第18話

 瑞貴は竜堂のいう事も考えてはいたのだ。

『スキル』欄にも『暗殺』と『暗殺者』の二つがあったので。

 ここに居るメンバーの”職業”に関わるだろう『スキル』の重複は他にもある。



 例えば斧研の職業の『錬金術師』。

『スキル』欄に『錬金』と『錬金術師』とあるのだ。



 他にも聖羅の『浄化の治療師』に関わるだろう『スキル』欄に記載されているのは『治癒』『治療』『回復』『浄化』といったもので、それ等の差異もまだ何も分からない。

『スキル』欄の『勇者』『聖女』といったものと、『英雄/ヒロインの資質』とやらの違いも分からない状態。



「分からん。まだ情報は出ていないな。開示されるまで取得せず保留が妥当だろう」


 瑞貴の言葉に全員が尤もだと肯いたのを確認した周防は、まだ気にかかる事を口にした。

 これ等をどうにかしなければ、モンスター以前に生存に関わるだろうという思いから。


「丹羽、『説明』のレベル2までだと何も無いが、水含む食事についての記載はあるか? 後は排泄物、ああ、便所な。可能なら寝具とかもあれば。モンスターを倒すとして、血やら汚れやらを洗い流す事は可能なのかも分かるなら教えてくれ」


 真宮も目から鱗だったらしく、肯いた。


「確かに必要ですね。これだけの大所帯を維持できるかにも関わってきますし」


 雪音も心配そうにあたりを見渡す。


「我慢している子、いるかもしれない」


 神崎も力強く肯く。


「する場所を考えないとエライ事になるな」


 鬼ケ原はため息をは吐く。


「お前さん微妙に相変わらずズレとるな。水が無いと本当にまずい。食材は手に入ったが水はまだだ。水さえありゃ結構身体は持つもんよ」


 斧研は不安そうに口にする。


「武器とか防具も心配なんだけど。ドロップした皮とか牙からアイテム作れって事?」


 それを聞いた、今まで黙って聞いていた常にズルズルの制服に長いおさげだがどうしようもなく美美しい少女小見川 桂花おみがわ けいかが、思わずといった調子で口を出す。


「皮とかなら何とかなるのかも……『皮革師』ってなってる、わたし』


 斧研と神崎、風早が身を乗り出す。


「マジか! やった! 僕の職業と知花と合わせられると良いんだけどな!」


「武器……強い武器……やはり伝説の武器か……」


「おー! すげー!! あ! そういえば『説明』のレベル2にしたら伝説の武器っぽいの見える様になってたよ!」


 最後の風早の言葉に神崎と竜堂、斧研も即座に反応する。


「オリハルコン……ミスリル……ロマンだよな……」


「うわ凄! 『神樹の棒』って気になるかも。『オリハルコンの釜』って何だろ。『オリハルコンの鎌』もあるけど。漢字違いで読みが同じって面白そ。一緒に使うと何か特典あるかな」


「あ~もう何で気が付かなかったし! 『精霊樹の杖』とか魔法を使う職業向きかな……でもスキルを何か取ったら……」


 一部ボソボソと熱を帯びる中、周防が手を叩いて場を沈めた。


「あのな、まず丹羽の話だろ。お遊び気分も大概にだ。命かかってる上制限時間あるんだからな」


 ピタリと全員が静止する中、瑞貴は淡々と答える様に務めた。

 努力はした。

 注意もした。

 対人用の仮面を被りもした。



 だが、まず舌打ちが響く。


「――――ああ、貴、否、皆にではなく仕様が腹立たしくてな。まず、水や食べ物は全てダンジョン内で手に入れるしかない様だ。次に【調理はダンジョン内でも可能だがこのセーフティーゾーンでする方が安全】と書いてあるな。調理道具は自分達でどうにかするしかないらしい。【ダンジョン内で手に入るかも?】だそうだ。それで排泄物については【”浄化”してみると良いかも】とある。最後に【自分達でセーフティーゾーンを整えて下さい】との記載があり『塔の攻略競争について 入門編』に『説明』のレベル3でプラスに書いてあったのは以上だ。それから”職業”についてだが、【力を使いすぎると危険】という記載が『説明』のレベル2で増えていたのは確認しただろうが、レベル3で【時間が経てば回復する】と加えられていた。それから小さな文字で【それ以外の回復方法もある】とも。それから武器だが、”職業”次第だそうだ。ナイフを出した要領で行けるかもしれん。『説明』のレベル3で分かるのはここまでだな」


 瑞貴の精神状態は余りよろしくはない状態だ。

 有り体に言えば瑠那の生死が分からない状態であるのが原因であり、本来なら考えつくことも抑えられることも気が付くだろう事にも不備が出ている。



 一番重症なのは、瑞貴が自らの有様に気が付いていない点だろう。



 とはいえ瑞貴が言い終えたのを確認してから、周防が頭を掻きながら肯く。


「丹羽、助かった。さて、んじゃ『スキル』とかの仕様話してくるわ。衣食住についてわかってる限りもな」


 真宮が静かに頭を下げた。


「ありがとうございます。私が言うべきなのでしょうが……」


 忸怩たる思いで告げる真宮に、周防はヒラヒラと手を振りながら苦笑した。


「本来なら校長の出番だろ。お前はまだ学生なんだ。気にすんな。大人の一人として俺が出ないとだろ。あー、鬼ケ原、神崎、何かあったらタスケテ」


 周防の言葉に新旧の生徒会のメンバーの多くが頭を下げる中、神崎は親指を立て、鬼ケ原は拳を軽く上げるのを見ながら、軽い調子で周防は思い切り手を叩き、此処に来てから今までで一番大きな音を立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る