ショッピングモールデート in 昼食タイム
――前回のあらすじ! 俺と玲愛は映画のペアチケットを貰って隣町のショッピングモールの映画館にやってきたんだ! そして映画を見終わって、俺達はショッピングモールを散策することにしたのだ!
俺達は映画を見終わってすぐに映画館を出て、今朝寄り道したパン屋さんの入り口に着いた。改めて店の外装を眺めると、フランスのパン屋さんのようなクラシックな雰囲気を醸し出していた。
そして店内に入ると、ミディアムブラウンで統一された明るくて木の温もりのある内装とパンの香ばしい香りが充満していた。
早速店の入り口にあるトングとトレイを手に取り、美味しそうなパンがあるか探し始めた。
「さーて、何食べようかなぁ……?」
カチカチとトングを鳴らしながら、玲愛と一緒に美味しいパンを眺めていた。定番のフランスパン、クロワッサン、チョココロネ、メロンパン……どれも美味しそう。フランスパンはちょっとパスしてクロワッサン、チョココロネ、メロンパンを各一個ずつトングで取ってトレイの上にのせる。
「海水くん! ちょっとこれ見て!」
興奮した玲愛の指を指し示す場所に視線を送ると、新商品の『ラブラブパン』と言うハートマークの形をした通常のクロワッサンより三倍ほど大きいパンがずらりと並んでいた。
「――新作のラブラブパン、彼氏彼女と一緒に食べると恋が成就します? いちごジャムをふんだんに使い、甘酸っぱい恋を再現しました!」
商品横にあった商品紹介プレートを読む。なるほど……美味しそうだな……。まあ、要はいちごジャムパンって事だな。
「これ、一緒に食べよう……ね。いいでしょ?」と顔を赤らめながら言う。
「そうだな……一緒に食べよう」
そう答えてトングでラブラブパン一個を取り、トレイの上にのせた。
同時に玲愛は「よしっ!」とガッツポーズをして、惣菜パンの方へ向かって行った。なんでガッツポーズ取ったんだろう? まあいいか……しかし、このラブラブパン……デカいな。このパン、二人で食いきれるのかな……と、心配そうにトレイからはみ出したラブラブパンを眺める。
「この野沢菜入りの焼きそばパン、美味しそう! 買っちゃお!」
玲愛は袋詰めの焼きそばパンを自分が持つトレイの上にのせる。その光景を見た俺は無性に焼きそばパンが食べたい気持ちが沸き上がってきた。折角なので玲愛が食べたいって言っていた焼きそばパンを眺める。
「ショッピングモール周辺の農家さんが育てた野沢菜を使った焼きそばパンか……」
商品紹介のカードを眺めた後、俺はそのパンをトレイにのせた。
「よし、このぐらいの量があればお腹は十分満腹になるな……」と、会計しにレジの方へ向かった。
「あ、東京新大久保限定のキムチパンがある! これも買っちゃお! 北海道限定のじゃがバターパンもある! 買っちゃお!」
ポンポンと玲愛は袋詰めしたご当地惣菜パンをトレイの上にのせまくる。こんな大量にパンをトレイにのせて……食いきれるのか?
「お会計、一四〇〇円です」
「QRコード決済できます?」
「できますよ。使えるQRコード決済は、ペイペル、ライタペイ、楽々ペイがです」
「楽々ペイでお願いします」と言って、QRコードを店員さんに差し出す。ピッとスキャンして決済を終了した。
「ありがとうございます。あと、ラブラブパンをご購入の方にパンフレットを配布しております。よかったらお読みください」
はぁ……と頷き、『ラブラブパンの食べ方!』と言うタイトルのパンフレットを貰って店の外に出た。
(さて、玲愛が来るまで外で待っているか……)
玲愛が来るまで、先ほど貰ったパンフレットを読んで時間を潰すか……。ぱらりとパンフレットを眺めた。
『ラブラブパンの食べ方! ※これは恋人専用の食べ方です! やり方は二人でパンを持ちながら食べる――簡単に言えばポッキーゲームと同じ方法です。ポッキーゲームならぬ、ラブラブパンゲームです! まず、互いに顔を合わせて、ぱくりと食べます。この時、パンをちぎったり、半分に分けあったりしてはいけません! そんなことしたって恋は成就しませんよ? パンを千切らずパクパクと食べ、最後に彼女とキスしましょう』
――率直な感想、なにこれ? ラブラブパンってこういう食べ方するの? ポッキーゲームのポッキーをパンに変えただけなの? そ、そうなると、玲愛と一緒にこのラブラブパンを千切らず向かい合って食べて、最後にキス……ぷしゅーッ!?
