二人は映画デートする ④

(ななななな……なんで、れ、玲愛の首が取れているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


 丁度将軍が感染者の首をぶった切るシーンをバックに、今目の前の衝撃的な光景を目の当たりにした。なんと、玲愛の首が人形のようにすポンと取れてしまっているのだ。なんで……首がとれたんだ? まさか――さっきの乗馬シーンで座席が揺れて、その弾みで取れたのか!? ひな人形みたいに脆いのか!? 玲愛の首って!


(と、とりあえず……誰かに見つかってパニックになる前に見つけなきゃ……って、どうやって見つけるんだぁぁぁ!! 辺りは暗いし、他の人に彼女の首は何処ですかって聞けるわけないやん!)


 早速問題が発生した。どうやってこの暗闇の中バレずに玲愛の首を探すのか? うん……どうすればいいの? 普通に玲愛の首を探す……って、よくよく考えたら人生終了のお知らせになっちゃうよ! 誰かに見つかったら殺人罪で人生オワタなんですが! しかし、このまま玲愛の首が他人に見つかったら警察沙汰で済むが……代わりに玲愛がゾンビだってバレてしまう……! くそぉ……上映中に探すのも後に探すのも人生終了のリスクが高すぎるぅぅ……!!


(――ん? スクリーンがなんか真っ暗――?)


 背後のスクリーンを振り向くと、スタッフロールが流れていた。なんでこんなタイミングでスタッフロールが流れるんだぁぁぁぁぁ!! 思考している間にゾンビぶっ倒してハッピーエンドで終わって、そのままエンドロールぅぅ!? さっきまでアクションシーンが流れていたんでしょぉぉぉ!? まさか……これは前後編パターンの映画なのか!? 尺の都合上、最終決戦と言うタイトルで後編に回すつもりかぁぁッ!


(――って、そーいう事はどーでもいいわぁぁぁぁ!! それよりも、早くしねーと……上映が終了ちゃうよぉぉぉぉぉぉ! 玲愛がゾンビだってことバレちゃうぅぅぅぅ!!)


 スタッフロールが監督表示した後、最終章の予告編を流していた。


『江戸パンデミック完結編――十二月公開予定! 貴方は、この結末に受け入れられるのか……!?』


 予告編が終わり、シアター内が明るくなる。うわぁ……マズイ……早くしないと、玲愛の首が誰かに――――


「きゃぁぁぁぁぁああああ!!」と、丁度俺達の後ろにいたおばさんが悲鳴を轟かせた。


(あ、終わったわ……)


 なんて頭の中で悟りを開いていた。もうこれ、バレてしまったよな……うん。


「私のひ、膝にィィ!! 皮膚が真っ黒の……生首がぁぁぁぁぁぁ!!」


 混乱したおばさんは、ゾンビメイクが剥がれた玲愛の生首をサッカーボールのように膝で蹴って前の方に飛ばした。そのままポトンと玲愛の足に落ちた。


「ちょ……落ち着け! 生首なんてある訳ないだろ?」


 そのおばさんの知り合いだろうか……隣のおじさんは混乱しているおばさんを落ち着かせるように介抱していた。この反応から推測するに、このおばさん以外玲愛の首の存在に気が付いていないらしい。なんでぇ……普通なら、気づいてもおかしくないはずだが?


(それよりも、玲愛の首を元の場所に戻そう!)


 すぐに腰を屈ませ、玲愛の首を拾う。そして気づかれないうちに首を胴体に装着し、持っていた使い捨てマスクでゾンビメイクが剥がれた口と鼻の周りを隠した。


「だ、だって……さっき、蹴飛ばして……前の方に――――」


「どれ……?」とおばさんが指を前の方に向けている場所へおじさんは前の席を覗き込んだ。


「生首なんて無いじゃないか」


「え、でもぉ……」


「映画のシーンが残像したんだろう……。ほら、行くぞ」


「う、うん……」


 おばさんはおじさんの言葉に納得し、二人はシアターを出て行った。


(ふぅ……万事休すだったぁ……。ほんと、おばさん以外気付かれなくてよかった……)


 でもなんでおばさん以外、気が付かなかったんだろう……? まあ、いいか。不思議な力があったかもしれないが玲愛のゾンビバレはしなかったし……とりあえず、シアターを出よう。


「おーい! 玲愛、映画終わったぞぉ……」と、玲愛を呼びかけた。


 しかし、玲愛は反応しなかった。なんで……遂に怖いから寝るという逃避手段を選んだのか?


「おーい~~玲愛、寝ているのか~~?」

 ぺちぺちと頬を叩きながら玲愛を呼びかける。しかし、玲愛は全く反応しなかった。あれ……なんで?


