リゾートプールへ行こう 中編1(スライダーパニック)

巨大スライダーに着いて十五分後――やっと順番が俺達のグループになった。

流石人気のある巨大スライダー。ピーク時は一時間以上待たされる。けど、待ち時間の看板によると今回は十五分ぐらいで済むなんてラッキーだな。


「それじゃ、滑ってくる! ヒャッホー!!」


トップバッターの雪菜は、巨大スライダーの入り口に飛び込んで水しぶきを上げて滑っていた。


「気持ちィィっ!!」


うねうねとまるで蛇みたいなスライダー内から、雪菜の楽しそうな声が聞こえた。


「それじゃ、俺も行ってくる!」


そう言って、俺は頭からスライダーの入り口に座る。そこから噴き出る冷たい水が体を濡らして、巨大スライダーの穴の中へ飛び込んだ。


「ひゃっほー! 気持ちィィ!!」


蛇状みたいな配管構造みたいなスライダー内をうねりくねりと物凄いスピードで滑っていく。スライダーで高速で滑るこの爽快感……。まるでジェットコースターに乗っているような気分だ。こんな気分を味わうのは小学校低学年以来だ。懐かしいな……こんな風に滑っていたっけ……。

なんて思い出に浸っているうちに、ドボンッ……とゴールの浅瀬プールに突っ込んだ。


「ぶはぁッ!? ごほっ……は、肺と鼻に水が入った……うげぇぇ……ごほごほッ!」


プールの水から顔を出すと、鼻にツーンとした強烈な痛みと咳き込みが同時に襲った。


「ごほっ……ごほっ……! 」


暫くして咽せりが無くなって、息がだいぶ楽になった。でも鼻のツーンとした痛みはまだ抜けない。ほんとこの痛みは全然慣れないし、慣れたくもないよなぁ……。


「キャーッ!! 速い~~!!」


なんて背後から聞き覚えのある声が聞こえた。次滑っているのは玲愛か? 早くプールから出なきゃ……。

そう考えた俺は、玲愛と衝突しないようにプールから出て退避する。その数十秒後にドッバァァン……と水面に叩きつける音が鼓膜に響いた。


「派手に着水したなぁ……アイツ。この衝撃で首がもげたりしなければいいけど……」


なんて不吉な事を呟きながらブールの方を眺める。その言葉の通り、玲愛の姿は一向に水面から出る気配が無かった。


「玲愛の奴、何処にいるんだろ――――ぶうううううううううううううううううううううううッ!?」


不安に感じた俺はプールの水面をちらりと覗く。そこには、頭部と胴体が真っ二つにもげた玲愛がプールの底に沈んでいたのである!


(な、何やっているんだぁぁぁ!? ゾンビの事をみんなにバラす気かぁぁぁぁ!? あと、何度も思うけど……首が脆すぎだろぉぉぉぉぉぉッ!!)


内心でそう突っ込んで、ぐにぃぃ……と唇を歪ませて沈んだ玲愛を睨んだ。


「あれ……? プールの中に人が倒れてない?」


ふとプールの中を除いた人がそう呟いていた瞬間、俺は咄嗟にプールに飛び込んでいた。


(マズイ! このままじゃ、玲愛がゾンビだってバレてしまう! 誰かに救助される前に首と胴体をくっつけないとッ!)


息すら忘れて水の中に潜り、底に沈んだ玲愛の胴体と首をぐりぐりとはめ込んだ。そして玲愛を担いで水面から顔を出した。


「ぷはっ!? お、おい、玲愛、大丈夫か?」


ぺちぺちと玲愛の頬を叩いて、意識があるか確認する。


「う、うぅん……? あれ、海水くん?」

「はぁ……よかった。首と胴体が分裂していたんだぞ……」

「え、マジ? ごめん……また迷惑かけちゃって」

「いいって、もう慣れたし……」


なんて溜息交じりに呟きながら、玲愛を見つめていた。まあ、何度もこんなハプニングに遭っているからなぁ……。ゾンビだってバレないように気を付けないとな。


「キャーッ!! お兄ちゃん、どいてどいてぇぇぇ!!」


キュンキュンしそうな展開だったのに、その雰囲気をぶち壊す七海の叫び声が背後から聞こえた。


「え……? 七海?」


背後を振り向くと、浮き輪の上に乗った七海がちょうどプールに着水する。そしてイノシシが突進しているような凄まじい勢いで、水面の上を滑っていた。


(な、なんだぁぁ!? サーフィンみたいに水面の上に乗っているんですがぁぁぁ!?)


俺はその光景に呆気を取られて動く事が出来なかった。その刹那、七海と衝突してしまったのである。


「ぶごほッ!?」

「きゃっ!?」


俺と七海の短い悲鳴と共に、強い衝撃が背中に走った。まるで車にはねられたような感じだった。まあ、車にはねられた事は無いけど……。

そして前の方に倒れ、バッシャーン……と音をたて水面に顔面を強打した。


「ぼごごごごっ……ぶぁっ! いってぇぇ……」

「ぶはっ……お兄ちゃん、玲愛ちゃん、大丈夫!?」

「あ、あぁ……いてぇ……。七海こそ大丈夫か?」


ふんふん……と鼻の奥に入った水を吐き出しながら答えた。


「う、うん……大丈夫」


七海はそう答えると、ほっ……と安堵の息を溢した。


(そ、そうだ、玲愛は!?)


玲愛の方に視線を向けると、ブクブクと泡を立てながらプールの底に沈んでいた。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁッ!? れ、玲愛ぁッ!?」


その光景を見た俺はあたふたと動揺しながら、沈んだ玲愛を救助する。そして、プールから出て床に玲愛を寝かせた。


「ごほっ……ごほっ……はぁ……な、何が起きたの……?」

「よかった……また溺れたかと思ったぞ――――ぶっ!?」


再び安堵の表情を浮かべようとした矢先、俺は衝撃的な光景を目の当たりにした。



――その光景とは、玲愛の左腕が消失しているのであった。



(な、何で左腕が消失しているのぉぉぉぉぉッ!?)


何処いった? 玲愛の左腕はッ!? キョロキョロと玲愛の左腕を探し始める。


「プールの中に人の腕が見えるんだけど、何あ――――」


七海がプールの中を除こうとした瞬間、目に映る世界がスローモーションになったような錯覚を感じた。俺はスタートダッシュの如く足を強く踏んで、プールに向かってダイブした。


「きゃっ……!?」


ダッバーンと水柱を立て水の中に入り、底に沈んだ玲愛の左腕を拾う。そしてすぐさま玲愛の胴体に左腕を装着した。僅か数十秒と言う神速記録を叩きだしたのである!


「ぶるぶる……な、何が起こったの? ねえ、お兄ちゃん。腕が――あれ?」


七海はぷるぷると犬みたいに水を飛ばした後、プールの方に視線を向ける。


「はぁ……はぁ……ど、どうしたんだ、七海……」

「お、お兄ちゃん? ど、どうしたの? 息乱して」

「あ、あははは……ちょっと腹筋を……ね」


なんて笑いながら誤魔化していた。と、とりあえず、玲愛の左腕が取れた事がバレなくてよかった……。


「……あれ? 私、何していたんだっけ?」


なんて玲愛はゆっくりと起き上がり、キョロキョロと周りを見回していたのであった……。

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