玲愛とキスする光景を想像して、ぷしゅーと頬に熱が籠り始めた。
「なななな……キス!? そう言えば、付き合ってからキスした事無い――ってちゃう! 恋人はこういう風に食べるん!?」
なんて、キスした事のない童貞の俺はパンフレットのやり方に全力ツッコミした。
「海水くん~!」と、ほぼ同時にパンを購入し終えた玲愛が俺の方にやってきた。
「おーう! 美味しそうなパン、買えたか?」
「まあね! 色々買ってきたよー!」
そう言って、パンパンになったレジ袋をドーンと俺に押し付けるように見せた。
「うげぇ!? ちょ、押し付けないで……そ、それよりもさ、イートインコーナーの方へ行こうぜ。ちょうどお昼時だしさ!」
「そうね! イートインコートの方へ行こ、海水くん!」
だなと呟いて、俺達は一階のスーパーの近くにあるイートインコーナーへ向かった。
イートインコーナーに着いて席に着き、俺達は先ほど購入したパンを食べ始めた。まずはシンプルにクロワッサンから頂こう。
「モグモグ……ん、美味し」
クロワッサンって小麦とバターぐらいしか使わない素朴な味だと思っていたけど、この店のクロワッサンは根本的に味が違う! バターの風味が香り、もちもちとした触感……なにこれ、新触感のクロワッサンじゃん!
次は野沢菜入りの焼きそばパン食べてみよう……。モグモグ……お、美味い。野沢菜のシャキシャキが残っている。いつも冬に野沢菜漬けを食べているが、夏に焼きそばを混ぜ込んで食べるのは新鮮な感じだ。
さて次は……と、何食べようか袋を漁っていると、突然玲愛が「――ねえ、海水くん!」と呼んだ。
「ん……?」
「その……さっき買ったラブラブパン、い、一緒に食べよ!」
玲愛は恥じらいある表情で、ラブラブパンを食べようと言った。
ラブラブパン……と言うワードを聞いた瞬間、ぼんっ……と頬に熱を籠らせた。ラブラブパンの食べ方のパンフレットを読んで、完食後にキス……する! あ、あわわわ……な、何なのこの気持ち!? 高校入試の面接の時以上に、心臓がバクバクしているんですがッ!? 大丈夫だよね……心臓の血管、破裂していないよね!?
「あ、そ、そうだな! 一緒に食べようぜ!」
少し動揺して、レジ袋から外袋に包まれたラブラブパンを取り出した。
(どうするのよ……玲愛は知っているのか? このパンの食べ方――)
なんて思いながら、玲愛とラブラブパンを重ねながら見つめていた。
『無論、玲愛はパンフレットに書かれたラブラブパンの食べ方を知っている! 玲愛は東京で有名なパン屋が県内初出店すると耳にして口コミサイトで色々調べていたところ、ラブラブパンと言う巨大なパンの存在を知ったのだ! これは立夏君とキスできるチャンスでは!? ポッキーゲームならぬ、ラブラブパンゲームが出来るじゃね!? と映画デートの前日に映画デート以上に楽しみにしていたのである!!』と言うナレーションが流れる。しかし、俺達にはナレーションの声は聞こえる事は無かった。
(と、とりあえず……玲愛がラブラブパンの食べ方を知っているのか聞いてみよう! 知らなかったら、普通に千切ってあげればいいんだし!)
すぅぅ……と深呼吸し、玲愛に聞いてみた。
「な、なあ……玲愛。ら、ラブラブパンの食べ方って知っている?」
「――ヒック……うん、知っているよ。このパンってポッキーゲームみたいな感覚で食べるのがおススメなんだよ。そして最後はキ……き、き……ぷしゅー」
キス……と言おうとした瞬間、テーブルの上にガン……ッとおでこを強打させた。どうやら、俺と同様『キス』と言うワードを言うだけでドキドキしてしまったらしい。それと、ラブラブパンの食べ方を知っているようだ。
「だ、大丈夫!?」
「へ、平気……大丈夫……。と、とりあえず、ラブラブパンを一緒に食べよ!」
「う、うん……」
ドキドキとした感情を抑えながら外袋からラブラブパンを取り出し、ラブラブパンの端っこを玲愛の口に近づける。
「ほ、ほれ……」
「うん……い、いただきます……」
大きく口開けて、ぱくりとパンをかじる。そのあと玲愛は千切れないようにパンを手に持ち、モグモグと食べ進める。
「はむ……モグモグ……」
――な、何だ……? 普通にパクパクと食べている姿なのに……玲愛の食べ方が艶めかしいんだが!? まるでそう、熱い環境下でペロペロと舐めるアイスキャンディーの食べ方にそっくりなんですけど! やべぇ……ドキドキする! と、トマッテェェェ!!
