立夏と玲愛は話したい

 長かった一学期が終わり、長い夏休みがやってきた。プールや海などのアウトドアを楽しんだり、一日中ゲームやっていたりなど夏休みの過ごし方は様々ある。

 え、俺は何やっているのか――最近は部屋でグータラ生活を送っていた。


 ――夏休み突入して七日間の夜中。夕飯を食べ終えて、部屋に戻った俺はベッドの上に寝転がっていた。


「あぁ……だるい。夏休み入ってからずーっと昼寝しているよ」

 夏休み入ってから、勉強もゲームもろくにやっていない。それもそうだ……玲愛と会える機会が少なくなってしまった。そのせいで寂しい気持ちでいっぱいだった。


「玲愛に会いたいなぁ……。ラインでも送ろうかなぁ……でも、連絡しても特に話す事無い――」


 ラインを開いて玲愛のトーク画面を見つめる。最後に返信したのは夏休みの四日前だ。デートしようって誘ってみようかな? でも、今月末はバイトで空いていないって言っていたしなぁ……。


「はぁ……何やっているんだろ――ん?」


 ピロリン……とメッセージ着信音が鳴った。こんな時間にラインの通知が来るなんて珍しい。一体誰だろうと画面を見ると、メッセージの主は玲愛からだった。


「玲愛――」


 ぼそっと呟いた後、メッセージの内容を眺めた。


『海水くん、久しぶり! 今日もバイト入っちゃって疲れたよぉ~~!』

「はは……大変だなぁ……玲愛も」


 なんて苦笑しながら、メッセージを打ち込む。メッセージ越しだけど、なんだか久々に彼女と話をするな……。


『おう、久しぶり。バイト大変だな……。俺は暇で仕方がない(笑)』


 ポチっと送信ボタンを押す。そしてすぐ既読文字が出てきた。

 数分後、スポン……と玲愛からメッセージを受信した。


『バイトしなさいよ! 暇なら! 紹介しようか?』

『いいよ、自分で見つけるよ。そうだ、どうしたの? 急にラインするなんて……』


 ふと気になった事を書き込み、メッセージを送信する。


『うん……その、海水くんとお話したくて……。夏休み入ってから話す機会が少なくなっちゃたじゃん。それで……』


 それを見てなるほど……と頷いた。玲愛も俺と同じ考えだったんだ。


『あのさ、海水くん。よかったら、ビデオ通話しない?』


 続けて届いたメッセージを見て、ドクン……と心臓が跳ね上がった。


(れ、玲愛とビデオ通話――)


 ひ、久々に彼女とお話したいと思っていたんだ……。い、いいんじゃないか? と言うかなんでこんなにドキドキしているんだよ!? シャイな気持ちになっているんじゃねーぞ!


『うん、掛けていいよ』


 そうメッセージを打ち込んで送信した。


(うわぁ……き、緊張する。ひ、久々だからなぁ……。い、一体どんな話をしようかなぁ……?)


 ドキドキする……一週間ぶりに彼女とお話するんだ。早く出ないかなぁ……。なんて思いながらそわそわしていると、プルルルル……と彼女からの電話がやってきた。


(き、来た!)


 通話ボタンをスライドして通話を開始する。そしてスマホ画面から、白い壁をバックにニコニコと微笑みながら手を振る彼女が映った。


『やっほー、海水くん!』

「お、おう! 久しぶりだな、玲愛――」


 久々の彼女の顔を見た俺はぎこちなく手を振って返事をする。


『うん、久しぶりだね! 一週間ぶりかな?』

「まあ、そんな感じだな……どうだ、最近は?」


 そう質問すると、玲愛ははぁ……と溜息をついて答えた。


『あー、まあ……うん、夏休み入ってからずっとバイトしている……。マジで疲れたよぉ~~! 今日はクレーマーがやってきてさぁ~~! ウザかったからクレーマーを噛み殺そうかと思ったよ……』


