ゾンビイズラブリミック!
本渡りま
プロローグ ※
n県i市のとある県立高校の旧校舎一階の廊下にて……。
――誰も居ない夕方の放課後は不気味に包まれている。まるでそう、これから学校で妖怪が目覚める合図のような感じだ。そこに耳障りな雨音が薄暗い校舎内を響かせている。
今日は普通の日。丸1日授業して終われば部活へ向かう人がいる。勿論、帰宅する人だって居る。何も変哲のない1日だった。
――そう、あの光景を見るまでは。
「はあはあ……」
たったっ……と、一人の男子学生――俺、海水立夏(うすいりっか)は廊下を駆け抜けていた。何かを逃れるために……必死に!
「ち、畜生……な、なんだよ、あれっ!」
頻繁に後ろを振り向くと、誰かが追いかけてきた。そいつ――ヤツは何か不気味な雰囲気を漂わせている。何か……とは? それは言葉で表すにはちょっと難しい。で、でも、あれは人に害を与えるモノだ!
「ま、待ってよー!」
背後の追いかけているヤツは、俺に声をかけて呼び止めようとする。その声の主は凛々しけど甘く優しい声音で、俺と同じこの高校に通う女子校生だった。普通なら、待ってよ―とか優しく言われたら、彼女を待とうと誰もが思ってしまうだろう。俺もそうだ……この声音なら普通に彼女が追い付くまで待っているに違いない。
けど、俺は声音に惑わされず全速力で逃げた。なにせ、命がかかっているんだから。
(どうすれば……と、とりあえず教室に潜り込もう!)
ずしゃーっと滑り込みで、誰も居ない空き教室に入った。すぐさま扉の鍵をかけて、簡単に突破されないように机を扉の前に置いてバリケードを作った。
「これでオーケーだ……」
安堵のため息を溢す。何とか危機は逃れたみたいだな……。そう思ったのも束の間、ヤツはバンバンも訴えるように扉を叩き始めた。
「開けて……! 開けてよぉぉ!」
ヤツは、必死に開けてと乞う。絶対に開けてやらない。死んででも開けてたまるか。
ダンダン……ダンダン……と太鼓のように強く叩く。そのせいなのか、ぱりん……と扉の窓ガラスが割れた。
「ひぃっ!?」とうめき声を上げて、俺は思わず扉から後ずさった。
なにが起きたのかわからない。とりあえず、ガラスが割れた音がした方向に視線を向ける。
ガラスの割れ口から、どす黒く不気味な雰囲気を醸し出す手首が生えていた。
「う、うわぁぁぁ!?」
どすん……と俺は腰を抜かしてしまった。
「ねぇ……鍵かけないで開けてよぉぉ~~」
優しい声音で訴えながら、どんどんとドアを叩く。だけど、俺の視点からはもう――ホラー映画に入り込んだような感覚に陥っていた。
「あ、ああ……ッ!?」
あ、頭の中が混乱している。い、一体なんだ……こいつは……ッ! 俺はクラスで一番の明晰頭脳を持つ彼女と偶然に会っただけなのにッ! まさか……いや、あり得ないッ! そんなものはフィクションしか存在しないはずなのにッ! まさか……俺はあいつと同じになるのか……?
嫌だッ! シニタクナイ! 俺はまだ…‥やりたい事が沢山あるのにっ!
「開けてェェェ~~?」
奴は手を引っ込め、割れたガラスから俺をぎろり……と見つめた。真っ赤で虚ろな瞳……タンパクの薄い膜がこびりついている。目脂と思ったけど、絶対に違う……。なぜなら、一度見た事があるのだ。じいちゃんの通夜の時に……!
「あぁ……ッ! く、来るなッ! お、オマエハ……ダレダッ!!」
ヤツに問いかける。俺があったのは明晰の美少女のはず……。
「誰ってぇぇ~~? 私は倉宮玲愛(くらみやれあ)だよ! 学校一の明晰美少女の玲愛ちゃんだよぉぉ!」
ガタガタ……ガタガタ……と無理矢理扉を開けようとするヤツ――玲愛。そんな筈はない! 玲愛は……肌白くて生き生きとして、黒色の瞳をしている。けど、今のアンタはどす黒い肌、赤い瞳をしているッ! 外見は同じといえど、明らかに玲愛ではないッ!
「嘘だッ! お前は違う! 玲愛じゃない! 本物はもっと生き生きしている!」
「嘘じゃないよぉぉ~~とりあえず開けてぇ~~説明するからぁ~~」
ガタガタ……ガタガタ……不気味に響くドアの音――そのせいで更に恐怖を感じさせた。もう……俺は玲愛似た何かに殺されてしまうという――そんな恐怖が。
「きゃっ!?」と短い悲鳴と共に、扉と一緒に奴がバタンと倒れた。相当古いのか、ガタがきたのか分からないが、机のガードも無駄だったみたい。簡単に破壊されて、床に散らばった。
そして――すぽんっ!? と何か取れる音が薄暗い教室に響いた。
「あ、やっと会えたね――海水くん! なんで逃げるのよぉぉ?」
微笑ましい声音で俺の名前を呼んだ。い、一体何処から……!? そ、それにすぐ近くに居るような……?
恐怖に震えながらドアから後ずさった瞬間、手にコツン……と柔らかい何かに触れた。こんなところに柔らかい物が置かれている?
「痛っ……もー髪を絡ませないでよぉ~~」
聞こえた……確かに、俺の横から玲か愛の声音が聞こえたッ!
「ねぇ~~海水くん――」
と、俺の名前を呼んだ。そして同時に背後から、ドンビシャーンっ……と雷が落ち、薄暗い教室にカーテン越しから灯りがともった。
「待ってって言ったのに、逃げるなんてどういう事よ!」
明るくなった教室で……俺はとんでもない驚愕の光景を眺めていた。
「……ッ!!」
ドアの方には真っ黒になった肌と包帯をグルグルに巻いた首のない胴体が転がっていた。そして――俺の手元には女性の頭部が俺の手に……ッ!
「あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
俺はその光景に悲鳴を轟かせて――気を失った。
――そう、奴……玲愛はゾンビだったのだから。
※
なんで、こんな惨劇のような恐怖に巡りあったのか――それは午前中に遡る。
ラノベあるあるでのおなじみの、なんてことの無い普通の一日が始まり。それが彼女との出会いによって普通ではなくなるのであった。
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