(お、落ち着け……ドキドキする止まってぇぇぇ!!)
なんて、ドキドキするなと自己暗示をかけていた。まあ、全然効果ないけど……。
「そ、それじゃ……俺も、いただきます……」
玲愛の反対位置から、ラブラブパンをかじる。モグモグ……お、美味い! パイみたいにカリカリとした生地に、食べてすぐにドロッとした甘酸っぱいいちごジャムが口の中にあふれてくる!
「はむ……モグモグ……美味しい。海水くんもこのパン美味しい?」
「あ、あうん……おう、美味いぜ! はむむ……」
パクパクと二人でラブラブパンを食べ続けて十分――段々とラブラブパンの面積がコッペパンみたいな一直線状のパンになっていた。あともう少しで完食すると言うところで、俺は食べるスピード落としていた。
別にお腹いっぱいで食べられなくなったわけではない。ただ彼女の顔の距離が近づくたびに、俺はキスすることに躊躇っていた。
(うぅ……ドキドキする。彼女とキス……いいんだけど、変なキスして嫌われたりしないよね……? ……まあ、一応エロゲなどのキスシーンを見て妄想練習してきたし……舌を口に突っ込まいように気を付ければ大丈夫だ。よし、落ち着け――)
すぅ……はぁ……と鼻で深呼吸する。このままパクパクと残りのパンを完食して、玲愛の唇に――――
「……ばか。こういうのは彼氏が先にリードしてくれるじゃないの?」
「れ、玲愛……?」
「……私だって……その、恥ずかしいんだから」
ボソッと玲愛は呟くと、一直線状のパンをパクパクと食べ進める。そして終着点の俺の唇を重ね、ぎゅっと俺の体を抱きしめた。
「む、むむぅ……!?」
か、彼女のく、唇が当たって……いる。こ、これが……キス――なのか? ドクドク……とまるで全身がマグマに放り投げたような高揚感が体の隅々に満ちていく……。
彼女の唇、柔らかい……溶けだした氷を触れたような冷たい感触だ。ゾンビだから、体温なんてないんだよな……多分。そして、彼女から発するフローラルのような香りが鼻孔をくすぶる……。
もう少し彼女の唇を味わいたいな……と思った矢先、玲愛は甘い吐息とともに唇を離した。
「……しちゃったね、キス」
「あ、あぁ……そうだな……。あ、あのさ、玲愛。もう一度だけキスしても――」
ドクドク……と胸が張り裂けそうな気持ちが抑えきれない。もう一度、キスしたい。リードできなかったのが悔しい……から!
「……ダメ」と、小悪魔の表情を浮かべて俺の唇を指で軽く押さえた。
「がーん……な、何で……俺がリード出来なかったから嫌わ――――」
「違うよ。私も今気づいたけど周りを見て……あぁ……」
玲愛の言われた通り周囲を見回すと、俺達に向けての視線が強く感じた。
「あっ……公共のイートインコーナーだったんだっけ……かぁぁぁ……」
ラブラブパンの事しか考えていなかった……そう言えば、ここは公共の場じゃん。知らない人にこんな恥ずかしい事をジロジロと見られていたなんて……!
とりあえず、キッと睨んでこっち見るなと威圧をかける。
「そ、そういう事ヨ……そんな訳だから、き、キスはだ、ダメなの……」
玲愛は挽きたてアイスコーヒーのカップをブルブル震わせながら、そう言った。
「そ、そうだよな……」と、こくこくと頷いた。
くっそぉぉ……こんな大観衆の前でイチャイチャしているところを見られるなんて……は、恥ずかしい。それと……この光景をクラスの友達に見られていないよな……大丈夫だよな?
「海水くん」と、玲愛は俺の名前を呼んだ。
「――なに?」
「――今度キスするときは、私からじゃなく貴方がリードしてね?」
玲愛は俺の視線に合わせるように頬杖をして、クスッと微笑んだ。まるで少女漫画の見開きページのシーンのような光景だった。
「あぁ、今度は躊躇わずキスする」
「――約束だよ、海水くん」と言って、空いた手の小指を突き出す。
「あぁ、約束だ」と小指を突き出して、玲愛の小指と交わすのであった。
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