってシャイだからさ……。
「そんじゃ、玲愛。また来週な!」
「う、うん、じゃあね」
「おう、じゃ―――」
な、とそう言おうとして玄関を出た。その瞬間、ザァーザァーとバケツをひっくり返したような雨が降り始めていた。
「う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!! ど、土砂降りじゃないかぁぁぁぁぁぁッ!!」
天気予報では、今日は夕立になるって言っていなかったよね? なんで土砂降りになっているんだぁぁぁ!! どーするんだよ、帰れないじゃないか!
なんて思いながら、俺は呆然とした表情で大きな雨粒を眺めていた。
「ちょッ、海水くん! 扉閉めて! 部屋に雨が入ってくるわ!」
「あっ、ごめん!」
俺はすぐにドアを閉めた。玄関がびしょ濡れになってしまったけど、幸い部屋に雨水が入らずに済んでよかった……。
「うえぇ……雨に当たって服がびちょびちょだ……」
ぶるる……と犬みたいに首を振って雨粒を吹き飛ばす。
「立夏君、大丈夫?」
玲愛は心配そうな表情でバスタオルを手渡した。
「あ、あぁ……ありがと、玲愛」
それを受け取り、ごしごしと雨水で濡れた肌と服をふき取る。ふぅ……ふき取ったおかげで肌に張り付いた感触が消えてさっぱりする。アレってべたつくんだよなぁ……。
「ぶはぁぁ……最悪だぜ。土砂ぶりやんか……」
ザァーザァーと叩きつけるような雨粒を囁きながらそう呟く。
「今朝の天気予報で雨降るなんて言っていなかったのにね……」
「だなぁ……どうしようかなぁ……? 路線バスはもうとっくに終わっているし、親は今日珍しい夜勤日で居ないんだよなぁ……」
むむぅ……と悩み始める。こんな土砂降りの中、バイクで帰るのは危険だしなぁ……。万が一、雨で滑ったら怪我だけじゃすまないよな……多分。
「ね、ねえ! 立夏君! あ、雨が止むまで私の家……に居た方がいいよ! こんな天候で、バイクで帰るのは危ないと思うわ!」
玲愛は、うるうるした眼差しをしながらそう提案する。
(――まあ、そうだな。玲愛の提案を受け入れよう。雨の中、バイクで帰るのは危険だし)
「――分かった。雨が止むまで玲愛の言うとおりにする」
こくりと頷き、玲愛にそう伝えた。
「うん! その方がいいわ。折角だし、夕飯も食べていって!」
「え……それだと食材が足りないんじゃ……? 玲愛は一人暮らしだし……」
「大丈夫。今日と明日の分の食材があるから、それを使っちゃうわ。明日、どの道買い物に行く予定だから」
「そ、そうなの……? そ、それじゃ……お言葉に甘えて――」
なんて照れながら答えて、部屋の真ん中に座った。
「ありがとう! 海水くん! それじゃ、今から作るから待ってくれる?」
「うん、わかった」
そう言うと玲愛はキッチンの方に向かい、夕飯を作り始めた。
(さて……待っている間どうしようかな……? ゲームでもしよう)
スゥイッチを取り出して、電源ボタンを押した。しかし、バッテリー残量がもう三十パーセント切っていた。
(あっ……そっか、さっきのプレイでバッテリー残量が少なくなったからなぁ……。充電しておこう)
リュックサックから充電バッテリーとコードを取り出し、スゥイッチを充電する。
(充電したし、どうしようかな――ふわぁ……)
ふわぁぁ……と大きな欠伸をする。そう言えば、今日の体育で疲れちゃったんだっけなぁ……。慣れない水の中を泳ぐのって、全速力で走るより体力消耗するんだよな。
(あ、やべ……眠くなってきた。今日の体育はハードだったからなぁ……夕飯できるまで仮眠しよう)
とろーん……と瞼を閉じ、そのまま深い眠りについた。
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