倉宮玲愛は渡したい 後編 玲愛side

 ――昼休み。私ははぁ……と溜息を溢しながら、ゆっきーと一緒に昼食を食べていた。


「――どうしたの、れーちゃん? ずっと溜息ついて」


 ゆっきーが、モグモグとパンを口にしながら尋ねてきた。


「うん……いつなったら、二人っきりになれるのかなーって。ずっと悩んでいるの……」

「あぁーそれ? 放課後ならチャンスあるって言ったでしょ?」

「う、うん……そうだけど……渡せるのかなぁ……ちゃんと」

「え、どうしたの? ネガティブな事考えて……」

「今朝、エレンが立夏君にプレゼントを渡していたでしょ?」

「うん、それがどうしたの?」

「その……なんと言うか。恋人がいるのに後輩から誕生日プレゼントを貰っているところ見ちゃって泣きながら逃走する。そう言うラブコメのシーンにあるじゃん? そんな感じのショックを受けて、渡す勇気が――」

「――何ふざけた事を言っているのよ! エレンがプレゼントを渡した光景を見て、ネガティブになっているじゃないわよ!」


 ゆっきーは、バン……と机を叩いて一喝した。


「ゆ、ゆっきー?」

「彼女居るのに、誕生日プレゼントを友達一人だけ貰って嬉しいって思う男子っている!? 海水くん、彼女から何ももらえなかったって絶対嘆くよ! そのまま気まずい関係になっちゃってもいいわけ!?」

「そ、それは……嫌。で、でも――」

「『でも……』じゃなーい!!」と言って、私の頬をむぎゅーと抓った。

「ふぇ……? いふぁい、いふぁいよぉ痛い、痛いよぉ!!」

「いい、れーちゃん!! 最初っから渡せないじゃん……って思っちゃダメ! 彼氏に必ず渡すんだって強い気持ちを持つ事が大切なの! 今のアンタはその意志に迷っているからネガティブな事を言っちゃうの!」

「う、うん……」

「だから、ネガティブな事を考えないこと! そして必ず渡したいという気持ちを強く意識すること! 彼氏にありがとうって言われたいでしょ? 絆深めたいんでしょ!?」

「うん……」

「だったら、しっかりしなさい!」


 ゆっきーはバンッ……と私の背中をきつい一発を放った。その瞬間、私の体に縛りついた鬱な鎖が砕け散ったような気がした。


「――ゆっきー」と呟きながら、彼女の顔を見つめる。


「大丈夫! れーちゃんなら出来るって。恋愛相談した時、何事も挑戦しなきゃダメって言ったでしょ?」


「うん――そう、だね! 立夏君の喜ぶ顔が見たいもん! それじゃ早速、探してくるぅ~!」


 ゆっきーにそう言って教室を飛び出した。


(今日は、友達と久々に昼食を食べるって言っていたし、何処にいるのかなぁ~?)


「おーい、れーちゃん!」

「んー何~~!?」

「お昼休み終わるけど、次の授業体育じゃないの!?」

「――えっ!? お昼休みもう終わりなの!?」

「うん! 早く行かないと、次の授業に遅れちゃうよぉー!」

「う、うん……分かった!」


 ぐるりと回れ―右して、教室へ戻った。


(結局、またタイムオーバーかよぉぉぉぉぉぉぉ!! 午前中は違う授業で立夏君に会えなかったし……。二人っきりになる以前に立夏君を誘わなきゃ……!)


 なんて考えて教室に入ると、ゆっきーはこそこそとルーズリーフノートの紙に何か書いていた。


「ゆっきー? 何書いているの?」

「れーちゃん! これ彼氏くんの引き出しの中に突っ込んで置いてね!」


 先ほど書いていた紙を貰って、その紙に書かれた文を読んでみた。


「『放課後、告白した空き教室に来て。玲愛。来てくれたら、私と一緒に夕暮れの教室でシよ? はーと(意味深)』――――ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ゆっきーッ!!」


 なんて、ゆっきーに向けて全力で突っ込んだ。


「ん? なにれーちゃん?」


 にしし……と悪魔みたいな笑い声を漏らしながら、ゆっきーは振り向いた。


「なにこれ! なんで『シ』の所だけ、カタカナになっているのよ!? 最後の意味深って何!? はーとも何!? と言うかなんでひらがな!?」

「えーそう書かなきゃ、海水くん来ないでしょ?」

「そんな事を書かなくても海水くんは来るよ! 全く……変な事か書かないでよ」

『玲愛』以降の文章を破り捨て、残りを立夏君の机の引き出しの中に突っ込んだ。

「あぁん……なんで最後の文だけ破っちゃうの?」

「私と海水くんは、ゆっきーが思っているような関係じゃないの!」


 そう私たちはまだエッチな関係までは行って―――行って……。


(ふぁわわわわわっ……!?)


 ボン……と瞬間沸騰したような熱が頬にこもる。ゾンビなのに……熱なんて宿らないのに、頬が熱くなった。

 付き合ってからの出来事を振り返ってみると、立夏君とやましい事なんて無い。そう思っていたけど、一回立夏君と添い寝したんだっけ……! そして寝ぼけた立夏君の手が私の……。


「おやおやぁ~? そういう関係じゃないって言っているのに、なんで頬を真っ赤に染めているのかしらぁ~?」

「う、うるさい! ゆっきー! そ、それよりも、早く体育の準備をしないと遅刻するよ!」


 ゆっきーの質問を無視して、今日の授業で使う水着一式を持って教室を出た。


「はいはい……」



 ※



 ――一時間後。

 俺は次の授業の準備の為、引き出しから教科書を取り出す。


「ん……? なんだこれ?」


 入れた覚えのないルーズリーフノートの紙が上に乗っていた。殴り書きのような汚い字で、下半分が何故か破られている。一体誰が書いたんだろう……と思いながら紙に書かれていた文章を読んだ。


「告白した教室……玲愛……」


 ドキドキと心臓の鼓動が高鳴る。玲愛からの誘い……なんだろう……?


「おーい、立夏! 早くしねーと遅れるぞ!」

「お、おう……! 分かった」


 ノートの紙をズボンのポケットに突っ込み、早く放課後にならないかなぁ……と思いながら授業を受ける教室へ向かった。

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