ショッピングモールデート in 女性ファッション専門店 ①

 ――玲愛とのドキドキに満ちた昼食を終えて、俺達はショッピングモールの三階へやってきた。三階のフロアは洋服屋や本屋、鉄道模型店などが集まる専門店がテナント無く並んでいた。

 お互いこのフロアに来るのは初めてなので三階エスカレーター降り口近くに置いてあったモールのフロアマップを入手し、それを見ながら三階フロアを散策することにした。


「すごいなぁ……殆ど東京か地方都市にしかない店が集まっている。アニメショップと同人誌ショップまであるし、女性ファッション専門店もある」


 きょろきょろと、ここの地域には殆ど見かけた事が無い専門店を眺めていた。


「――海水くん、ちょっと寄りたいところあるけどいいかな?」


 ぐっと顔を近づけてそう言った瞬間、ドキドキとした感情が突如湧き上がってきた。


(あれ……なに、む、胸が高鳴っている!? 玲愛の顔が近づいただけなのに? そ、それに眼差しがキラキラしている。前は少し鋭く見えていたような気がするけど……? ま、まさか……これが『キスすると彼女の表情ががらりと変わる』と言うやつかぁ!?)


 ラブコメのお話でよく聞く現象が俺にも起こってる事に驚いていた。やっぱり、キスすると彼女の見方が変わるって本当だったんだなぁ……と思いながら、玲愛の顔をジーっと眺めていた。


「――ぼーっとして、ど、どうしたの……海水くん?」


 玲愛はキュンキュンとした表情して問いかけた。あれ? これって意識しているの?


『している――玲愛は立夏とキスしてから、ずっと意識している!』と、ナレーションする(勿論、二人は聞こえていない)。


「あ、いや……何でもない。ど、どこの店に寄るんだ?」


「そこのお店――」と、視線をその店の方向へ送ると、そこは女性ファッション店だった。


「原宿で人気な女性ファッション専門店なの! 大ファンの高校生アイドルグループ『原宿ガールズ』の衣装をこの女性ファッション店が監修しているんだよぉ~~! それと『原宿ガールズ』のコラボTシャツと監修したその衣装が販売しているんだよ~~! はぁぁぁ……遂にこのお店も県内初出店するなんて……!」


 玲愛はキラキラとした眼差しで、ファッション店を説明し始めていた。


「へ、へぇ……そうなんだ」と、こくこく頷く。


「そうなの! 早速、行きましょ!」


 先に店内に駆け込む玲愛を追いかけるように、俺は女性ファッション専門点に入った。


(ほへぇ……女性ファッション専門店ってギャルが着そうな可愛い服しか置いていないイメージがあったけど、清楚令嬢が着そうな華やかな服、ガールズバンドをやっている人が着ているかっこいい服もあるんだぁ~~)


 きょろきょろと、朝の情報番組で見た事あるような女性ファッション服を眺めていた。


(……あれなんか、店の中見回しても男子は俺だけしかいなくね?)


 さっきから俺への視線が強く感じる……。なんだろう……異質が紛れ込んで何しているのって思われているような雰囲気が漂っているなぁ……。


「海水くん~~!」


 玲愛は俺の名前を呼んで、こっちに来てと言わんばかりに手招きしていた。


「おーう、今行く!」


 彼女の元へ向かうと、そこは新入荷したばかりの夏服がずらりと並ぶコーナーだった。玲愛は新入荷の夏服を何着か腕の上にかけていた。


「可愛い夏服見つかったか、玲愛?」と声をかける。


「うーん、まあ……何着かね……。でも、しっくりくるような夏服が無くて……」


「そうかな? 玲愛ならどんな服でも似合うと思うよ」


「ありがと。うーん……どの服がいいかなぁ――あ、そうだ。海水くん、私に似合う夏服選んでよ!」


「うえぇ!? な、夏服を選ぶ!? お、俺が!?」


「――うん、いいでしょ? 私が服を選ぶのもいいけど、彼氏――海水くんの意見も聞きたいなーって……」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、ツンツンと……人差し指どうし突っつきながら言う。


「まあ、いいけど……俺は――」


「やった! それじゃ、私はあそこの試着室に居るから見つけたら呼んでね~~!!」


「ちょッ!? 待て玲愛ぁぁぁ!! 俺は服選びのセンスなんて無いんだぞぉぉ!!」


 俺の話を最後まで話を聞かず、玲愛はそのコーナーの後ろにある試着室コーナーの方へ入ってしまった。


(う……うぅ……ど、どうすればいいんだよ……。服選びなんてした事無いのにィィ!!)


