二人は映画デートする ②
――駆け抜けた玲愛に追い付いてショッピングモール内を眺めながら、一緒に歩いていた。モールは四階建てで、俺達は一階のフロアを歩いていた。一階はスーパーマーケット、コーヒー専門店、パン専門店、アイスクリーム屋など食をメインとした専門店が並んでいる。
「ふぇ~~すごいなぁ……一階から四階まで吹き抜け構造になっているんだぁ~~真ん中にシャンデリアがある!」
玲愛はモールの中心にある吹き抜け構造とそこにぶら下がっている巨大シャンデリアに驚いていた。
「だなぁ……」
玲愛につられて俺も驚きながら眺める。まるで高級ホテルのフロントのような吹き抜け構造だなぁ……。
「あれ、玲愛は……?」
ふと横を見ると、玲愛がいない事に気づいた。まさか、迷子になっちゃったのか……と思った俺はキョロキョロと玲愛を探す。そしてすぐに見つけた。
「わぁ~~すごい! 東京で人気のパン屋がある! それに県内初出店だって!?」
玲愛はパン屋さんへ寄り道して、ガラス越しにあるパンを眺めていた。俺は彼女に近づき、ポンと肩を叩くと、「ひょわぁっ!?」と吃驚していた。
「う、海水くん!?」
「『海水くん』じゃないわ! 急に居なくなったから探そうとしたんだぞ……」
「あ、ごめんごめん……テレビで紹介されていたパン屋があったから、つい……」
なんててへへへ……と照れる玲愛。何がてへへへ……だよ……本当に迷子になったと思ったじゃないか。まあ、見つかってよかった。居なくなった時、マジで心配したんだからな。
俺はガラス越しからパンを眺める。ちょうど奥の厨房から出来立てのパンを職人がオーブンから取り出し、くんくんと匂いを嗅ぐと小麦の香ばしい香りが鼻孔をくすぶる。
「おぉ……出来立ての香ばしい香りが入り口まで漂ってくる……」
定番のクロワッサンとフランスパン、みんな大好きの惣菜パンやピザ、菓子パンなど色々な種類のあるパンが商品棚に並んでいた。
「ほへぇ……美味そう。朝飯食べたばかりなのに、腹が空くほど美味しそう……じゅるり」
思わず涎がダラダラと口の中であふれてきた。やべぇ……食べてぇ……パン。けど、今は映画館の方へ急がなきゃならない。早くしないと座席が取れなくなってしまう。
「……玲愛、そろそろ映画館の方に行こう。悪いけど、パンは映画館に寄った後にしよう」
「だね……、ごめん寄り道しちゃって。それじゃ行きましょう、海水くん!」
「あぁ……」と頷き、俺達は映画館がある棟へ向かった。
◇
――ショッピングモールを歩いて五分、ようやく映画館のロビーに着いた。ここの映画館は最新の映像モニターを使った十のスクリーンあり、県内初の4DX(体感型シネマ)を導入している。
俺と玲愛は、自動券売機の上にあるデジタルサイネージの画面を眺めていた。その画面にはリアルタイムで各作品の各上映の座席の有無を表示している。今の時刻は八時五〇分――九時台上映開始の映画は『△・残り僅か』か『販売終了』という表示が殆どだった。なので一〇時台の上映開始の映画で予約することにした。二回目の上映開始時間が大体そのぐらいで、座席もまだ空席が残っている。
「さて……映画、何見ようか?」と玲愛に尋ねる。
「うーん……海水くんは何見ようと思っているの?」と逆に尋ねてきた。
「まぁ……うん、見たいと思っている映画が一つあるんだけど――」
なんて歯切れ悪く言う。何故なのか――それは俺が見たい映画は『江戸パンデミック』と言うゾンビ映画だ。謎の疫病によってゾンビが蔓延る江戸を守るため、徳川幕府はゾンビに立ち向かうというストーリー。俺はゾンビ映画の耐性あるけど、玲愛はその耐性を持っているのか……もし持っていない彼女にこの映画を見ようって言うのも悪いと思ってしまっているのだ。
「海水くん? 歯切れ悪くしてどうしたの?」
「あ、いや……何でもない」
今回はこの映画はあきらめるか。正直、映画デートには向いていない映画だ。ここは定番の恋愛映画にしよう。
「あ……私、海水くんが見たい映画分かっちゃった――かも?」
「え――?」
「うーん、多分だけど……『江戸パンデミック』じゃない?」と、玲愛は答えた。
う、うそ……あ、合っている。……れ、玲愛――俺の思考を読んだぁじゃないのか?
「なんで分かった……?」と、恐る恐る玲愛に問う。
「ふふふふ~~IQ四の能力を持つ名探偵玲愛に溶けない謎は無いのだ~~なははははははっ!!」
なはは……じゃねーよ! なんだよ、IQ四の能力を持つ名探偵玲愛って! IQ三のラブ探偵〇カを意識しているのかッ!? だったらなんでIQ一しか上げていないんだよ!? 色々ツッコミどころ多すぎるわい!
