第38話
全員で一階のボスへの最短ルートを疾走する。
各々の”相棒”になった相手に乗せてもらい、思考もままならない速度で移動していた。
乗れない程に”小さな相棒”の場合や”通路を通れない程の大きさの相棒”の場合、丁度良い大きさに”相棒”になってもらって騎乗しているのだが、人間側の表情は各々様々なのに比べて、”相棒”のそれぞれはどこか楽しそうに見える。
「なあなあ! 皆”相棒”の名前どうするんだ? やっぱり相棒に名前っているよな!」
高速移動中だというのに、平然と声を出している上にキョロキョロと皆の顔に視線を動かしているのは風早だ。
”ヒポグリフ”という彼としては最高の相棒と一緒でテンションは果てしなく上昇中。
皆の”相棒”も見ているだけで、彼としては嬉しいやら楽しいやらの気持ちがポヤポヤ沸き上がり浮かれている。
「……そうだが、今はボスを倒すのが先決だろう。……名前があるのかどうか、名付けて良いのかどうかの了承は得た方が良いかもしれんが」
ボソッと瑞貴が告げた言葉に神崎も強く同意した。
……双方瑞貴の騎乗している黄金の狼が耳を少し動かしたのを目で追いながら。
「そうだな。元々の名前があるのなら勝手につける訳にはいかん。……ロマンあふれる名前ならいいのか……?」
後半の”金烏”に乗騎しながらな神崎の呟きに、”アツユ”に乗った周防とカイチに跨る鬼ケ原が突っ込んだ。
「否ダメだろ。前半は同意だが後半はダメだ」
「だめだろ、普通に考えて。前半は良いんだが……」
鬼ケ原と”カイチ”に至っては大きなため息付きである。
「気になってるんだけどさ、皆で来たんだから誰もいないのに死体をなんでわざわざ消さないといけなかったんだ?」
竜堂も平然と”キメラ”に乗りながら疑問を口にしているのだが、多くのメンバーにとっては話す事も口を開く事さえ難しい上、話を聞き取るのも困難であるという自覚が無い。
――――話している全員が、という注釈が付くのだが……
「あの、此処、多分穢れとか瘴気とか負のエネルギーというか力? それ等がとても溜まってるし蓄積されていると思う。だから死体はダメ。絶対にダメ。あると危ないし余計に負の要素が高まる」
聖羅は”金色の複数尻尾のある狐”に跨りながら返答していたのだが、それを聴いて白い獅子にも見える”白澤”に乗っていた紫子も付け加えた。
「先程瑞貴さんも仰いましたけれど、利用される可能性もありますしね。それを抜きにしましても穢れや瘴気のある場所に死体を放置など恐ろしい真似は出来ませんわ。負のエネルギーが乗算するだけです。ここは非常に瘴気が臭いますわ。鼻が曲がるという表現が的確かと。確かにマイナスのモノが積層しているでしょう。結果この状況ですといつも以上に最悪の事態になりかねません。直ぐに死体を無くして浄化。これが一番です」
真宮は独り言ちながら肯いている。
……高速で移動している”どうみても某ビール会社の社名になっている存在”に乗っかりながら。
「やはり浄化は大切という事か……死体以外にも確か枯れた植物も良くないと聞いたな……如月が来る前に枯れたのは処分するべきだったか……そうすれば表情も曇らずに済んだかもしれん……」
それを聴きながら、頭が九つある蛇の”相柳”に乗っている雪音は苦笑を漏らしていた。
何というか、雪音にしてみても真宮とは長い付き合いで応援したいと純粋に思うのだが、どうにも相手が悪すぎる。
最悪の部類だと思うからこそ、どうにも真宮がもどかしい。
彼の性質を鑑みるにこれが最初で最期なのは間違いないのがまた……
「あの、訊いても良い? どうやってモンスター除けしているの? ボスに向かって移動してから一切他のモンスターにも人にも出会っていないよね? 何かしないと無理だと思うんだけど……」
杏が思わずといった調子で鶏と蛇が合わさったような姿の”コカトリス”に騎乗しながら疑問を言うと、斧研がどうにか日本犬に似た”犼”に乗りながら乾いた笑いと共に答えてくれた。
「紫子と雪音がなんかしてる。何してるかは良く分かんないけど。そういう事出来るのは他にもいるけど今回は何もしてないね。あと多分というか確実に丹羽は想定済みで指示してはいないけど把握してる。周防先生もだと思うけど」
目を見開いている殆どの面子の様子に、
「だよねー」
とため息が漏れる斧研だった。
改めて思うに、この学校、本当に異能者ばかり集めていたらしい。
だとしたら、才能が目覚めていなかった者達も多かったのではないだろうか?
何らかのきっかけが無いと能力が目覚めない場合もある。
むしろそっちの方が多いと思う。
代々能力持ちの一族出身だと言っても、生まれつき使える者は基本的に当主になるべくして産まれてきた連中位だ。
それならば、今回の出来事は――――
斧研がどこか背筋が凍りそうになりながら思考を更に回そうとしていた時だ、唐突に急停止されて思わず落ちそうになる。
何事かと目を瞬かせると、目の前には見上げるのも疲れる程に巨大な両開きの扉が鎮座していた。
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