 なんて頭抱えて悩んでいた。そう――俺は一度も服選びした事が無いのだ! いつも俺の服は親頼み……時々自分で選べって言われたときは、いつもジャージ類しか選んでいない……! 流石に、何も考えないで適当に持ってきた服を玲愛に着させるのは止めた方がいいな……。今後の付き合い方が気まずくなる……。

 頭を抱えて悩んでも何も始まらない……。とにかく、玲愛に似合いそうな夏服を探そう……と思いながら、新着の夏服コーナーにある夏服を探し始めた。


「玲愛が似合う夏服かぁ……。玲愛は黒髪ロングで清楚系な感じだから、イメージだとラブコメ小説やエロゲに登場する黒髪ロングのヒロインが着用している夏服って――ワンピース、タンクトップかTシャツとスカートの組み合わせのイメージが強いよな……。よし、その組み合わせに絞って、夏服を探してみよう」


 俺は、早速そのコーナーにあるTシャツとタンクトップ、スカートを探し始めた。


「うーん……どれがいいかな? 色は後で選び直すとしても……タンクトップのタイプは首掛けのやつか首に通すやつか――とりあえず、両方持っていこう。スカートはゴムベルトタイプか、普通のベルトタイプか――こいつも両方持っていこ」


 近くに置いてあった買い物かごに何着か腕にかけていた服を入れて、玲愛がいる試着室コーナーへ向かった。


「えっと、玲愛がいるのは――あそこか」


 試着室スペースに入ると二つの試着室があった。片方の試着室のカーテンが締まっているので、多分玲愛がそこに居るんだろう。


「おーい、玲愛! 選んできた服持ってきたぞ~~!」


 コンコンと縁の所をノックして玲愛を呼んだ。


「え、ちょ……う、海水くん!? ちょ、ちょっと待ってね! すぐに着替えるか―――きゃっ!?」


 どてん……がっしゃーん……と、試着室内で大きな物音と玲愛の短い悲鳴を轟かせた。


「お、おい! 玲愛!? 大丈夫か!?」


 コンコンと縁の所をノックするが、玲愛は反応しなかった。な、何かあったのか?


「す、すまない、玲愛! カーテン開けるぞ!!」


 シャーとカーテンを開いて、試着室内の様子を確認する。


「――あ、あわぁぁぁぁ……!? う、海水くん!? ふぁふぁふぁ…………!? なななななななななななな――――」


 そこには派手にすっころんで、あわわ……と頬を真っ赤に染めて動揺している玲愛が居た。今の彼女は、フリルが刺繍されて立体感のあるブラジャーと花柄デザインで可愛らしいパンツを身に纏った下着姿だった。

 俺は今の彼女の姿に、魚の呼吸みたいにパクパクしながら眺めていた。


「れ、玲愛――な、ななな……何があった……?」


 れ、玲愛って、こんなどやんすボディな体だったんだぁ……おっきいなぁ~~おっぱ―――って、ちがぁぁぁう!! そうじゃないだろぉぉぉ!!


「ご、ごめん! ちょ、ちょっとこけちゃって……」


「そ、そ、そうなんだ――あ、その――選んできた服持ってきたよ……」


 下着姿の玲愛を見ないように視線を逸らして、買い物かごに入った服を渡した。


「あ、ありがとう……」


「そ、それじゃ――失礼しましたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そう言って俺は試着室のカーテンを閉め、試着室コーナーをビューンと逃げるように抜け出した。


「はぁ……はぁ……」


 ドキドキと胸が張り裂けるような鼓動を抑え、俺はファッション専門店の前にあるソファーに座った。


(うぅ……見ちゃった見ちゃった見ちゃった……! ――ご、ごめんよ、玲愛……。あ、あれは、じ、事故だったんだ! お、俺は玲愛がすっころんで反応ないから――開けただけなんだァァ!)


 なんて頭を抱えながら、心の中で誤解だと叫ぶ俺であった。



 ◇



 ――一方、更衣室に居る玲愛は、下着姿のまま更衣室の床に座り込んでいた。


「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた! 彼氏に下着姿見られた……! こ、こんな……ハプニング展開で!? 下着しゅがた姿は……、もう少し絆を深めてから見せようと思っていたのに…………!」


 なんて、玲愛はあわわ……と落ち着いたのにまた動揺し始めていたのであった。

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