「――ま、そう言うわけだ。俺は『江戸パンデミック』を見たいけど、玲愛は他に見たい映画ある?」
とりあえずIQ4の能力を持つ名探偵玲愛はスルーして、玲愛に他に見たい映画があるか質問する。
「うーん、特に無いかな……? ねー『江戸パンデミック』ってどういうお話なの?」
「まあ、一言でまとめると江戸に蔓延るゾンビをぶった切るノンストップ・アクション映画だな……この映画、公開前から気になっていたんだ」
「ぞ、ゾンビ……」
玲愛は唇を噛み締めて呟く。まさか……ゾンビのクセにゾンビ映画ダメなのか……?
「玲愛、まさか――」と声をかけた瞬間、玲愛は俺の声を遮った。
「ち、違うよ! 私、ホラーとかゾンビが出てくる映画、全然怖くないよ! だってほら、私はゾンビだし!」
(なんて言っているけど、絶対に怖いって思っているだろ……。膝が武者震いしているぞ……ゾンビのクセにホラー映画ダメなのか……?)
なんて内心で呟く。この呟きを口にしていたら、玲愛は絶対に怖くないもんって強く言い張るもんな……多分。玲愛が怖い思いしないように……『江戸パンデミック』は諦めよう。ここは定番の恋愛映画を―――
「――よ、よーし、海水くん! 私は『江戸パンデミック』を見るわ! 海水くんのおすすめする映画は絶対に面白いはずだわ! そ、それじゃ――座席指定しよ~~」と、玲愛は半ば強引に俺の腕を掴んでフロントの方へ向かった。
「ちょ……玲愛、腕掴――いでででででっ!!」
「私は怖くないもん! ゾンビ映画でビビる訳ないじゃん! だって私はゾンビなんだよ? ゾンビがゾンビ映画にビビるなんておかしいじゃん! あはははは!」
玲愛の奴……半分自暴自棄になっている。おかしいな……挑発的な事を一言も玲愛に言っていないのに……? まあ、いいか……映画デートでホラー映画は距離を近づけるチャンスだって言うし。
「いらっしゃいませ」と、映画スタッフが出迎えていた。
「す、すいません、このチケットを使って『江戸パンデミック』を見たいのですが……」
玲愛は肩さげカバンから映画チケットを取り出し、スタッフに手渡してそう言った。
「わかりました。『江戸パンデミック』の次の上映時間が一〇時四五分となります。追加料金千円お支払いいただければ4DX版を見られますがどうしますか?」
「4DX……?」と、玲愛は首をかしげていた。
(ほへぇ……江戸パンデミックって4DX版やっているんだ。うわぁ……見てみたいなぁ……)
ワクワクした気持ちになっていると、スタッフは俺達に4DXの説明をはじめた。
「4DXとは体感型シネマです。椅子が動いたり、水しぶきが出たりなど、まるで映画の中に入ったような気分になれます」
「それじゃ、4DX版の方でお願いします!」と、玲愛は4DX版を選んだ。ありがとう玲愛! でも……4DX版でゾンビ映画ってただ座って見るよりも恐怖度がぐっと上がるぞ……大丈夫なのか、玲愛。なんて心配そうに玲愛を見つめていた。
「かしこまりました。4DX版の上映開始は九時二〇分になりますがいいでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「ありがとうございます。それでは座席をお選びください」と、スタッフはタブレット端末を取り出して今現在空いている座席表を表示する。今の座席空き具合は、丁度真ん中あたりが空いているようだ。
「どうする、玲愛?」
「真ん中の方がいいんじゃない? だってほら、大迫力で楽しめるし!」
「まあ、そうだな……」
「それじゃ、J―六とJ―七の席でお願いします!」
「かしこまりました。4DXの追加料金――二千円になります」
スタッフがそう言うと、俺は財布から二人分の追加料金――二千円を取り出した。いつもお弁当のおかず貰っているんだし、恩返ししないとな……。
「ちょ……海水くん!? 追加料金、私の分は自分で払うよ!」
「追加料金は俺が支払うよ。いつも弁当のおかずを食べさせてくれるお礼だからさ。これでおねがいします」
「はい、二千円丁度お預かりします――レシートのお返しと、本日の鑑賞券と4DXのパンフレットです。よかったらお読みになってください」
スタッフから鑑賞券二枚とレシート、4DXのパンフレットを貰った後、俺達はロビーのソファーに座った。
「はい、玲愛。映画のチケットとパンフレット」と、玲愛に渡した。
「あ、ありがとう……海水くん。その、追加料金分……」
「あ、あぁ……うん、いいってことよ! それよりも玲愛、本当にゾンビ映――」
「だーいじょっぶ!! 大丈夫です! 私はゾンビなんだから、ゾンビ映画にビビる訳ないじゃん!」
「――あ……そ、そう……?」
「そーです! 私は怖くないもん!」と、強く言い張っていた。
(だめだこりゃ……もう怖いのかって言うのは止めよう。これ以上言うと玲愛が苦しむだけだな……)
なんて、これ以上「怖いのぉ~~?」って言うのを止めることした。
『ご案内いたします。九時二〇分に上映開始の『江戸パンデミック 4DX版』の入場を開始いたします。ご鑑賞するお客様は、入場ゲートへお進みください』と、入場開始のアナウンスが流れた。
「もう入場時間か……玲愛、入場しよう」
「その前にポップコーンと飲み物買おうよー! 海水くん」と、玲愛はポップコーン売り場の方に指を指す。確かに、ポップコーンは必須だよな……。
「だな、ポップコーン買うか――」と頷いて、俺達はポップコーンを売っている売店の方へ向かった。
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