二人は映画デートする ③

ポップコーンを買って入場ゲートを通って、4DXシアター入り口付近までやってきた。


(4DXで映画を見るなんて……生まれて初めてだからドキドキするぜ……)


なんて胸を高鳴りながら入場すると、入り口に立っていたスタッフは4DXシアター内の案内アナウンスをしていた。


「――4DXシアターでの食事はなるべく上映前に完食していただくようお願いいたします。また貴重品の方は十分な管理していただくようお願いします。入り口に貴重品ロッカーがございますのでご利用ください」


「――だって、玲愛。ポップコーン、上映前に食べよう」


「なんで……? 上映前に食べなきゃいけないの?」と、玲愛は首をかしげながら質問する。


「パンフレットによると、座席が揺れるのでポップコーンとかジュースがこぼれるから注意しろって書いてある」


先ほど貰った4DXシアターのパンフレットを読んで、玲愛に説明する。


「なるほどね……あと貴重品、どうする? ロッカーに入れる?」


「カバンに入れておけば大丈夫じゃないかな?」


「そうだね……映画泥棒が始まったら仕舞っておこう」


(俺もそうするか……ショルダーバッグに携帯入れておくか)


なんて、玲愛と同じ事を考えると同時にJ六とJ七の席に着き、俺はJ六の席、玲愛は隣の席に座った。


(すご……4DXシアターの座席初めて座って見たけど、普通の座席と違うぞ……! もこもことスポンジみたいに柔らかい座席だし、フットレストがあるせいか少し高く感じる……!)


なんて、初めて座る4DXシアターの座席に感激していた。いやぁ……素晴らしい。まるで高級の乗り物に乗っているような気分だぜ……。


「ねえ、海水くん。ポップコーン食べる?」


隣の席に座っている玲愛は、モグモグとリスみたいにポップコーン食べながらそう言った。4DXシアターの座席に感激しないのか……こいつッ――と内心で突っ込みながら食べると答えて、ぱくっとポップコーンを口にした。


「ん……うま、このポップコーン。バターの風味がしっかり効いているな……モグモグ」


なんて料理人のような感想を呟くと、ブラックアウトだったスクリーンが光り始めた。


『シネマモールへようこそ! 私はシネマモールのガイド役のシモーです! これより、劇場の世界へご案内いたします! その前に、今話題の映画や今後上映開始する映画の情報をお送りいたします!』と、バーチャルお姉さんキャラが現れる。


あぁ……可愛いな――って、デート中に何考えているんだよ、俺ッ!

そして一旦スクリーンがブラックアウトし、今後上映される映画の予告編が流れ始める。


「――この冬――きっと、恋をする」といった恋愛映画、「君に見えるか!? この魔法!」というファンタジー映画、「――に続く、パニックアクション超大作!」といったゾンビ映画などの予告編を流していた。まあ、あまり興味無いのでポップコーンをひたすら食っていた。


『今後上映する映画の情報、楽しんでくれたかな? それでは上映開始――その前に私から皆様にお願いだよ! 一つ目、携帯は必ずマナーモードか電源を切ってね! 二つ目、周りのお客様に迷惑ならないよう静かに見ようね! 三つ目、劇場売店以外の飲食物の持ち込みはご遠慮ください! 四つ目、椅子を蹴っ飛ばした足を乗っけたりしないでね! 五つ目、当館はすべて禁煙です。タバコ吸いたい方は、外の喫煙コーナーで一服してくださいね! これらを守って映画を楽しんでくださいね! それではお待たせしました、上映開始します! どうぞ、映画の世界をお楽しみください――――』


そう言ってバーチャルお姉さんの案内役がフェードアウトし、シアター内が真っ暗になった。


『4DXシアターへようこそ。4DX上映中のお願いです――――』


続いて4DXのお知らせが流れて、例の奴がやってくる――そう、あの映画泥棒だ。キレッキレのパントマイムを披露してくれるだろうか?


『劇場内での映画の撮影、録音は犯罪です。法律により十年以下の懲役、または一千万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。不審な行為を見かけたら、劇場スタッフまでお知らせください。NO MORE 映画泥棒!』


いつものナレーションは変わっていないが、映像はカメラ男とポリスのランプ男のパントマイムではなくアクション映画みたいな逃亡劇を繰り広げていた。


(お、映画泥棒のCMが変わっている……まるでアクション映画みたいだ)


なんてニューバージョンの映画泥棒に驚いた。そしてCMが終わり、いよいよ本編に入る……どんなストーリーを繰り広げられるんだろう?


――真っ暗な山道から始まった。血に飢えた月光が不気味にモブキャラを照らしていた。


『――いやぁ、なんだか不気味な夜じゃな……お化け出ないよなぁ……? たしか、ここに寒村があると思うんだけどなぁ……』


『――グルルルル……』


『な、なんだぁ……狼でもいるのか……?』


キョロキョロと不安そうにあたりを見回す。すると、ゆらりと動きをする人影が現れた。


『なんだ、人か……すいません、近くの村は何処ですか――――』


『グガアあああああああああああああああああああああ……ッ!!』


『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』


「きゃぁぁぁぁぁああああ……!」


劇場の彼の悲鳴と隣の玲愛は悲鳴がハモり、同時に4DXの座席が襲われる動作でガクンと後ろに下がった。


(うおっ!? お、俺までびっくりしちゃった……! 流石4DX――襲われるシーンを再現してくれるなんて……! そうだ……玲愛は大丈夫か? 悲鳴上げていたし……)


心配になった俺はちらりと隣の玲愛の様子を伺うと、俺のシャツを掴んで怯えていた。


「はっ……べ、別に怖くないからね……ちょっと手汗がヤバいから拭いているだけだけだからね……」


玲愛は俺の視線に気づいて、ぼそぼそと言い訳をしていた。手汗を拭いているってきたねぇな、おい!


