倉宮玲愛は渡したい 前編 玲愛side
――朝、私はぐぅっと背伸びをして、太陽の光を浴びていた。
「くぅぅぅ!! つ、ついにこの日が来たわ!」
――時は来た! 遂に……七月三日と言う日がやってきたのだ! 付き合って初めて迎える彼氏の誕生日! ……一年前は知らなかったから渡せなかったけど、今年はちゃんと渡せるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「よ、よし……この前買った誕生日プレゼント持った!」
登校前、私はこの前買った勾玉入りのお守りが、カバンの中に入っているか何度も確認する。
「それじゃ、いざ学校へ!」
戦場に向かう戦士みたいに私は家を後にした。
※
「おはよーれーちゃん!」
教室に入ると、友達の雪菜ちゃんが挨拶してきた。黒色のショートヘアが特徴の少し男勝りな性格な女の子で、私の恋愛相談を乗ってくれた人でもある。
「おはよー、ゆっきー」
挨拶した後、カバンを机の上に置いて椅子に座ると、前の席に雪菜ちゃんが座った。彼女の席は私の席の前なのだ。
「ね、れーちゃん。彼氏とはどこまで進んだの?」
「ふえっ!? ど、何処まで……何処までって?」
「まあー、うん……キスを通り越してこれしたとか?」
ニヤニヤと微笑みながら、左手の親指と人差し指をくっつけて円状にし、右手の人差し指で円の中で抜き差しを繰り返していた。意味はセッ……である。勿論私はその意味を理解していたので、ぶぅぅ……と唾を吐いた。
「そ、そこまで行っていないよぉぉぉぉぉ! き、キス……ぐらいなら……」
「キス!? キスしたの!?」
がたた……と椅子から立ち上がって、驚いた声で言うゆっきー。
「う、うん……」
「かぁぁぁぁ……! 熱いねぇぇ! 学校では孤高の黒姫と呼ばれていたれーちゃんが、大胆なことするようになったねぇぇ!!」
ゆっきーは、バンバンと私の背中を叩いた。
「ちょ……痛いよ、ゆっきー」
「あはは……ごめんごめん――」
なんてゆっきーが謝っていると、後ろから「おはよー」と聞き覚えのある声が聞こえた。ふと振り向くと立夏君だった。
「お、おはよ……海水くん」
「おう、おはよう」
私の方に視線を向けて挨拶し、席に着いた。さあ、海水くんが来た事だし、早速誕生日プレゼントを渡そう! そう思って、私はカバンの中から誕生日プレゼントを取り出した。
「れーちゃん、何なの? そのラッピング袋――」
ゆっきーが袋を見て質問してきた。
「え――? あ、い、いや! な、何でもないわ!」
咄嗟に、お守り袋が入ったラッピング袋をスカートのポケットに突っ込んだ。同時に立夏君の方に視線を向ける。しかし、立夏君は席を外して居なかった。
(あれ……何処に行っちゃったの?)
