第40話

「それで合ってる。ただ問題はな、この毒で蛇人間やら蜥蜴人間になるとだ、不細工っつうか確実に醜くなるんだ。――――!!」


 忌々しそうに顔を歪めて吐き捨てた周防の言葉を理解した途端、瑞貴を除いた全員がある意味恐慌状態に陥ってしまう。


「待って待って待って! なんで!!? 僕こういうの考えてなかったんだけど!!!? 顔が見るに堪えないレベルになるとか正気を失う自信がある!!!!」


 早口で叫んで頭を抱えているのは斧研。


「うえ!? マジで!!? 可愛くない可愛くないとは思ってたけど!!! 元人間か――!!!!」


 風早は驚愕を顔に張り付けドン引きしていた。


「一瞬で溶解させれば!」


 顔を引きつらせながら物騒な事を言いながら今にも実行しようとしているのは雪音。

 それに即座に呼応するのは紫子だ。


「ええ。消しましょう消しましょうそうしましょう!」


 彼女は冷たいなんてもんじゃない表情で一気に言い切って雪音と呼吸を合わせる。


「待て。こいつらは無視だ。すぐに扉の方を壊せ!」


 瑞貴はそう言いながら、自分用に斧研が調整した、どうみても魔剣妖刀の類としか認識されないだろう黒一色の小太刀を一閃する。


 扉が破壊され濛々と砂埃が待っている中、両脇に鎮座していたあれほど存在感のあった像の姿は何故か消えていた。


「丹羽、扉って言っておきながら像まで壊すのは流石だな」


 神崎が親指を立てながら瑞貴へと良い笑顔を向けている。


「神崎お前な……まあ、いつも通りだから置いておくとして、大将、あのガーゴイルっぽい像、どうなったんだ?」


 鬼ケ原が脱力しつつ問う声に、全員の注目が集まる。


「像は壊していない。壊すとおそらく周りの蛇と蜥蜴共が合体する。かといって蛇と蜥蜴を殺すと像が動くようになる上殺した分だけ強くなる。扉の先に全部集まった。同時に倒す」


 言われて周囲を見れば、不思議と蛇人間も蜥蜴人間も居なくなっている。


「……扉が壊れた後も注意を反らした覚えはありませんが……」


 忌々しそうに紫子が呟けば、斧研と雪音を始め、相棒に乗りながら会話していた面子が同時に肯く。


「それに気になっているんだが、丹羽が扉を壊したっていうのに、砂埃ってなんだ? 起きる訳ないと思うんだが」


 周防が険しい表情で言えば、瑞貴の能力を使うところをこの世界に来る前から知っていたメンバーも顔を顰め肯く。


「……あれだけ大きいのを壊したら砂埃が出るのは普通だと思うんだが、違うのか? そもそもだな、あれだけの長さしかない刀で、遠くから振ったのに何故すさまじく大きな両開きの扉まで壊れる?」


 逢坂が訳が分からないという風に首を傾げていると、真宮は周防に視線を向けながら、注意は砂埃が立ち込めている所へ注ぎつつ口を開いた。


「先生。皆が警戒していたというのに蛇人間たちが消えた。更に丹羽が壊した場合だと砂埃は起こらない、という事ですよね。それであるにも関わらず現在起こっている。これに皆さんが非常に警戒している、という事で合っていますか? 丹羽に関しては考えるだけ無駄だと思う」


 周防はボリボリと頭をかいてからため息を一つ。


「一応俺も気配は捉えていたってのに消えたからな。忽然と。それに加えてだ、真宮の推察通り、アイツが壊すと砂埃が起こるはずがないんだよ。ちゃんと説明するのが難しいというか言うとまずい様な気もするから言えないな。すまん。まあ、こういう点で戦いなれてる連中がピリピリッとなっているわけだ。それと真宮が正しい。丹波についてはもう面倒だから考えるな」


 斧研がある程度蛇人間と蜥蜴人間になる恐怖から立ち直り、嫌そうに口を開いた。


「時間かけるとまずいと思うんだけどさ、大丈夫? 砂埃消した方が良いんじゃないかなと……」


 げんなりとしながらも不安そうに愛美も肯く。


「アレは嫌だよ。アレは……。動かなくて良いのかな……? 他のチームが迫ってたりは……?」


 それに聖羅が首を静かに振った。


「下手に動かない方が良いよ。あの砂埃、凄く汚染されてる。瘴気の渦みたいなものだから近づくのは危険。治まってから進んだ方が良いと思う。浄化するにしてもリスクが高過ぎるから。それに他のチームは……皆別の大きな穢れた方に行ってしまっている。……なんだろう……引き寄せる何かがあるの……?」


 杏が思案するよう様子を見せた後、眉根を寄せながら話し出した。


「何か音がする。思わず音の出ている方に行ってしまいたくなるような音が。大きくはない。けど確実に聞こえる」


 周防の視線が鋭くなる。


「……俺には聞こえないな。他に音が聞こえている者は?」


 瑞貴は砂埃の方へ警戒を緩めずに答えた。


「音は聞こえない。ただ、何かがこちらへ来いと呼んでいる様な気はする。大抵呼んでいる様な気がする時にそちらへ行くと碌な事にならないからな。無視していた」


 全員が脱力した。


「報連相しようよ……いつもの事だけどさ……」


 斧研の声に、杏が申し訳ないと全身で表しながら謝った。


「ごめんなさい。皆聞こえているとばかり……誰も言わないから気にするなって事だと……」


 周防は苦笑しながら杏を見る。


「自分だけ聞こえてるって普通は思わんしな。全員、これから何か分かったり思ったら言う様にな。それで生死が分かれる」


 後半その場にいる仲間たちに告げ、周防は瑞貴へと視線を向ける。


「で、気になってるんだが、蛇と蜥蜴、何で消えたんだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る