ゾンビ姿の玲愛 ※
「はぁ……疲れた……」
本日のテストを終え、疲労感を顔に出しながら二階の窓辺に寄りかかっていた。午前中にテストを終えたのはいいが、家に帰ってもなぁ……やる事ねぇし。ゲームもつまらないしなぁ……。というかテストを終えた疲労感でやる気が失せてしまった。
「どうしようかなぁ……?」
みんな何するのかなぁ……と思いながら、キョロキョロと教室の様子を伺う。
ゲーセンに行こうや家でゲームしよう、家で寝よう……なんて考えている人が殆どだろう。まあ、俺もその中の一人なんだけどね。
「あーダメだ、周り見ても分からねぇ……」と、ぼやきながら自分の席に戻った。
「暇なら勉強したらどうなのよ」
隣で熱心に勉強する玲愛がそう言った。カリカリと熱心だねぇ……。俺はこんな真面目にガリ勉しないんだけどなぁ……流石優等生だな。
「なんか、親みたいな台詞を言うな……」
「うるさい!」と、机の上に溜まった消しカスを投げつけてきた。
「うわっ!? ちょッ……消しカス投げんなよ!」
パンパンと消しカスを払い落しながら、玲愛に怒った口調で言った。
「勉強の邪魔しないでくれない……?」
キッ……と、獲物を狙いつける猫みたいに鋭く睨みつけていた。
(う……こわ……玲愛って、イライラするとマジで殺しそうな瞳しているよな……)
「わ、分かった……邪魔しない」
「わかってくれて嬉しいわ」
玲愛はそう言うと、カリカリとノートに教科書のポイントを書き込んでいた。それを見ていると、ウトウトと瞼が重くなってきた。食後の眠気かな……? それTもテストの緊張が取れて眠くなったのかな……?
まあいいや……眠気がやってきたら寝るのが一番だ。どうせ今日の午後は授業も無いし、学校で机の上で寝そべるのも悪くはないかもな……。
俺は机の上で腕枕して、玲愛の真面目な表情を目に焼き付けてから目蓋を静かに閉じた。
※
――数時間後。俺の睡眠はレム睡眠に移行し、意識が徐々に戻り始めてきた。
「――ん?」
目を覚ますと教室が真っ赤に染まっていた。何していたんだっけ……? ぼんやりとした脳をフル回転させる。そうだ……俺はテスト終わって教室で眠っていたんだ。結構眠っていたような気がする。
(……今何時なんだ?)
ポケットからスマホを取り出し、電源を入れて時間を確認する。もう十七時前になっていた。
「やべっ! もうこんな時間!? 急がないと夕立が来てしまうっ!」
そうだった……天気予報で十八時前に土砂降りの可能性があるって言っていたじゃないか! しかも今日はバイクで登校だ。合羽はヘルメットボックスに入ってあるけど、本降りになる前に帰らないとびしょ濡れになるぞ!
「急げ急げ! 雨の中、バイクで突っ走るのは御免だぁ~~!」
リュックサックを背負って教室を飛び出ると、バッシャァン! と雷が落ちてバケツをひっくり返したような雨が降り始めた。
「う、うげぇ……最悪やん――」
外の様子を窓から眺めて、俺は愕然とした。土砂降りの中バイクで家に帰路するのは嫌だなぁ……。合羽着るのめんどくさいし、着ないで濡れて帰るのは嫌だし。
「しょうがねぇ……勢いが衰えるまで待つか。……喉渇いたな、自販機の方へ行こ」
そう考えた俺は、二階と一階の狭間にあるコンコース階へ向かう。
そこには自販機の他にトイレと進路相談室がある。まあ、大半学生が使うのはトイレと自販機ぐらいだがな。まあ、そんな事は置いといて……飲み物を買おう。
「ミッチでいいか」
百円の硬貨を入れ、ミッチのあるコーナのボタンを押す。取り出し口からペットボトルを取り出し、早速ミッチを飲む。ゴクゴク……うん、美味い。微炭酸だけどレモンの風味が効いていておいしい。けど、ちょっと甘みが口の中に残るんだよなぁ……。もうすこしスッキリとした味わいにならないのかなぁ?
ごくごく……と飲み干し、空になったペットボトルをゴミ箱に投げ捨てた。
「ナイスショット!」と、俺は喜んだ瞬間、ごろんと……何か落ちる音が廊下中を響かせた?
