玲愛の家に行こう ⑤※

「海水くん、起きて! ご飯できたよ!」

「う……ん」


 玲愛の声が聞こえたので目を覚ますと、美味しそうな匂いが鼻孔をくすぶる。今日の夕飯はいったいなんだろう?


「――お、ハンバーグか!」


 ごしごしと目を擦ってテーブルの方に目を向ける。そこに大きなハンバーグを盛った皿が置かれていた。双方にご飯と味噌汁、漬物がある。


「うん、今日はハンバーグ作ってみたよ」

「うほぉ~~美味しそう!」

「ありがと、それじゃ食べようか」

「だな」


 テーブルの前に座り、「いただきます」と言って夕飯を食べ始める。


(どれどれ……玲愛の作りたてのハンバーグ――)


 箸でハンバーグを割ると、ぶわっと肉汁が溢れてきた。おぉ……美味しそうだな。


「どれどれ……玲愛の作りたてのハンバーグの味は……パクリ」


 モグモグ……と口に入れた瞬間、びっしゃーんと衝撃が走った。な、何だこれは!? お弁当の時とは違う! ちょっと噛んだだけで、肉がほろほろと解けていく! それにこのデミグラスソースも美味しい! 何だろう……濃縮した野菜と果実の旨味が口の中でハーモニーを奏でている! ハンバーグの肉との相性抜群だ!

 食べた事無いけど、まるで一流ホテルのシェフが作ったハンバーグみたいだ!


「むむっ! 弁当のハンバーグもそうだけど、めっちゃ美味しい! ご飯が進むよ!」


 箸が止まらない!ハンバーグのおかげで素朴な白米が美味しい!


「美味しい? ありがと」

「それとさ。いつもハンバーグは中濃ソース派だけど、このデミグラスソースもうめぇ! ハンバーグとめっちゃ相性よくご飯が進むぜ!」

「へへ……このデミグラスソース、私の手作りなんだ」

「うそっ!? このデミグラスソース、手作り……!? すげぇな! まるで一流ホテルのシェフが作ったようなコクのあるソースだぜ!」

「そ、そう……? はは、ありがと海水くん」

「美味い、美味い! これならいいお嫁さんになれるよ!」

「はははっ……ありがと、お嫁さん――――!?」


 お嫁さん――と言うワードを口にした瞬間、玲愛は狂喜な表情になった。


「あはは……お嫁さん。立夏君のお嫁さんになりたいなぁ~~。「はい、ダーリン」ってあーんして食べさせてあげたいなぁ……」


 なんてブツブツと妄想の世界感を呟いていた。と言うか、俺が玲愛と結婚している事になっているけど!? まあ、悪くないけど……。


「れ、玲愛……ど、どうした? ブツブツ言って……」


 とりあえずそう突っ込んだ。この光景を見るのはちょっと気味が悪すぎる。


「はうはうはうはうぅぅぅぅ!! は、うっ!? ごぼぼぼッ! ごめん!」


 現実世界に戻った玲愛。かぁぁ……と頬を真っ赤にしていた。多分、さっきのブツブツ呟いた事を全部聞かれて恥ずかしいって思ったのだろう。


「えぇぇい! 聞かれたからには仕方がない――こうなったら妄想暴走抑止方法を発動! その名も暴食っ!!」


 必殺奥義みたいにカッコよく言った後、夕飯を一気に食べ始めた。最近知った事だが、玲愛は暴食する事によって暴走した気持ちを抑えられるらしい。


「お、おい玲愛……。暴食するなって……喉詰まらせたらどーする!?」

「ぶはぁぁッ……ごちそうさまでした」

「は、はぇ……」


 食べる速度が速く呆気な表情をして彼女を見つめる。そして食器を持って食洗器の方にぶち込み、外の様子を伺っていた。


「どうだ、雨の様子は?」

「ダメっぽい……そのうち雷雨が来そうだよ」

「マジか……親に連絡してみるか」


 ポケットからスマホを取り出し、自宅に電話をかけた。


『プルルルル……プルルルル……ガチャ』

「あ、もしもし――」

『はい、海水です。本日夜勤日で家にはいません。ご用件のある方はまた明日ご連絡いただけますようお願いいたします』


 留守電モードに入れているのか、そうアナウンスがずっと繰り返していた。


(うそ……居ない? あっ……そう言えば、今日は二人とも夜勤日だった!)


 玲愛とゲームをしてすっかり忘れていた。『夜勤だから家に帰ってこない』って言っていたっけ……。


「うわぁぁぁぁぁ!! 親居ないなんてぇぇ!!」


 最悪な展開になった。最終バスはとっくに行ってしまったし、親は夜勤で家に居ないし! バイクで帰るべきか……?


「――――あ、あのさ、海水くん! その、もしよかったら泊っていかない?」


 玲愛はそう提案してきた。泊っていく……それってもしかして玲愛の家で寝る――って事だよね?


「――ふぁっ!? い、いいよ、夕飯をごちそうして泊っていくなんて……」


 ボン……と頬を真っ赤にして遠慮した。迷惑かかるし、それに玲愛と一緒に寝るなんて……。


「――いいから、今日は泊まって! こんな雨の中、帰っちゃダメ……ッ!」


 ギュッと腕を抱きしめて泊っていくように訴えていた。そしてウルウルと涙を流しそうになっていた。


「玲愛……分かった。玲愛の言うとおり、泊っていくよ」


 玲愛の眼差しを見て泊まる事に決めた。そうだ……こんな雷雨と真っ暗な県道をバイクで帰るのは危険だ。ここは彼女の言葉に甘えることにしよう。


 ――そんな訳で、俺は玲愛の家に泊まる事になりました。


 ドキドキお泊まり編に続く――

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