二人は映画デートする ①
――ジメジメと梅雨の湿気が残る中七月に入って初日。俺は東飯諸(ひがしいいもろ)駅という無人駅のホームにある簡素な雨避け付きのベンチに座り、ある人を待っていた。
「あぁ……あじぃ……ジメジメする」
俺は、シャツの襟首を掴みパタパタと動かして空気を入れ込む。だが、入ってくるのはジメジメした空気で全然涼しくならなかった。
「あじぃ……玲愛、早く来てくれぇ……電車が来るよぉ……」
玲愛がなかなか来ない事に嘆いていた。そう……今日は玲愛とデートの約束をしている。最初に行ったゲーセン半日デートとは違い、今回は一日デートを行うのだ!
▽
――なぜ二回目のデートを約束したのか――それは昨日の朝まで遡る。
昨日の朝、玲愛は「海水くん……その、明日……一緒に映画見に行かないかな?」と誘ってきたのだ。なんでも玲愛の家の土地主さんから、隣町のショッピングモール内にある映画館限定の映画鑑賞のペアチケットを頂いたらしい。そのチケットはよくラブコメ小説の映画デートなどで登場する恋愛映画と言った作品限定のチケットではなく、その映画館で上映中している作品一本をペアで見れるというチケットだ。
「いいぜ、映画見に行こうぜ!」と、この誘いは乗ることにした。だって、お付き合いしているのに映画デートを断る男子っていないでしょ? ホラー映画で「こわいよ~~」って彼女に抱きしめられたいじゃん!
……まあ、そんな訳で俺達は今日デートする約束をしたのであった。
(くぅぅぅぅっ!! つ、遂に丸一日デートする日が来たぁぁぁ!! うわぁ……やべぇ……ドキドキする。この前、玲愛の家に泊まった時と同じくらいドキドキする……!)
なんてドクドクと高鳴る心臓の音を抑えていると、「海水くぅぅ~~ん!」と誰かが俺の名を呼んだので声の方向へ顔を向ける。その先に手を振りながらホームに向かって走ってくる玲愛の姿が見えた。
だんだんと玲愛との距離が近づくと、俺は彼女の姿に見惚れてしまった。爽やかな白色のワンピースと薄いベージュ色の半袖カーディガン……最近のファッションに合わせたコーディネートの服装だった。そう言えば玲愛っていつもセーラ服しか見ていないから……私服姿の玲愛ってなんか新鮮な光景だなぁ……。
「はぁ……はぁ……ごめん、路線バスが遅延しちゃって……待った?」
「ううん、ちょっと前に着いたところ」と答えた。
まあ、実際は三十分前に駅に到着していたけどね……。なんて内心で嘘を暴露していると、耳障りなディスクブレーキ音を轟かせながらハイブリット気動車がホームに滑り込んだ。ちょうどいいタイミングで電車が来たな……。
ドアの横にある半自動ドアのボタンを押して玲愛と一緒に気動車に乗り込み、乗車整理券を手に取って空いているボックスシートの席に座った。
そして俺達が乗車した後にドアが閉まり、ゆっくりと電車のような静かなモータ音を響かせながら気動車は東飯諸駅を出発した。
隣町のショッピングモールに行くには自家用車、バス、鉄道などあるが、今回は鉄道を使って向かうことにした。バイクで先にショッピングモールへ向かおうと思ったけど、玲愛は隣町のショッピングモールへ行くルートが分からないので一緒に行った方がよいと決断したのである。後々電車でショッピングモールへ行くルートを調べてみると近くに「ショッピングモール前駅」という駅があり、そのままショッピングモールへダイレクトアクセスできるらしい。
そんな訳で、緑一面の田園風景を眺めながらハイブリット気動車に揺られ、「ショッピングモール前駅」へ向かった。
『まもなく、ショッピングモール前、ショッピングモール前です。お出口は左側、一番前の扉からお降りください。運賃・切符は運転席隣の運賃箱にお入れください』
ハイブリット気動車に揺られて数十分――到着アナウンスが流れてショッピングモール前駅に近づいてきた。駅到着前に財布から運賃を取り出して乗車整理券と一緒に右手に握りしめた。玲愛も俺と同じく運賃を用意していた。
列車が停車する直前に俺達は席に立って運転席隣の運賃箱の前に立ち、きぃぃ……と緩やかにブレーキを効かせながらゆっくりとショッピングモール前駅のホームに滑り込む光景を眺める。ちらほらとホームに買い物帰りに利用するお客さんが居た。そこそここの駅を利用する人はいるようだ。
気動車が完全に停車して、半自動ドアボタンが点灯すると同時に運賃箱に運賃と乗車整理券を入れて半自動ドアボタンを押して気動車から降りた。
「ふぅ……着いたぁ~~」
俺は座席の疲れを取ろうと、気分転換に体をぐっと伸ばした。
「だねぇ~~海水くん」と、隣の玲愛は神秘的な光景を見ているかのようにショッピングモールを眺めていた。
「玲愛、ここのショッピングモールに行くのって初めて?」と質問する。
「うん! 一度は行ってみたいとは思っていたけど、バイトで中々行く機会が見つけられなかったんだよね……」
「そうなんだ……」
なるほど……道理でキョロキョロとショッピングモールを眺めているわけだ。
「じゃあ、海水くんは?」と、逆に質問してきた。
「実は……一回だけ言った事があるんだ」
「へぇ……行った事あるんだ!」
「まあ、ここの映画館で映画見てすぐ帰ったけど……ね」
映画観終わった後にちょっとだけショッピングモール内を覗いたけど、何が何だかよくわからなかったんだよね……あの時、家の用事が急に入って速攻で家にゴートゥーバックしたんだっけ――けど、今回は玲愛と一緒に映画とショッピングモールを巡る! 一緒に食事して遊んで、映画見て泣いて……くぅぅぅぅぅぅ!! 人生初のショッピングモールデートを必ず成功してみせるぜ!!
「そろそろ、映画館が開館するから映画館の方へ行こうか」
「うん! 早く行こう、海水くん!」
玲愛は、先にショッピングモールの方へ駆け抜けていった。
「ちょっと、玲愛! 先に行くなぁ~~! 迷子になるだろぉぉぉぉ!!」
なんて叫びながら、映画館へ向かって駆け抜ける玲愛を追いかけた。全く……子供を追いかける親になった気分だわ……。
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