第25話
風早は、瑞貴と瑠那が一緒に居るのを見るのが昔から好きだった。
二人は自分と同類なのは知っていたから、そんな二人が仲が良いのを見るのが本当に大好きだったのだ。
風早は常に独りだったから。
家の中で独り。
保育園でも独り。
どこでも独り。
人間という種が好きになれなかったから。
動物と一緒に居るのが大好きだった。
家族と言えるのは、遠くに住んでいる祖父だけだ。
祖父は、祖父だけは、風早と同じだったから。
動物の言葉が分かる事が異常ではないと言ってくれた。
信じてくれた。
一族の男に稀にそういう者が産まれるのだと教えてもくれたのだ。
彼等を自由に使役も出来ると気付いても、祖父の言葉を大事にしていたから使用しなかった。
彼等は対等な友達。
友達ならば使役などしてはいけない。
対等なのだからお互い補い合う。
それは風早の基本姿勢になった。
けれど、彼は祖父以上に力が強かったらしい。
動物の形さえしていたら、いわゆる悪霊や精霊、魔性化生、妖の類と言われるものも自由に使役できると知ったのはいつだったか。
相手の実力を見誤っていざとなったら使役できると油断した結果、死にかけた。
無造作に助けてくれたのは丹羽で。
彼も彼等の言葉が分かると知って嬉しかった。
純粋に嬉しかったのだ。
どうやら瑞貴の周りには人から外れた同類ばかりが集まっていて。
その中でも如月瑠那という少女の事は、丹羽と出会う前から知っていた。
一番最初に同類だと思ったのも彼女で。
彼女の周りはフワフワと常に精霊っぽいのがいるし、動物や植物の言葉も分かる様だったのもすぐに分かったから。
声をかけようかと悩んでいる内に瑞貴と彼女が一緒に居るのを良く視る様になって――――
「なあ、丹羽。早く帰ろう。絶対生きて出来る限り早く!」
風早がいつになく真剣に続けた言葉に、神崎も肯いた。
「それが良いと思う。死ねないと思ってるのばかりだな、丹羽に救われた連中は」
神崎は何が何でも生きて帰る気しかない。
死ぬ訳にはいかないのだ。
彼がいないとあの悪魔達の性質を色濃く受け継いだ弟が跡を継ぐことになる。
そうなればどうなるか。
最悪な事にしかならないのは知っている。
あの悪魔達は悪辣だった。
人前ではいくらでも取り繕って善人を装う。
だが家では――――
あの悪魔達の最愛の存在が神崎の弟だった。
それ以外の兄妹は奴隷でサンドバッグ。
父方の曾祖父母も祖父母も、神崎の何度も殴られ蹴られ傷だらけだった結果の、色素沈着しケロイドだらけの身体を見て泣いて悔やんで全力で守ってくれたのだ。
それを逆恨みするような奴等だった。
取り上げられて憎悪と怨嗟を込めに込めて罵倒し実力行使までするような獣だった。
自分の力で得たものなど何も無く、与えられた物ばかりの二人だった。
だから――――
丹羽は、神崎にとって恩人だ。
殺されかかったところを助けてくれた。
呪いの類にまであいつ等は手を出したのだ。
加えてあいつ等は、もはや人目も気にせず悪意を家族に向けたから。
よりにもよって学校で、あいつ等は妹達に――――
弟は、真にあの悪魔たちの後継者だ。
目上の者の前では殊勝な態度でも、妹達や飼っている動物、使用人には違うのだと知ってからは細心の注意を払ってきた。
丹羽と斧研に弟の心の内を見せてもらってからは、注意ではなく警戒して、いかに迅速に消すかばかりを考えてきた。
神崎の家族の命がかかっているのだ。
彼が家族だと思っている存在の命が――――
「大将の人選は相変わらずさな。存外周りに信用されとる事は自覚した方が良いぞ、大将。それからな、俺も大将と如月が似合いだと思っとる。如月はすこぶる鈍いからな。露骨な氷川先輩や藤原の気持ちにも気がついとらんくらいだ。帰ったら速攻でプロポーズくらいでちょうどいい気しかせん」
鬼ケ原と神崎の気が合うのは、やはり両親の事が大きい。
双方曾祖父母と祖父母を家族としている。
神崎の場合、妹は守る対象ではあれど家族とは微妙に言いずらい。
庇護対象というのが率直な関係性だ。
鬼ケ原に至っては全ての兄妹達は敵でしかなく、曾祖父母や祖父母たちの年齢を考慮すれば早く一人前にならざるを得ない。
跡継ぎとしての遺言書も、すでに弁護士立会いで作成し終わり貸金庫の中だ。
だが、当の鬼ケ原が死んでは元も子もない。
あの両親には絶対曾祖父母も祖父母も家業も、従業員という名に現代では変わりはしたが、代々仕えてくれている人達も任せられない。
兄妹達も当然論外だ。
性根を含め力を受け継がなかった彼等ではどうにもならない。
そう、鬼ケ原は是が非でも生きて帰らなくてはならないのだ。
先祖代々守ってきたものが水泡に帰すその前に――――
「丹羽! 色々手を尽くしてダメっぽい人を治してるのは解ってるけど、ちょっと気になる事があるんだ! 来てくれる?」
斧研が珍しく大きな声で瑞貴を呼んだ。
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