きょろきょろと視線を回すが、教室には彼の姿は見当たらなかった。プレゼントの事を知られずに済んだ事の安堵と、何処に行ったのか不安な感情が同時に湧き出ていた。
「そう言えば後ろの彼氏さん、今日誕生日だよね。もしかして、誕生日プレゼント?」
ニマニマと微笑みながら言うゆっきー。海水くんが私の彼氏だという事はゆっきーは知っている。
「……うぐ。そ、そうだよ……誕生日プレゼント」と、頬を真っ赤にして答えた。
「――で、いつになったら渡すの?」
「何時って……、二人っきりの時に渡したいなーって思っているの」
「……へー少女漫画みたいにロマンチストなことするんだ」
ゆっきーは、鼻ほじくりながら棒読みで呟いていた。
「い、いいじゃない! 私はああいう風に二人っきりになって、照れた表情で渡したいの!」
「まあ、渡すのはれーちゃんの役目だから何も言わないけど。早く二人っきりにならないと、渡し損ねちゃうよ」
「う、うん……そうだね。誰もいない教室に彼を誘って、プレゼントを渡さなきゃ!」
そう考えた私は席を立ちあがり、立夏君を探し始める。教室を出てすぐに立夏君が居た。
「グッドモーニング! そして――ハッピーバースデー、リッカ!」
登校したばかりのエレンが立夏君に誕生日プレゼントを渡していた。
「うわぁ……サンキュー、エレン。と言うか……俺の誕生日、知っていたの?」
「ハイ! リッカのフレンドリーから聞きました!」
「あはは……まあ、うん。とりあえず、ありがとう。中身はなに?」
「開けてからのお楽しみデース!」
「どれどれ――お、クッキーか! それじゃ早速いただきます」
「どうデスか? 口にアイマスか?」
「うめぇ! このクッキー、チョーうめぇ!!」
「リッカが喜んでくれて、私嬉しいデース!」
なんてエレンと立夏君は、イチャイチャと話し合っていた。私はその光景を見て憎悪が沸き上がった。
「アノクソアマ……」
「……エレンの奴、海水くんの事めっちゃ気に入っているみたいだね。その内、エレンちゃんに乗り移っちゃうんじゃないかな? ねえ、れーちゃ――んッ!?」
ゆっきーの驚く声。それは、私がカリカリとドアの柱に爪を立て獲物を狙うライオンの如くエレンを睨んだ光景だった。
(……立夏君以外にも男なんて沢山いるのに、何故立夏君ばっかり接するのか、このクソアマ……。ちゃっかり誕生日プレゼントを渡して……。何かムカつく……短期間で立夏君と打ち解けあって……私なんて一年かかったのに。あぁ……そろそろ噛み殺していいかな?)
「ちょ……れーちゃん。さっき言った事は冗談だから、落ち着いて」
「アノ牛ミタイナ乳デ誘惑スルビッチメ……! アノ乳デ、何人ノ男ヲ
ゆらりと廊下を出て、二人に近づく。立夏君は悪くない……悪いのはエレンだ。だから、
「れーちゃん、落ち着いて! 口調が妖怪みたいになっているから!! れーちゃんだって、おっぱいのサイズはエレンと同じぐらいでしょ!? とりあえず落ち着こうよ!」
ゆっきーは説得しながら、ガシッと私の体を押さえて止めた。
「離せ、ゆっきー!! 私は……私はぁぁぁぁ!!」
「海水くん! ヘルプ、ヘルプミー!!」
ジタバタと暴れ出す私を止めるため、立夏君を呼ぶゆっきー。
「ん……? え、玲愛!?」
「海水くん、ちょっとれーちゃんを止めて!!」
「わ、分かった……玲愛、落ち着いて!」
「離せぇぇぇ……! 海水くんを取り戻すんだぁぁぁ!!」
「玲愛、俺はここに居るぞ!」
その言葉を聞いた瞬間――私は我に返った。だって、立夏君が目の前に居たのだから。
「う、海水くん……」
「どうしたんだ、玲愛。朝っぱら暴走して――」
「あっ……いや、その――な、何でもないわ」
あははは……と笑って誤魔化した。
(……またエレンに対して憎悪な感情をむき出してしまったわ。前回もそうだけど、エレンは立夏くんにべたつきすぎだよ。私と言う恋人がいるのに……)
なんて隣のクラスの女子と話すエレンを睨んでいた。
(――あっ、エレンの事で忘れそうになった。立夏君を連れて誕生日プレゼントを渡さなきゃ!)
「ねえ、海水くん! そのちょっと一緒に来て――――」
くれる……と言って彼の手を繋いだ瞬間、一時間目の開始チャイムが鳴っていた。
「えっ……もう、そんな時間!?」
呆けた顔で時計を見ると、八時五十分――一時間目の授業の開始時刻になっていた。
「玲愛、用件は授業終わってからな!」
そう言って立夏君は、教室に入って自分の席に戻った。
「あーうん、れーちゃん……ドンマイ。放課後、勇気振り絞って海水くんを誘いな」
ゆっきーは、ぽんぽんと肩を叩いて励ますような言葉を言った。
「――どっちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!! いっつもいつも……、なんでいい感じの時にタイムオーバーするんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
果たして、私は今日中に立夏君の誕生日プレゼントを渡せるのか……不安になってきたのであった。
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