第27話
「彼等が何らかの被害をこちらに与えてから考える」
瑞貴が口にした言葉に、眉を顰める周囲にため息と共に彼が加えて告げたのは宣告だ。
「無条件に許さんし被害に応じた罰は下す。だいたい何がどうなっているのかがまだ分からんのに対処しようも無いだろう。頭に入れておいて油断しないというのでは納得できないと?」
周防は苦笑しながら顎に手を当てた。
「ま、そうなるか。というか俺はお前の罰が怖い。お前、基本的に目には目を歯には歯をじゃないだろ」
その言葉に肯いたのは瑞貴を知る全員。
各々目で確かに会話し、一様に大きなため息を吐いて瑞貴に向けた表情には……
決して彼に対しての悪感情は覗いてはいなかった。
「目には目と鼻と耳。歯には顎と手足の指全部っていうのが丹羽だろ。あ、言っとくけどこれでもオブラートに包んだから。お前の場合対価が怖すぎるんだよ」
斧研が代表するように言い切った。
実際に彼の報復を見たことのある斧研としては、絶対に丹羽の敵にならないと決めたのだ。
斧研は一見温情に見える丹羽の処置の本質が見えてしまうが故にではあるのだが。
「だがな大将。操られている、洗脳されている、という様な場合はどうする? 見極めは?」
瑞貴が周防と斧研に視線を走らせた事で、二人は顔を見合わせてから肯く。
そう来るだろうことは二人も承知している。
確かに精神系へと作用をガッツリ出来るのは彼等が特筆しているのだ。
杏のそれとはまた違う精神への干渉能力なのだから。
「任せろー。実は結構使えるんだよなこれが」
「周防先生実は能力怖いから。丹羽ほどじゃないけど。って、あ、なあ丹羽。僕お前だけ正確に能力分からないんだけど。教えて教えて」
斧研が興味深そうに催促すると、全員が力強く肯いたのだが……
「面倒。それよりも言おうと思っていたんだが、モンスターが元人間であり、何等かの力の影響を受けているのは分かるだろう。『職業』だの『スキル』だのを与えられている状況だからな。そしてその果てにあの状態になる。それらから発生した肉や水というのは危険ではないか? 毛皮にしろ牙や爪、骨にしろ、例の魔石類にしろだ。俺としてはあの人間の末路を見た上では極力与えられた力、モノは使いたくないし口にしたくもない」
瑞貴がきっぱりと口にした言葉は、周囲に静かに染み込んでいく。
皆が顔を見合わせて、確かにと肯いた。
「……言われてみればそうだな……どうにもきな臭い。俺も賛成だ。だがどうする? 食い物と水……って、ああ、成程。丹羽は最初っからそう思っていた訳か。ってお前は俺が知る限り一番見え難いな。氷川は割と見やすいんだが」
瑞貴は周防の言葉に片方の眉を上げて忠告をしてみた。
これ以上氷川という存在が面倒にならない様に。
勿論、瑞貴は自分がその気になれば何とでもなるのは知っている。
氷川相手に確かめた事もあるのだから。
「氷川に能力を知られない様にする事を推奨する。氷川の場合、瑠那と俺以外の能力者には気が付いてはいなかったがな」
それに恵梨佳が素早く反応。
腰に手を当て、少し釣り上がり気味の瞳をより細め、怒りも露わに瑞貴をねめつける。
「ちょっとどういう意味? 魁を侮辱している様に聞こえるわ」
瑞貴はそれを無視して斧研へと視線を向けた。
「そちらも気が付かれない様にを推奨。ああ、最悪の場合は何とかする」
斧研は目を見開いてから首を傾げてしまう。
瑞貴にしては珍しい忠告に内心驚く。
「え? 氷川の能力って確か……」
強めの視線を瑞貴から感じ、斧研は口を閉ざした。
瑞貴の切れ長で酷薄そのものの瞳で強い眼差しを受けた場合、大抵は思考停止に陥るのが常だ。
斧研の場合は――――
『モシモシ! 聞こえてるのは分かってるからね。これだと周りに聞こえないゼ! 何? 氷川の能力何か問題あるの?』
強制的に瑞貴の脳内に話しかけるという暴挙に出た。
実際、この生き残りたちの中でも斧研の能力は応用範囲が恐ろしく広いのだ。
『確かに貴様の能力が氷川に伝わるのは阻止したいと思ってはいるが』
焦らず普通に返す瑞貴に、斧研は頬が引き攣る。
『少しは動揺とかないかな。僕、これ君に使ったのは初めてのはずだけど。後、対外用の仮面取れてる。貴様呼びになってる』
瑞貴は面倒そうに眉根を寄せてため息を吐いた。
『それで、貴様は氷川の能力を何だと思っている? 加えて俺の能力をどう予想している? 更に言えば、瑠那の力については?』
斧研はもう色々諦めて素直に答える事にした。
サクッと自分の指摘が流されている。
もう本当に彼が彼過ぎて笑いさえ漏れる。
『「何かを壊す」って所かなと、氷川のは。それで丹羽のは「いわゆる全能」だと思ってるけど。如月のは「何かを治す」じゃないかな』
その斧研の返答を聴いた瑞貴は、彼にはどうしようもなく似合いはするが普段使わない表情筋が仕事をし、誰もが不敵と感じるだろう笑顔を見事にしてみせた。
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