第26話

 常にない斧研の様子に、瑞貴も周囲に居た者達もすぐさま移動したのだが……


「丹羽。モンスター化した人数は確認してるし、死体の数と生きている数も分かってる。それにこの空間に居た人数は全員把握もしてた。だから分かるんだ。数が合わないって」


 瑞貴は眉根を寄せる。


「つまり、脱走、もしくは攫われた者が居るという事か?」


 斧研はニヤリと笑ってから、次に非常に蔑んだ表情になって息を吐く。


「今さっき襲撃してきた奴が連れてったのかどうかは分からないけど。居なくなった面子が非常に気になるんだよ」


 周防が顔を顰めた。


「あー……いなくなった奴全員が気になる感じか?」


 周防も大体誰かは察したらしい。


「ちょっと違う。だから攫われたのもいるんじゃないかなって思ってさ。気になる連中にさ」


 鬼ケ原が腕を組みながら斧研を見る。


「襲撃犯が攫った者は居ないっちゅう事か?」


 斧研は難しい顔をしてため息を吐く。


「それもいそうで凄い面倒だと思ってるところ」


 神崎は何の感情も籠らない声で言いながら肯いていた。


「ああ、攫われた者達を殺してレベルアップという事か」


 真宮がそこで大きくため息を吐いた。


「それよりも、私にはいざという時の保険に思えるのだが」


 瑞貴も眉を顰めながら同意の声を上げる。


「同感だな。勿論、こちらに人質として使う可能性は低いが、一応頭にだけは入れておいた方が良さそうだ」


 芽依咲は首を傾げた。


「人質じゃないなら要らないじゃん。すぐ殺すんじゃないの? レベル上がるっぽいし。より」

 

 ザクザクと一般的な感性の持ち主の精神的な値を削る芽依咲の頭に、静かに手を置いたのは紫子。


「確かにそれもあの方達は話してはおりましたけれど、もっと重要な事も口にしてしまっていましたわ……まあ随分と余裕がと思っていましたけれど」


 苦笑しながらの紫子の言葉に、聖羅も肯く。


「まったくです。皆殺しか少数の奴隷を連れて行くつもりだったのでしょうね。最初から」


 逢坂がげんなりしながら言葉を零す。


「……奴隷……」


 それに周防も肯く。


「だろうなあ……言う事聞かせる能力持ちでもいたのかね」


 瑞貴はチラリと斧研へと視線を向けると、斧研はまたもニヤリとしつつ踏ん反り返る。


「あのねえ丹羽。僕はしないから。厄介な連中まとめて押し付けたりとかしてないから! 本当にさ、丹羽は僕をどういう目で見てるんだよ。僕としては丹羽の方がおっかないんだけど。だから丹羽の嫌がりそうなこと僕絶対しないし」


 それに何故か風早と鬼ケ原、神崎が同時に肯いた。


「だよねー。俺も丹羽は絶対敵にしないって誓ってる」


「大将に敵対行動するなんぞ……無い無い」


「何故自ら自殺行為をせねばならんのか」


 周防はパンと大きく手を叩いて注意を引いた。


「はい、そこまで。話が進まないからなー。それでだ、斧研。居ない連中は誰だ? 斧研が気にしているのは、誰だ?」


 斧研は面倒くさいと顔に書いてあるまま口を開く。


「僕も本当に、イラっとする連中ですので。居ないなら居ないで厄介とか……ええと、片喰とその取り巻き、蜂谷と取り巻き、難波。後すっごく気になるのが星月。それに加えて田淵。こんなとこですね」


 周防は頭を掻いてため息を吐いた。


「どうしたもんかね。取り巻き……何人いたっけかな……?」

 

 恵梨佳と愛美、小鳥の三人が口を開いた。


「魁には遠く果てしなく絶対に及ばないけど、あいつそれなりの顔と家だから片喰だと確か五、六、人いた様な……男女含んで」


「あー、蜂谷は表向き元気印な明るい人気のイケメンだから結構多いよ。男女含む、だけど、男の方は蜂谷の奴隷。女もどうかな……少なくとも皆自分が彼女だとでも思ってるっぽいけど。しかし田淵か……あいつはね……」


「……えっと……難波先輩と星月君は……取り巻きはいない……ですけど……マニアックな層に……モテてますし……それを、その、あの二人は……自覚も把握もしているから、その……連れて行くのは難しくない……かも、です」


 今度はガリガリと思い切り頭を掻いた周防は瑞貴を見る。


「どうしたもんかね、丹羽」


 瑞貴が周囲を見れば、何故か生き残りの全員が自分を見ている。

 意味が分からず眉根を寄せる。


「何故俺に訊くんです」


 周防は目を見開いてから、ポンと手を打つ。


「あ、丹羽。お前自覚ないな。此処に生き残ってる中心連中で丹羽を疎かにする奴いないから。むしろお前がまとめると上手くいく」


 不機嫌な表情を隠しもせず、瑞貴は口を開いた。

 どうにか年上への対人仮面を纏いつつ。


「真宮先輩がいるでしょう。生徒会も。土岐先輩がいないのなら真面なのしかいないですし」


 周防はニッコリ良い笑顔。


「ははは。俺が見たとこ、丹羽で異議なしだ」


 それに続いて斧研はさも当然と言い切った。


「言っとくけど、周防先生いわゆるテレパスだから。精神感応能力者だから。それも割と強めの。だから本当。嘘偽り無し」


 見事に眉根を寄せた瑞貴はため息を吐いた。


「それは知っている。ただ何故俺という結論に皆がなるかが微塵も分からん」


 周防と斧研は顔を見合わせ大きくため息を吐いて瑞貴を見る。


「え? だってお前、俺が知る限り真面だぞ。こういう連中の中で。本当にすこぶる真面。ま、如月と出逢ってなかった丹羽には絶対近づかなかったがな」


「ですよね。言っとくけど、本当に丹羽は良い奴だよ。如月のついででも絶対守るし。如月を絶対裏切らないし。僕の信頼度はMax」


 言い切られ、心底面倒そうに瑞貴は息を吐いた。

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