いつもと変わらない一日 ※

 さて、話は半日前に戻る――


 ――それはそう、いつもと変わらない1日から始まった。



 ドタドタと、朝から騒がしい足音が鳴り響く家がある。そこの二階部屋が発生場所だった。


「やっべっ!? 寝坊したッ!」


 乱れた私服の格好で、あわただしく登校の準備をしていた。いつもなら帰ってすぐに準備をするのだが、昨日は面倒くさくてやらなかったのだ。


「えっと……教科書、ノート、プリント……今日は、やっべっ! テストやん!?」


 そう今日から三日間、中間テストが始まるのだ。昨日全然テスト勉強しなかったけど。


「ええい! 急げ、急げ!」


 とりあえず、今日実施するテストの教科書とノートをリュックサックの中にぶちこんでチャックを閉める。


「よし、これで準備完了! スマホ、家とバイクの鍵持った」


 急いでリュックサックを背負い、部屋を飛び出した。


「いってきます!」

「気をつけてねー! 転けるなよー!」


 キッチンで皿洗いをしている母さんがいつもの注意事を言った。


「うんー分かっているよー!」


 そう言って玄関の床に置いてあるフルフェイスのヘルメットを被り、怪我防止の手袋を装置した。


 玄関を出て、屋根付きベランダに置いてあるバイクにカギをかける。そしてブレーキをかけエンジンスターターのボタンを押してエンジンを始動させた。


「よっと、ガソリンは大丈夫……」


 ガソリンのメモリをチェックしながら、バイクに跨がった。ブルンブルン……と、エンジンを吹かしてバイクを発進して家を後にした。


  ▼


 俺は海水立夏(うすいりっか)。N県立高校に通う高校二年生だ。成績も悪くはないが、運動が苦手で家に籠る事が多いインドア男子だ。最近、太りはじめて絶句したけど……。スポーツ刈りに仕上げた黒髪と気だるそうな目付きが特徴の変哲の無い男子高校生だ。

 大体聞かれる事だか、彼女なんていません。だって、通う高校は陽キャが多いんだもん。俺も含め、陰キャなんてクラスに指で数えれるぐらいだ。


「キャラ合わないから、ごめん……」って振られたことがある……つまり、陰キャと陽キャの差は大きいってこと。


 でも、例え差が開いても彼女欲しいんだよ! 大体な(長くなるので以下省略)。


「おーきなぁ、さぁーなんてぇーきにしたぁらぁーまけぇー♪」


 適当に作詞曲した不協和音の鼻歌を奏でながら、新緑が彩る県道をバイクでぶっ飛ばす。

 安全面や身を守るという理由で高校生の原付バイクの登校は普通禁止にしている。公共交通手段が少ない地域にある高校は、厳しい条件付きで二年生になったら原付バイクの通学を認めている。

 つまり、俺が通う高校は公共交通機関が極端に少ないのでバイク通学オッケーなのだ!


「ふーふーん、テストなんてぇーくそ食らえぇーはーやぁーくかえってーゲームの続きやるぞぉー」


『N県立○○高校はこちらです。←』という看板が見えると、進行方向左に曲がり舗装された農道を進んだ。直角に近い急なカーブを華麗に曲がり、緩やかな上り坂をぐんぐんと登る。そして上り坂の頂に着くと俺が通う高校の体育館と校舎が見えた。


「もーすぐがっこーだぁーテストめんどぉー」


 なんて、不協和音の鼻歌を奏でるうちにバイクは学校前の校庭に着いていた。


  △


 学校に着き教室に入り込むと、ちらほらと数人が居てゲームしたり話していたりしていた。数人いる人の服装を見るとほとんど私服姿の人が多かった。うちの学校は決まった制服はない。なので私服でもオッケーという訳だ。

 ここの学校のテストは教科書の決まった範囲と配布されたプリントのままテストに出る。普通では考えられない程の超簡単なテストを今日行うなのだ。けど、超簡単でも赤点を出す人は十人前後見かけるんだよね……。

 なんてテスト前の柔らかな光景を眺めていると、一人の女性が必死に直前勉強をしていた。一人だけセーラ服を身に纏い、黒色のロングヘアと黒曜石のような黒い瞳が特徴の女性――倉宮玲愛だった。学年ではトップテンに入るほどの明晰、運動神経も文句なし、短歌で金賞受賞した事もあるとか。友達も多く、陰キャ陽キャ問わずすぐに話しかけるクラスではムードメーカー的な存在だ。


「相変わらず熱心だな、玲愛」


 玲愛の隣の席に座り、溜口交じりに呟いた。席は五十音順で並ぶのが基本だが、席替えの時にくじ引きで玲愛の隣になったのだ。


「まあね。大学の推薦を取るためにはこのぐらいやっておかないと……。ここまで一回も休まずに学校に来たし、万が一の保険として高い成績をキープしないとダメなんだ」

「なるほどね……」


 こくりと頷き、玲愛につられるように俺もテスト勉強を始めた。

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