第19話
周防が説明し終えた後の狂乱染みた騒ぎも、神崎と鬼ケ原の一派が睨みを利かせた事でどうにか落ち着き、時間内にそれぞれ何等か選んでいるのを全員分確認していた瑞貴に、斧研と真宮が声をかけてきた。
「なあ、丹羽。やっぱり”職業”で上手くパーティメンバー考えないといけないと思うんだよ。僕としては六人一組ぐらいが妥当だと思うんだけど、どう思う?」
斧研が周囲のメンバーにも聞こえる様にだろう、元々聞きやすい声を気持ち大きめにしている。
「私もそれで良いと思ったんだが、丹羽はどうかな? 通路の幅から考えるともう少し増やした方が良いか悩ましいところではあるのだが……」
真宮も良く通る声をいつもより大きくしている。
「あまり人数が多すぎても連携は難しくなるな。通路の幅があれ以上狭くなるかどうかも分からんのが痛い。とはいえ武器を振り回すのを考えたら悪くないと思うが。前衛三人の後衛三人が理想ではあるが」
周防の話の後に取得しているらしい何かが『ステータス』に記載されていくのを全て記憶しながら、瑞貴は腕を組みながら特に表情を変えず答えてから、確認する必要があるかとまた口を開いた。
「花山院先輩、片桐先輩、真宮先輩、土岐先輩、神崎先輩、鬼ケ原先輩、月見先輩、仁礼、近藤、姫野、風早、竜堂、武器は出せるか?」
比較対象として十二人に声をかける。
花山院 紫子は『聖女』。
片桐 恵梨佳は『勇者』。
真宮 理人は『僧侶』。
土岐 司は『物乞い』。
神崎 葵は『風魔法の剣士』。
鬼ケ原 勝利は『木魔法の戦士』。
月見 芽依咲は『なんかチンピラ』。
仁礼 聖羅は『浄化の治療師』。
近藤 杏は『妨害するぞ』。
姫野 小鳥は『聖女』。
風早 駿は『空属性の騎獣弓兵』。
竜堂 紘は『勇者』。
だからこそ声をかけた。
出来れば全員のを調べたいとは思う。
ただ前知識としてサンプルが必要だと思ったのだ。
後で周防に全員出すよう指示を出してもらおうと瑞貴は決め、十二人へと注意を向ける。
「ナイフの要領だと瑞貴君は仰ったでしょう? ですから試してみたの。そうしたら、ほら、これが」
紫子が手にしていたのは、繊細な作りで刃も細い、いわゆる短剣と呼ばれるものだった。
ナイフには見えない。
短刀とも違う。
細工も鮮やかな、成程聖女に相応しいと言えるだろう武器だった。
人を害するというより、いざという時に自ら命を絶つ為のもの。
「私はこれね。レイピアとも違うようだけれど。ああ、突くだけじゃなくて切る事もちゃんと出来るようね」
恵梨佳は細身の長剣を丹念に見ながら確認していた。
華麗な長剣の装飾は彼女に良く似合っている。
勇者のモノとしてはどうにも無骨さが足りない様。
だが、彼女が手にしていると不思議と霊験あらたかそうなのが面白い。
「……ナイフ、ではないね。刃物に詳しい訳ではないから自信はないけれど、短剣、だと思うが」
真宮が手に持った実直そうな短剣をしげしげと眺める。
確かに作りから言ってナイフではなく両刃の短剣に見える作りだった。
どうにも真宮らしいとしか言えない武器。
自らの身を護る為だけだと言わんばかりの。
それがまたしっくりと彼に馴染んでいる。
「……なんですか、これ……」
憤懣やるかたない土岐の手には、折り畳み式の一目見てちゃちだと分かる小さなナイフ。
物乞いのモノとしては納得の一品。
作りも雰囲気も何もかもが安物で粗末だと伝えてくる様だった。
「これはまた。扱いが難しそうだな」
神崎はそう言いながら嬉しそうに得物を振る。
それは太刀と呼ばれる代物。
シンプルな作りが実に神崎らしかった。
風を纏っているかのように軽く振るだけでも風圧を感じさせる。
確かに”職業”通りの武器。
「おお、こりゃまた豪勢。しかし重くもない。どういう作りか分からんの」
鬼ケ原の得物は戦斧。
バトルアックスという表現が相応しい大柄な代物。
豪奢に見える作りは彼に似合っているのがまた憎らしい。
一撃で全てが決まりそうな豪壮さがあった。
振り回しているが成程鬼ケ原は重さを感じさせず悠々と扱っている。
「え~これ―! もっと可愛いのが良い~」
芽依咲はブンブンと振り回しながら落胆していた。
土岐よりはマシかもしれないがやはり粗末なナイフだった。
折り畳み式で無いのが違うところかもしれない。
「ええと、私の場合は、短剣、で合っているのかな……」
聖羅の手にしている短剣は細身だが華麗な装飾。
紫子のモノより若干長く太いが、それでも細身の短剣だった。
やはりあまり他者を傷つける印象は無い得物。
貴族の令嬢の持ち物と言われたら誰もが納得する作りが印象的だ。
「これって、ナイフ……だよね……持ちやすいのが不思議」
杏の得物は細身で綺麗なナイフだった。
短剣ではなくナイフといえるだろう代物。
土岐や芽依咲とは明らかに違う、見るからに丁寧な作り。
彼女は刃物らしい刃物は手にした事がほとんどなかったが、それでも見惚れるくらい綺麗な武器だった。
「…………えと……あ、あの…………」
小鳥はどうにか言葉を発する事が出来た。
同じ”職業”の紫子とは違う、細い細いそして長さも彼女より短い剣。
複雑で精緻な細工が施された細すぎて短い短剣。
小柄な彼女にピッタリだと思ってしまう、切るより刺すのが本懐だと言わんばかりの武器。
「おー! 弓出てきた! あ、矢付きの矢筒!!」
風早の獲物は無駄な装飾の無い作りが逆に見事な弓と矢に矢筒。
和弓程には大きくもないので洋弓だろうと思わせる。
何かに乗りながらでも扱いやすいだろう。
鏃は金属にも石にも見える不思議なもの。
矢筒も身に着けやすいようにきちんとベルト付きだ。
「お、カッコいい! やった!」
竜堂が満面の笑みで振り回す得物は勇壮な大剣。
これが勇者の武器と言われれば誰もが納得しかしないだろう。
装飾も作りも見事としか言えない立派な代物。
竜堂のモノだと不思議と理解してしまえるのがまた魅力だった。
「それで、丹羽の武器は?」
斧研が華奢な自らの武器の短剣を観察し終えて訊ねる。
それに得物を出す事で答えた瑞貴だった。
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