ショッピングモールデート in 屋上デート

 ――一方玲愛がパワーストーンを購入し終えていたころ。俺は退屈そうに白い天井を見ていた。


「玲愛の奴、トイレ長いなぁ……ゾンビメイク塗り直しているのか?」


 なんて思っていると、「海水くん~~!」と手を振りながら俺を呼ぶ玲愛が帰ってきた。


「おーう、随分長かったな~~」


「あはは……ちょっとね、ゾンビメイクが落ちちゃって塗り直すのに時間かかったの」


 玲愛は照れ笑いしながら答えた。まあ、そんな事はさておき……。


「玲愛、もう一度聞くが寄る所はあるか?」


「ううん、私は特に寄る場所ないわ」


「そう……。じゃあさ、屋上に行かないか?」


「屋上? 駐車場のところ?」


「うん。駐車場だけど、一部広場があるんだよ。そこに寄ってみたいんだ。いいかな?」


「――うんいいよ。行きましょう!」


「おう! そ、それじゃ早速行こうか」


 俺達は近くのエレベーターに入り、屋上駐車場・広場のフロアへ向かうことにした。


 何故屋上の広場へ行こうと提案したのか……。

 彼女を待っている間、一緒に楽しめる場所が無いのかとモールの公式サイトを閲覧していた。その時に『屋上広場から見る棚田と夕焼け』という見出しを見つけた。

 その見出しを読むと、このショッピングモールの向かいにある山に棚田がある。その棚田と夕焼け、山に沈む太陽を組み合せた風景が綺麗だとSNSで注目を浴びている。注目の美しい風景が、このモールの屋上広場にある展望デッキで見る事が出来る。デートの締めに彼女と一緒に屋上から眺める棚田と夕焼けを見に行こうと思ったのだ。

 四階には止まらず、そのまま屋上駐車場・広場フロアに到着してエレベーターの扉が開く。

 その瞬間、ぶわっ……と外の熱気が吹き込んできた。


(うわっ……暑ぅ!?)


 直接外に繋がっていないが、出入口の屋内冷房が効いていなくモール内とは真逆な環境だった。


(一体、何度あるんだよ……)


 なんて思いながら、エレベーターを降り『新緑』エレベーター出入口を通って外に出る。すぐ目の前に屋上広場がある。すでに空は、黄金色に染まり始めていた。


(駐車場があるから狭いかなって思っていたけど、結構広いんだ~~)


 なんて屋上広場を見て驚いた。広場を見回すと、芝生や噴水、屋外ステージスペースなどの設備が設置していた。また、ちらほら家族連れの人たちが休憩したり、無邪気に走り回ったりしていた。


「ねえ、海水くん。屋上広場に着いたけど、ここでイベントでもやるの?」と、玲愛は質問する。


「うん、イベントがあるんだ」


「どんなイベントなの?」


「ま、それは見てのお楽しみ!」


「えー気になるぅ~~隠さないで教えてよぉ~~」


 玲愛は俺の体を揺さぶって、イベント内容を聞き出そうとしていた。


「うげぇ……ちょ、体を揺さぶらないでよ! あそこの展望テラスに行けばすぐ見れるから!」


「ほんと!? それなら早速見に行ってくる!」


 我慢できない無邪気な子供みたいに、玲愛は先に展望デッキの方へ向かって行った。


「あっ……ちょ!」


「じゃーん、これがイベントさ!」と言って、玲愛を驚かそうと思ったのに先に行ってしまった……。


「うわぁ~~綺麗~!」


 先に展望デッキに着いた玲愛が、先に夕焼けと棚田の景色を眺めていた。


「うほぉ~~こりゃすげーなぁ~!」


 遅れて到着した俺は彼女の隣に立ち、夕焼けと棚田の絶景に驚きの声を上げて眺めた。ショッピングモールの屋上でこんな絶景が見れるなんて、記事を読むまで知らなかったなぁ……。


「――海水くん。もしかしてだけど、イベントってこれの事なの?」


 玲愛は、俺のと腕をツンツンと突っついて、図星めいた質問をしてきた。


「……はは、まあね。その……玲愛が期待するようなすごいイベントじゃないけど」


 ぽりぽりと頬を掻きながら答える。


「ううん、すごいイベントだよ! ここから見る棚田と夕焼けが綺麗だし、それにショッピングモールモールから見る棚田と夕焼けってなんか逆発想で面白いわ!」


 彼女はニッと笑ってそう言った。よかった……喜んでくれて。


「そうだ……この風景の写真撮ろう」


 スマホを取り出してカメラ機能を開き、パシャパシャと風景を撮り始める。何枚か撮った後、アルバムアプリを開いて手振れでぼやけた写真を消去した。


(手振れ写真の消去で風景写真が数枚しか残れなかった。――あれ?)


 アプリに入った写真を見て何か感じた。


(玲愛とのツーショット写真が無い……。玲愛だけの写真だったら、ファッション店の写真があるのに……?)