「あ、あぁ……そう……?」と頷いて、スクリーンの方へ視線を戻した。


『――疫病だと?』


『はい、横須賀の寒村で疫病が流行っているそうです。疫病にかかった人は人でも獣でもない何かに取り憑かれて人を襲っているようです!』


『むぅ……』


江戸幕府の本拠地――江戸城にて将軍と家来の人が疫病について話しているシーンが流れていた。


――なんやかんやで疫病の流行り具合を確認する為に、将軍と家来たちは発生源の横須賀にある寒村へ向かう事になった。


『――なんだ……? 不気味な雰囲気が漂っている……』


『グガァァァァァァァァ!!』


『う、うわぁぁぁ!! く、来るなぁ!!』


寒村に近い山道を歩く将軍様がそう言うと、突如疫病にかかったゾンビが一人の家臣に襲い掛かった。同時に4DXの座席ががくんと後ろに傾き、血のような吐き気を催すような異臭が充満し始めた。


(うおぉぉ……!? やばいやばいッ!? 本当に襲われているように錯覚してしまう!)


「きゃぁぁぁぁぁああああ……!!」と、隣の玲愛は家臣の一人が噛みつかれているシーンに悲鳴を上げた。


「……玲愛、ほ、ほんと――」


「……大丈夫だよ! 私はゾンビなんだよ? こんなんでビビる訳ないじゃん……!」と、ぼそぼそと強がった事を言う。怖いって事、バレているんだから強がらなくてもいいと思うが……。


『このヤロッ!!』と将軍は襲い掛かったヤツを刀で心臓を貫いて家臣を助けた。しかし、肩にヤツの噛み跡がくっきりと残るほど重傷を負っていた。


『お、おい! 大丈夫か!?』


『はぁ……はぁ……将軍さま……がががっ!?』と、傷を負った家臣が突然ボキボキと関節が外れるような音を発して、壊れたマリオネットのような不気味な動きをしていた。


『おおい! な、なんだぁぁ……!? 噛まれた家臣が不気味な呻き声を上げて……!?』


すると噛まれた家臣はゆらりと立ち上った。瞳孔を失って真っ白く濁った瞳、口にはドロドロと鮮血があふれ出ていた。


『だ、大丈夫か……』と、家臣の一人が噛まれた家臣に近づく。


『がが……グワーッ!!』と、噛まれた家臣は血塗れの口を大きく開いて家臣の一人に襲い掛かった!


同時に4DXの座席から、血みどろのような危険な臭いを充満させた。うわぁ……ゾンビに襲われている光景を間近で見ているような感じだ……!


『ギャァァァァァ! がぶごほっ!?』と、家臣の一人は首の頸動脈を噛みついて吐血してしまった。なんとまぁ……残酷な光景だなぁ……。


「怖くない怖くない……怖くないわぁ……!」と、隣でぼそぼそと呪文を唱えているかのように怖くないと自己暗示をかけていた。


――場面は一気に変わって、映画のストーリーは後半線に突入した。疫病は江戸ほぼ全域にまで拡大し、江戸はパニック状態になっていた。


『――きゃぁぁぁぁぁああああ!!』


『な、何だぁぁぁ!? ががががが……ッ!?』


なんて、江戸の街中の人々は疫病感染者に噛みつかれてパニックになっているシーンが流れる。同時に4DXの座席から、シーンに合わせるように血の異臭が充満していた。うわぁ……地獄映像だわ……、某新幹線内でのパンデミック映画を連想させるような光景だな……。

玲愛は――と、チラッと彼女の様子を伺う。やはり、ゾンビのクセにビクビクと震えていた。強がるような事をまた聞くのは嫌なので、視線が合わないうちにスクリーンへ視線を戻した。


『――感染者をこれ以上野放しするわけにはいかん! 感染者の殲滅戦を執り行う!』と、将軍はゾンビどもの討伐を執り行う事にした。


そして場面はクライマックス――江戸感染者討伐戦を開戦し、将軍自ら感染者を斬り倒すアクションを繰り広げている。そのシーンの一つ、乗馬しながら感染者を斬り裂くシーンに突入した。パカパカパカパカ……と将軍は馬を乗りこなし、同時に襲い掛かる感染者をぶった切るという爽快感のあるシーン――馬に乗った事が無いけど、本物の馬に乗っているような感覚だ。


(おおっ……座席が揺れるううう~~! 乗馬しているようだ……首がグラグラと揺れるぅ~~!! うっ……やべぇ……4DXの座席の揺れが激しすぎて、酔ってきた……)


普段慣れていない座席でしかも揺れるから気分が悪くなってきた。これはマズい……吐き気が催してきた……! 一回トイレに行って吐いて来よう……。


「玲愛……ちょっとトイレに行っ――――」


行ってくると玲愛に伝えようとしたが、伝える事よりも玲愛の今の姿に唖然とした。


――なぜなら、今の彼女は頭部が無くなっているのだから。


「――ぶううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」


な、何で首が消失しているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! と、心の中で叫んでいた。

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