「あれ……まだ残っていた奴いたのか?」
音の発生源からすれば……多分、旧校舎の方だよな。あそこはスポーツ系の部室があるので部活する以外、ほとんど使っていない校舎だ。勿論、幽霊が出るという噂も絶えない最恐の心霊スポットでもある。クラスメイトや先輩後輩での噂話だが、首なしの人間が歩いていたり、手首が落ちていたり、さっきみたいな不気味な物音がしたりと嫌な噂が出ているのだ。しかも、この話は去年の春――俺達が入学してから起こっているのだ。
「……行ってみるか」
俺はコンコース階に繋がっている旧校舎の方へ向かった。この学校に入学してから旧校舎に一度も入った事が無い。折角だし、雨が止むまで旧校舎の散策でもしてみよう。
コンコース階を抜け、旧校舎の木造の廊下をギシギシと唸らせながら歩く。見回すと昭和生まれの人から見れば懐かしいと思う程ほど、木造だけで造った古めかしい校舎内だ。シンナーのような臭いが充満していて思わず頭が眩みそうになる。
(不気味だなぁ……)
雨の音が旧校舎の屋根を叩きつけ、雷の影響なのか蛍光灯はカチカチと点滅して不気味を漂わせている。ほ、本当にゆ、幽霊が出そうだな……夕方は幽霊の目覚めの時間だって昔ばあちゃんが言っていたよな……。
「ま、まさかなぁ……そんな事はねェって! 幽霊とか首なし人間が歩いているとか、手首が落ちているなんてなぁ~~ありえねって!」
ぶんぶんと手を振ってあり得ねぇって自己暗示する。
(だって噂だよ!? 妖怪なんて要る訳ないよ! ましてや西洋妖怪の方も居るわけねーし! あはははっ――痛っ!?)
コツンと足のつま先に何かにぶつかって、一歩後ずさった。一体つま先に何に当たったんだろうか?
俺は下を向き、ぶつかったものの正体を確認した。そして――息をする事を忘れてしまう程、背筋が冷たくなった。
「ひぃぃ……ッ!? ななななんあなんあなな……なんなんだぁぁぁぁぁぁッ!!」
そこには……真っ黒に染まった手首が落ちていた。血はぼとぼとと出ていないが、う、腕が……落ちている!!
でも、なんで手首が落ちているんだぁぁぁッ!? ま、まさか……噂は本当なのか? 幽霊が出るという噂はッ!!
というより、幽霊さんは腕あるの!? 廊下に腕落とすの!? おっちょこちょいなの!?
「あれぇ……また腕が落ちちゃったの? なんだろう……筋肉痛なんて起こっていないのに……?」
聞き覚えるのある女性の声が聞こえた。確かそう……玲愛だ。凛々しく透き通った軽やかな声音だ。隣の席にいるんだから絶対に聞き間違えるはずはない!
「玲愛……なのか? おーい!」
俺は玲愛を呼びかけた。間違いないのならすぐに姿を現すだろう。
「ん? その声は海水くん? ちょっと待ってー」
たた……と、俺の方に近づく足音が古い木造校舎の廊下を響かせた。
そして目の前から玲愛の影が現れた。「おう、玲愛」と声をかけようとした瞬間、俺は玲愛の姿に瞳孔を大きく広げて震え始めた。
「……あぁ、あぁ……お、お、お、お――」
「……? 何驚ているの? 海水くん。私の顔に何かついている?」
「お、オマエハ、だ、ダレダ?」
幻覚でも見ているのか……? 俺は倉宮玲愛に会っているんだよね? なのに……玲愛の全身が腐ったような真っ黒の色合い……瘦せ細くなった体付きになっているの? そ、それに……み、右腕が……無くなっているのは一体?
「誰って、私は倉宮玲愛よ。あっ、私の腕あった。筋肉痛の時が外れやすいんだよねぇ……」
床に落ちていた腕を拾い、ぐりぐりと接着剤のいらないプラモデルみたいに差し込んだ。う、うぁぁ……な、何なのこれぇ……怖い!
「私の腕、見つけてありがとうね。ねえ――――」
「ば、化け物ぉぉぉぉぉ! ぞ、ゾンビだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
誘われるような口ぶりを放つ前に、俺は恐怖で凍り付いた体を活性化して全速力で逃げ出した。
「ちょ、ちょっと待ってよぉぉぉ! 私はゾンビだけど、海水くんを襲わないからぁぁぁ! ちょっと待ってぇぇぇぇ!!」
そう言って、玲愛の姿に似たゾンビは俺を追いかけ始めた――――
その後、俺は玲愛に似たゾンビに空き教室で追い詰められて……。生首姿の彼女を見て気を失ってしまった。
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