第32話

 瑞貴は鬼ケ原へと確認する。

 彼の能力を瑞貴は把握していたし、それができるのなら確実に有利になるだろう。

 危険もないではないが、仁礼がいるのなら――――


「召喚できそうなのか?」


 鬼ケ原は力強く肯いた。

 この幸運に感謝しながら。

 同時に不安も大きかった。

 この状況では諸刃の剣になりかねない。


 だが、それでも丹羽への信頼があればこそ。


「ああ。さっき力を使った時に手応えを感じた。どうもこの空間自体が召喚しやすい処置でもされているんだと思う。だからこそ俺等が此処に召喚されたんだろうな。あの塔のダンジョンっぽい所より此処は呼び寄せやすい感じだな。……ただ気になるのは――――」


「汚染される事、か」


 瑞貴が鬼ケ原の言葉をついでの言葉に、斧研も難しい顔。

 これが怖いのだ。

 折角の鬼ケ原の提案だというのに。

 それがあればどれだけ助かるか分からない。


 確かに改造はした。

 それでも本能的なモノで睡眠を求めるだろうし食事も望むものだ。

 食事についてはどうにかなる。

 だが、人間の見張りも無しにぐっすり眠れるというのは大きなアドバンテージだ。

 是が非でも欲しい。

 鉾にも盾にもなりえるし、探索だって任せられるかもしれない。

 本当にこの状況では喉から手だ。


 けれど不安が大きすぎる。

 あまりにもリスクが高い。

 召喚されていなければこれほどの恐怖は抱かなかっただろうに……


「だよね。召喚しやすいっていうけど、こっちが呼んだ瞬間にナニカ埋め込まれないっていう保証が無いし……。最悪一番重要な所で良い様に使われたらたまらない」


 神崎は顎に手を当てながら首を傾げる。

 何をそれ程危惧しているのかが分からなかった。

 神崎にとって仁礼の一族は身近な存在だったから。

 ある程度能力も知っていたし、仁礼のとんでもなさも理解している。


 その仁礼と瑞貴が居るのならば何の問題も無いという事は分かっていたのだ。


「丹羽や仁礼でどうにかならないのか? 斧研先輩は?」


 瑞貴は大きくため息を吐いてから口を開いた。

 聖羅ならばどうにかなるのは知っていた。

 だが彼女の事情も分かっていた。

 それを鑑みて自分から彼女に無理強いする気は無かったから。


「俺の場合、かなり制限をかけている。その状態で主催者がどれ程の力を持っているかによるとしか言えんな。ある程度ならどうとでもなるが、こちらが気が付かない内に強制的に召喚されているのを鑑みると確実とは言えない」


 斧研も瑞貴に同意するように肯いた。

 チラリと瑞貴を見てからこれまたため息を吐いて。

 現在の状況に心底怒り狂っているだろうに表には出していない瑞貴を慮る。

 彼が少しでも怒りを表に出した場合、全員存在などできない。

 それが起こっていない時点で瑞貴は本当によく耐えている。

 口調が荒れただけで力は彼が仲間と認識している生存者には向けていないのだ。

 だからこれ以上の負担はかけたくはなかった。


「だよね。丹羽が如月と離れ離れになっている状態なんてあり得ない訳で。それがなっているって事は丹羽の力が及ばない可能性が高いって事。だとしたら僕の力も怪しいかな。丹羽以上なら僕はどうしようもない」


 聖羅は瑞貴に視線を向けてから案を出してみる。

 かなり無茶ではあれど、聖羅であればどうにかなる可能性があるのだ。


 ――――瑠那ではないから確実ではないとしても。


 そう内心独り言ちながら、聖羅は瑞貴を見詰める。


「あの、”枷”を外せたとしたら、どうですか?」


 瑞貴は片方の眉根を上げた。

 確かに聖羅であれば可能ではある。

 彼女はあまり自覚は無いが、かなりとんでもないのだ。

 おそらく、瑠那さえいなければあの一族でも歴代で最も優れているだろう。


 瑞貴から要請するのは簡単だ。

 恩を感じている聖羅ならば応じるだろう。


 だが、自分で納得しなければその力を使わせる気は無かったのだ。

 だからこそ確認する。


「どの程度の?」


 瑞貴が問えば、聖羅は確実な線を口にする。

 これならばきっと瑞貴は受け入れてくれるだろうし、自分にも可能だから。


「私達を召喚した存在以上、ならば」


 瑞貴は眉根を寄せてからまた口を開く。

 聖羅の決断に感謝しながら。


「能力持ち全員だと?」


 聖羅はしばし思案し、肯いて答えた。

 これ程の力を持った能力持ちに使ったことはない。

 幼い聖羅が外したのは多少のいわゆる”霊感持ち”といったレベルが主。

 それ以外だと生贄に決定する前に妹に用いただけだ。


 だからこそ、動悸がおかしくなる。

 自分が外してしまったから妹は生贄になった。

 そう思わずにはいられなくて、ずっと隠してきた力の使い方だ。

 浄化とは訳が違う。

 穢れの探索とも。


 震える指先を後ろに隠して、平常心を装った。


「一つの”枷”ならば全員可能です。ただ……主催者以上というのなら、もう一度個別にしないと無理だと思います」


 瑞貴はポンと聖羅の肩を叩いてから、珍しく緩やかに笑みを浮かべる。


「すまん。本当に助かる。ありがとう。……一つを全員と、個別に全員は可能か?」


 聖羅は震えが止まっている事に瞳を瞬かせた後、微笑んで肯いた。

 瑞貴が事情を知っているのは分かっていたから。

 無理矢理力を欲する相手ばかりだった。

 自分の意思に任せてくれるのは……


 ――――心からの笑みを浮かべたのは、妹が生贄になってから初めてなことに彼女自身も気が付いてはいなかったが。

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