第13話
真宮は、丁寧且つ簡潔に説明していく。
おそらく、この白い空間と扉の先の階段と広間までの青白く輝くエリアは安全な場所である事。
見た事のないモンスターと言える存在が現れる事。
そのモンスターを殺せばどうやら職業が得られること。
危険があるのだから全員職業を得た方が良いだろう、つまり、モンスターを一体でも良いから殺した方が良いという事。
話を聴き終わると、先遣隊で行かなかった者の多くが戸惑っていた。
人ではないが、やはり殺さなければならないのかというのも重いし、モンスターが出るというのも普通の人間には荷が勝ちすぎる。
……一部は、異常なまでに興奮していたのも印象的ではあったが。
その後周防が提案したのは、この白い空間内にいる人数を調べる事と、同じ学校の教師と生徒だけがいるのか、高等部だけなのかというもので、調査をしたのだが……
結果、同じ学校に所属している者だけである事、高等部だけである事、ただし、この空間には高等部のおよそ三分の二の人数しかおらず、残りの三分の一は行方不明であることが分かった。
何故三分の一が居ないのかはさっぱり分からないが、今は置いておくしかなく、現状兎に角全容を知るにも職業を得られなければどうにもならないと、周防を除いた教師以外の残った者達もセーフティーゾーンから出る事に。
先導役の瑞貴と逢坂と共に、鬼ケ原の一派が三又の広間まで行って職業を得て戻ってきてからは、流れ作業の様に神崎の一派が次に続き、それ以降は厄介そうな者には鬼ケ原一派や神崎一派が気を付けながら機械的に終了する。
女子の大半が瀕死の状態のモンスターでも自分で刺す事が出来ず誰かの介添えがあって、ではあったし、殺すという段で泣いてばかりの者も少なからずいたのは当然だった。
むしろ殺す事に躊躇の無い方が珍しいし、出来ないというのは自然な反応だろう。
――――とはいえ、慣れるのだ。
全ての人間が慣れる訳ではないだろうが、何度も殺していたら自然と慣れる。
先祖の、狩猟採集の頃の記憶が蘇るのかもしれない。
或いは動物的な本能かもしれないが。
瀕死の状態にしたり介添えをしていたメンバーもほぼ固定されていたのも手伝い、彼等は殺しにある程度慣れたのは大きな収穫だったと瑞貴は思う。
信用できる者が多かったのも。
加えて、どうやら三又の通路前の広場の罠は一度発動したら二度と発動しないらしいという事と、白い空間に連れてこられた全員分の獲物が用意されていたらしい事が分かったのも僥倖だった。
教師達は周防を除き殺してはいないので、その分の余りは瑞貴と神崎、鬼ケ原、
生徒会のメンバーの多くは、神崎、鬼ケ原の一派と共にモンスターを瀕死の状態にしたり、殺せない者達の補助係と化していた。
周防を除いた教師達以外はどうにか殺し終え、戻ってきた大半の者の空気は非常に重苦しいもの。
吐き気をこらえている者も多い。
見回して沈痛なため息を吐いてから、真宮は声を張る。
「職業の見方が分かるものはいるかい?」
心当たりがありそうな者達は顔を見合わせるが、外れた時が恥ずかしく何も言えずに沈黙し、それ以外はこういう事態に非常に疎く分からないので首を傾げるばかりの中、繊細そうな美形の少年が何のてらいもなく手を上げる。
「
真宮が斧研と読んだ少年は、悩み悩みだがそれでも答えた。
「ありきたりなのは、”ステータスオープン”かな」
瞬間、
見る事が可能だったのは斧研だけだったが。
「――――…………真宮会長、どうやら当たりだったみたい。視れるよ、職業。僕の職業は『錬金術師』だってさ」
途端に喧騒に包まれ、我先にと見てみる者と頭にハテナマークを浮かべている者等様々。
「げっ、何だよ、”物乞い”って!!」
「うえ! ”なんかチンピラ”とかなんでだよ!!」
「やった! ”刃物っぽいのを使えるかんじ”だ!!!」
「よし! ”魔法かな”だ!!!」
悲喜こもごもの声が漏れる中、眉根を寄せるのはやはり少数派だった。
「神崎先輩、鬼ケ原先輩、仁礼、それから近藤、職業は何になった?」
瑞貴が静かに問う声を、真宮や雪音を始め生徒会のメンバーや殺すのを手伝っていた面子も注視する。
「俺は『風魔法の剣士』だな」
神崎が険しい顔で応じる。
「大将、俺は『木魔法の戦士』となっとるな」
鬼ケ原が同じ様な表情で答えた。