 今気づいたけど、彼女と一緒に撮った事ってまだ無かったんだ。


「――玲愛」


「ん? なに? ふえっ!? ど、どうしたの……か、肩を強く掴んで……! あわわわぁぁぁ……も、もしかして、もしかしてぇぇぇ……!」


 玲愛の両肩をガシッと掴んで目を合わせると、彼女はあわわわぁぁぁ……と動揺していた。ツーショット写真を撮るだけなのになんで動揺しているのだろうか?


「一緒に……その、ツーショット写真を撮ろう!」


「ふぇッ!? ちょ、ま、またやるなら場所を――ん? つ、ツーショット!?」


 動揺した態度から一転、きょとんとした表情で俺を見つめていた。


「うん、この風景をバックにツーショット写真撮りたんだ」


「へ、へぇーそ、そう……よかったぁ……」


 ほっと安堵の表情を浮かべている。何がよかったんだろう……?


「……ま、まあ……とりあえず一緒に写真撮ろうぜ。俺、近くの人に頼んでくるから!」


 俺は近くに居た女性に声をかけてカメラの撮影をお願いする。オッケーを貰いスマホを女性に渡した後、展望デッキに戻った。


「さ、玲愛。ポーズとって」


 流石に一緒に撮るとはいえ、くっついて撮るのはちょっと恥ずかしい。なので、少しだけ距離を取りながら彼女にそう伝えた。


「う、うん……」と頷いて、定番のピースポーズを取った。


「あのー、彼氏さん。すいませんけど、もう少し彼女さんの方に寄ってもらっていいですか? ちょっとフレームアウトしちゃいますので」


 女性からそう指摘を受け、思わず「え……」と声を上げた。とりあえず、指摘通りに玲愛の方に寄る。これならフレームアウトしないだろう。


「彼氏さん。もっと彼女さんに寄ってもらってもいいですか? と言うか、彼女さんとくっついてください」


「ふぇ!? まだフレームアウトしちゃうんですか!?」


「はい、ですからお願いします」


「わ、分かりました……」と頷き、玲愛との距離をゼロにした。


 ……付き合って一ヶ月だけど、彼女の隣に立つ事ってすっごいドキドキする。小学校卒業まで女と関わらなかったからなぁ……。や、やべぇ……き、緊張のせいか、顔のにやけが出てきた……。え、笑顔をき、キープ……!


「ハーイ、それでは行きますよー! 三、二、一――――」


 カウントがゼロと言った瞬間、パシャッとシャッターを切った。


「もう一枚行きますよー、三、二、一――」


 先ほどと同じようにパシャッとシャッターを切った。


「はいオッケーです」と言って、スマホを返した。


「ありがとうございます」


 お礼を言うと、女性はペコリと一礼して駐車場の方へ去っていった。


「うまく撮れているかな……?」


 アルバムアプリを開いて、先ほど撮ってもらった写真を確認する。それには、夕焼けと棚田をバックに笑顔の俺達が写っている。


「……綺麗に撮れていた?」


 玲愛は、後からぴょこっ……と写真を見ようと覗き込んできた。


「うん、綺麗に撮れていたよ」


 ほれ……と玲愛にスマホを渡した。そして彼女はふふっと微笑んだ。


「ほんとだ、綺麗に撮れている。あと海水くんの顔、にやけすぎ」


「はは……ちょっと緊張しちゃって」と、照れ笑いして答えた。


「ふぅーん……緊張ねぇ? 私に緊張していたんじゃないの?」


 ぎくり……と図星を突いた事を言ってきた。


「んなわけねーだろ……」


「ふふ……動揺している。ねぇ……私の何処を見て緊張していたの――」


 彼女の口が俺の耳に近づけてぼそぼそと言う。ゾクゾクとした背徳感があった。


「――そ、それは……って。お前、からかうようなキャラじゃないだろ」


「てへっ、一回やってみたかったんだよね」


 なんて、いたずらっ子みたいににぃーと歯を見せて笑っていた。


(全く……ころころキャラが変化するな、玲愛の奴)


 はぁ……と呆れた表情で彼女を見つめた。


「――さて。どうする、玲愛? 寄り忘れた店は無い?」


「うん、そろそろ帰らないと帰りのバスが終わっちゃうし……」


 そうだ、玲愛はバスで駅まで来ているんだっけ……。


「それじゃ、帰るか」


「だね……」と、少し悲しそうな表情で頷いていた。楽しかったデートの終わりの時間を迎えている。多分、玲愛はその事で悲しそうな表情になっているんだろう。


「その――玲愛。きょ、今日のデート、た、楽しかったか? 俺は楽しかったぜ!」


 俺は照れながら、空虚な表情になった玲愛に質問する。


「――うん、楽しかった!」


 丁度山に沈む夕日をバックに俺の方向に振り向いて、微笑みながらそう答えていた。


「そうか……」


 相槌を打ち、彼女に向けて手を差し伸べた。別れるまで、彼女と手を繋がっていたいと心の中で思いながら。


「うん」


 玲愛はこくりと頷くと、俺の手をギュッと握る。ゾンビだから体温が冷たく、握っていると潰れてしまいそうな華奢な手だった。

 俺は彼女と別れる東飯諸駅まで、手をずっと握り続けていた。


 ――映画デートとショッピングモールデートは大成功して終了したのであった。

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