「おーい~~玲愛ぁぁ~~!」


 彼女の体を揺さぶって呼びかける。しかし、それでも玲愛は反応しなかった。おかしいな……寝ているなら揺さぶれば起きるのに……?


「まさか――――?」


 何かに感づいた俺は彼女の体を強く揺さぶる。しかし、全く反応しなかった。今の顔の状態を確認すると、半分白目になって気絶していた。


(れ、玲愛の奴……き、気絶しているのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)


 な、何でぇぇ!? なんで気絶しているのぉぉ!? ゾンビ映画で気絶する人、生まれて初めて見るんですがぁぁぁぁ!?


「――とりあえず、シアターから出よう。なんで気絶したんだか……」


 なんて溜息を吐いた後、気絶した玲愛を背負ってシアターを出て、劇場入り口のフロントのソファーに座らせた。とりあえず、目が覚めるまでここに座らせておこう。


「喉渇いたなぁ……自販機で飲み物買って来よう」


 俺は映画上映中に水を飲まない事にしている。だって、水飲むと時間に立つにつれてトイレに行きたくなるじゃん! トイレ行くといい場面見れなくなるじゃん! まあ、そんな理由です。そんな訳で、映画鑑賞中ずっと水を飲んでいなかったので喉がカラカラになっている。ソファーの目の前にある自販機にて、適当にスポーツドリンクを二本購入した。もう一本は玲愛が目覚めた時に飲ませてあげよう。


「ふぅ……」と、玲愛の隣に座った。ボトルキャップを回し、ごくごくとスポーツドリンクを一気に飲み干した。


(――ちょっと、玲愛の頬にキンキンに冷えたペットボトルをピタッとつけてみるか)


 よく恋愛シチュエーションで冷たいペットボトルを彼女の頬に付けて驚かす――一回やってみたかったんだよね……。とりあえず、この方法で目が覚めてくれるといいけどなぁ……。

 起きているかもと可能性を考えて、気づかれないように雫が滴るほどキンキンに冷えたペットボトルをそーっと彼女の頬に近づける。


 ――ぴちゃ……とペットボトルが彼女の頬に触れた。


「ひゃふぅぅぅぅぅん!?」と、玲愛は声を上げて吃驚していた。


「お、起きたか?」


「あ、あれ……? わ、私……こ、ここは何処?」


「ここは劇場入り口のフロントだ。さっきまで気絶していたんだ。スポーツドリンク買ったけど飲む?」


「あ、うん。ありがとう……私、気絶していたの……? かぁぁ……」


 キンキンに冷えたペットボトルを手に取った後、突然顔を真っ赤にしていた。何故赤くしているのか聞かないようにしよう。


「うん。それと首の方は大丈夫か?」


「首……? いや……特になんともないけど? どうしたの?」


「――いや、大丈夫ならいい」と、答える。


 気絶中に玲愛の首が捥げたって言ったら、「ゾンビバレしちゃったぁぁぁ……」ってショックを受けてしまうよなぁ……。ショックを受けた彼女の表情を見たくないので、言わないことにした。


「ねえ、海水くん。なんで私マスクしているの? 付けていなかったのに」


「あぁ……ゾンビメイクが剥がれていたから、隠すためにマスク付けた」


「うそ!?」と驚いて、玲愛はカバンから手鏡を取り出し、マスクを外して顔を眺めていた。


「ほんとだ……口と鼻周りのメイクが落ちている……。海水くん、ちょっと化粧室でメイクしてくるね!」と言って、化粧室に向かって行った。


「う、うん……いってらっしゃーい」と、玲愛を見送る。メイク塗り直すまで、どうしようかなぁ……? とりあえず、スマホゲームで時間潰そう。


 ▽


 ――十分後、メイクを終えた玲愛が戻ってきた。


「おまたせー!」


「おーう! これからどうする?」と、玲愛に質問する。


 俺はショッピングモールの方に周回してみたいと思っているが、玲愛はどうするのか……?


「ショッピングモールの方へ行こうよ! 今朝寄ったパン屋さんでパンを買いたいし、色々ショッピングモール内も見てみたいわ!」


「――だな。俺も同じこと考えていた。そろそろ昼食だし、例のパン屋でパンを買って食べよう」


「うん、それじゃパン屋さんへ行こ!」


 そう言って玲愛は俺の手を掴んで、先ほどのパン屋さんへ駆け抜けた。


「お、おう!」


(彼女の手……ゾンビだから冷たいけど、華奢で柔らかい手だなぁ……。付き合っている彼女と手をつないで歩く……非リア時代にやりたいって思った事が出来たぜぇぇぇ!!)


 なんて俺は内心で発狂しながら、手をつないだままショッピングモールの方へ向かった。




 ――ショッピングモールデート編に続く!

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