 シャーッ……とゾンビの牙をチラつかせて愚痴を溢していた


「あはは……大変だね、バイト」

『大変だよぉ~~海水くんはバイトしないの?』

「――まあ、うん。ちょっと探そうかなーって思っている」

『そうなんだ……。ねえ、さっきも言ったと思うけど私の方でバイトの方紹介する? いいところあるよ!』

「あーいいよ。バイトは自分で探すよ」

『そう。なら、バイト探し頑張ってね! もし見つからなかったら紹介してあげるわ!』

「うん、その時はよろしく!」


 ふふっ……ははは……と、一週間ぶりに彼女とお話を繰り広げる。

 昨日なにしたとか、昨日の夜何食べたとか……そんな他愛のない話がとても面白い。まるで学校でお話しているかのような気分を味わっているような感覚だった。

 そして俺達はお話に切り替えて、最近オススメのラブコメ漫画を玲愛に紹介していた。パラパラと漫画の中身を見せて、リモートで読みあいをしている。


『はははっ……面白い! ヤバい……めっちゃ気になってきた! 海水くん、今度その漫画借りてもいい?』

「いいよ! と言うか、夏休み暇なら家に遊びに来てよ!」

『えっ……!? い、今なんて――?』


 何気なく放った言葉に、玲愛はドキッとしたような表情を見せる。


「ん――だから、家に遊びに来てよって言ったんだよ?」

『あ、あぁ……そ、そう!? じゃあ、お、お邪魔してもいいかな? 立夏――じゃなくて、海水くんの予定とかは?』


 あたふたと頬を真っ赤にして動揺した様子で予定日を尋ねる。


「予定かぁ~~ちょっと待ってね」


 そう言ってサブ使用のスマホを手に取り、カレンダーアプリを開いて予定を確認する。


「今週末は大丈夫、来週はちょっと用事がある。再来週以降は今のところないよ!」

『そうなんだ! じゃ、じゃあ! 今週末のき、金曜日――いいかな!? 』

「うん、いいよ。じゃあ、その日で! 時間はどうする?」

『まあ、無難に朝十時からで。私、その日はバイトが無いから一日中あ、遊ぶね!』

「分かった。住所教えるね――」


 玲愛に俺の家の住所を教える。それと同時にメモを取っていた。


『――分かった。その日はよろしくね!』

「うん、よろしく! それじゃ話を戻して……」

『――ねえ、海水くん。後ろにいる子って誰?』


 なんて玲愛は恐怖映像を見た後みたいに、ビクビクとした表情で質問してきた。


「え、後ろ? 誰もいないよ。だって――」


 なはは……と笑って後ろを振り向くと、一人の少女が仁王立ちしていた。

 ゴゴゴ……と擬音を出しているような雰囲気を醸し出して、ぎろりと睨んでいる。全然気配に気が付かなかった……。い、いつから俺の背後に!? 読者の皆様には彼女の説明は後回しにして、れ、玲愛にどう説明すればいいんだ?


「あはは…ご、ごめん、玲愛! きゅ、急に呼び出しが来たから、もう切るね! おやすみなさい、玲愛!」

『え、ちょ!? 海水くん――』


 そう言った後、玲愛の会話を遮るようにライン通話を切った。


「えっとぉ……その、な、何の用でしょうか?」


 後ろで仁王立ちしている少女に、ビクビクと身を震わせて問いかける。


「――お兄ちゃん。さっき喋っていた女の人、誰?」


 お兄ちゃん――そう、こいつは一個年下の義妹の海水七海(ななみ)。少し紫色に近い黒髪ロングヘア、茶色の瞳。モデルみたいなセクシーな体つきの少女だ。七海は全寮制のお嬢様学校に通っているのだが、現在は夏休みなので自宅に帰省中である。


「あー、いやぁ……あはは――俺寝るわ!」


 そう言って俺は布団の中にダイブした。七海とはこういう女に関わる話はしたくない。だって……七海は――


「んだとゴラァ!? 勝手にお休みモードに入っているんじゃねーぞボゲェ!!」


 なんてブチ切れ口調で言い、布団にかかっていたシーツをがばっと剥いだ。


「ちょ、待てよ! 布団ひっぺ剥さないで!」

「今夜は寝かさないわ! お兄ちゃん! 一体どういうことなの!? と言うか、めっちゃイチャイチャして話していたよね!」

「あぁ……いやぁ……そのぉ――」


 ど、どうしよう……七海にどう説明すればいいかな? 


「――もしかして、お兄ちゃん。彼女出来たの?」

 

 七海の図星発言に俺はびくっと体を震わせた。


「……うそ。嘘でしょぉぉぉぉ!! お、お兄ちゃんが彼女を作ったぁぁぁ!? 中学の時、女子に嫌われていたお兄ちゃんが彼女を作ったのぉぉぉ!? マジ? マジでっ!?」


 なんて興奮しながら、俺の襟首を掴んでブンブンと体を揺らし始めた。


「うごっ……ちょ! 七海、揺らすのをやめろぉぉぉ! そうだけど、中学の時の嫌われた過去を言うなぁぁぁぁ!!」

「と、とにかく! お兄ちゃん、詳しく聞かせて!」

「わ、分かったよ……」

 

 恥ずかしい気持ちを押さえて、彼女――玲愛の事を七海に話す。そして彼女の恋愛話が盛り上がって夜中まで続いてしまった事に、この時の俺はまだ知らなかった。

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