「ええと、私は『浄化の治療師』ってなってる」
聖羅は怪訝な表情ながらしっかり答えたのを聞いて、杏は劣等感に襲われた。
「……私は”妨害するぞ”って……」
皆がどうみても特別職に思え、自分だけが説明通りの職業である事に落ち込む
杏。
「俺は『暗殺者』だな。会長は?」
瑞貴は自分のステータスの職業の所に(仮)と付いているのを目視しながら更に情報を集める。
「私は『僧侶』となっているね」
真宮は目を凝らして何度目かの確認をし、やはり眉根を寄せながら首を傾げる。
「皆は? それにしても説明と職業が違うのは何故だろう……」
「あの、私は『水魔法の薬師』となっているわ。芽依咲達は?」
雪音がおそるおそる口を開くと、途端に不満そうな声が複数あがる。
「えー!!! ずるい、ユッキー! わたしなんて”なんかチンピラ”なのに!!」
芽依咲は可愛らしい頬を膨らませた。
「そうですよね。私は一応”魔法かな”ですけど、ネーミングセンスに眩暈を感じます。出来れば名乗りたくはありません」
憤懣やるかたないという調子で、長身の嫋やかな美少女でもある庶務長の
「俺は『魔術師』ってなってるな。早乙女は?」
逢坂が声をかけた文化委員長の
「……私は『土魔法の地図士』ってなってるよ」
斧研がため息と共に考えていた事を口にする。
「やっぱりというかなんというか……あのふざけた職業名、罠だったんじゃないかな……ねえ、麗奈、芽依咲、近藤さん。思い描いた職業やスキルを追加だとか言っていた時、何か望んだりした?」
三人は思わず顔を見合わせてからおずおずと肯いた。
「何を望んだかは訊いた方が良いのかどうか悩むね……あのさ、丹羽。まさかとは思うけど何か望んだりって?」
麗奈と芽依咲、杏の肯定を見て取ってから、斧研は瑞貴へと水を向けてみる。
「まさか。何も。斧研先輩は?」
瑞貴は顔を顰めつつ答えたのを見て、斧研も苦笑する。
「だよね。僕も何も望んだりしてない。真宮会長、雪音、葵と勝利、楓馬に愛美、仁礼さんも?」
名を呼ばれた全員が思わずといった調子で顔を見あわせ静かに肯く。
「それで、土岐、君のは? 正直に言わないなら強制的に見るけど」
斧研は満面の笑顔を土岐に向けて言い放つ。
「な、なんですか、それは! 相変わらず先輩は失礼ですね!! ”物乞い”となっていますが……」
恥ずかしさと情けなさでてんぱった様な声で土岐が応じたのを、笑顔のままで見詰める斧研。
「うんうん。ちゃんと答えて偉い偉い。ねえ、あの時の思い描いた職業やらスキルってやっぱり罠としか思えないんだけど。やっぱり”情報”は大事だね……モンスターの件もあるし」
斧研の言わんとしている事を正確に把握した者は顔を覿面に顰める。
そう、説明ではこの塔にいる人間を殺せば職業が分かるという話だった。
だが実際には塔に居たモンスターを殺しても職業が分かったのだ。
単に説明が虚偽であればよい。
だが……もし、あのモンスターが元は人間だとしたら――――
大半の者は瑞貴の思考誘導でそこには思い至ってはいない。
それが幸いとなるのかどうかも瑞貴にも分からなかった。
とはいえ、序盤も序盤で心が折れるよりはマシだと瑞貴は判断したのだし、それを理解している者達も何も告げない事で賛同していたのだ。
「だとすれば『暗殺者』だけ説明時異質に感じたのは……」
瑞貴が読み間違えた事に忸怩たる思いを込めてため息を吐いてから告げた言葉を引継ぎ、斧研が続ける。
「あれで気が付けって事かな……? 今思えば、それでワザとかもしれないけど苛立たし気に捲し立ててレア職業を殺せって言ってたのも悪辣。あの説明してた時のイラっとする口調もさ、罠の一つだったかも」
言い終え目を閉じ意を決してから、斧研は再び口を開く。
「ねえ、皆。レベルが上がったってなってたら、ポイントがもらえたと思うんだけど、それでスキルの『説明』取ってみて。大丈夫大丈夫。”勇者”だとか”英雄/ヒロインの資質”だとか、”容姿改変”に”強奪”、”コピー”みたいな奴とは文字の色が違うから。とは言っても『説明』をそもそも取らないと色が違うのも分からないんだけどね。本当に”情報”が生死を分けると思うんだ」
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