第30話

「円城寺先輩。斧研先輩が改造した後に、更に重ね掛けで状態異常含む毒、病を無効にするようにお願いできますか?」


 瑞貴は対人の年上用仮面をどうにか被って頼んだのだが、斧研も雪音も首を傾げる。

 二度手間ではないかと思ったのだ。

 瑞貴がそんな無駄をするとは考えもしなかった二人だからこそ、疑問は大きくなる。


「え? 僕、ちゃんとそういうの無効に改造してるよ」


 斧研が言えば雪音も口を開く。

 瑞貴らしくない言葉に驚きながら。


「同じモノを二重にかけても意味は無いと思うけれど」


 瑞貴は淡々と説明する事にする。

 色々思うところがあってそうした方が良いと判断したのだ。

 二人の能力を疑った事は無い。

 むしろだからこそ重ね掛けが必須だと思ったのだ。


「斧研先輩と円城寺先輩の能力は違います。効果効能も。似て非なるモノですので二重にかける事で色々防げるかと」


 斧研と雪音は顔を見合わせてから、やはり首を傾げる。

 二人共能力の違いは知っている。

 だが……


「確かに能力違うけど……でも状態異常無効にする訳だよね。能力違っても同じ事しようとする訳だし同じ効果じゃないの?」


 斧研が疑問を口にすると雪音も肯き口を開く。


「能力は違うけれど私も状態無効にしろと言うのですよね。効果効能が違うというのは?」


 瑞貴は軽く肩眉を上げてから腕を組む。

 二人共こういう所が鈍いのだ。

 あまりも汎用範囲が広すぎる弊害だろう。


「概念効果の斧研先輩と、身体に効果のある円城寺先輩という区分けで分かりますか」


 斧研と雪音はまたも顔を見合わせてからポンと手を打った。

 能力が違う事は分かっていても、具体的に言葉にされて初めて理解できた二人である。


「確かに僕のってそういう感じの能力だよ。概念を弄って全部変える感じ」


 斧研は納得納得と何度も肯く。

 内心はやっぱり瑞貴に聞いてよかったと独り言ちている。


「私のは確かに身体に効果がありますね。そうして改造出来ますし」


 雪音も何度も肯いて微笑んだ。

 斧研と自分の能力の違いは朧げにしか把握していなかったので助かったと瑞貴に感謝しながら。


「……なあ、大将。二人の能力を聞いても?」


 鬼ケ原が頬を引きつらせながら皆を代表して聞いたのだが、瑞貴は一瞥して端的に言葉にする。


「本人に聞け」


 脱力した鬼ケ原はため息を吐きながらそれでも食い下がる。

 能力の把握という点で瑞貴に勝る者は居ないというのは、皆の共通認識だ。


「それはそうだろうけどなあ。俺の経験と先祖からの知識によると、自分で自分の能力を誤認する者も結構おるそうだが。そこで大将に聞いとる」


 眉根を寄せた瑞貴には年上の対人用仮面は既に逃亡した後だった。


「だろうな。だから断る。知らん方が有利に働く場合もあるだろうが」


 聞いていた神崎は納得したらしく肯いた後、どんよりと曇りだした。


「確かに。これからどこで知られるか分からんしな。……しかし、折角のスキルも能力も使えんのか……武器も……」


 瑞貴は片方の眉を上げ、斧研へと視線を向けた。

 それだけで斧研も察して安心させる様にニヤリと笑う。


「はいはい。安心したまえ! 僕が丹羽が色々何かやった後に改造したから。スキルな感じもちゃんと主催者側とは別に使えるよ。そもそも主催者側のは丹羽が何とかしたっぽい。何したか分からんけど。能力も武器もちゃんと使えるからね。本人に一番合う感じに改造したから」


 そこまで一気に言ってから、ハタッと気が付いたらしい斧研は瑞貴を見る。


「なあ、丹羽。何も飲み食いしなくても生きていけるし排泄も必要ない感じに改造しちゃったけど、良かったかな? そこらへんも円城寺に二重にしてもらうと安心。……丹羽ってさ、基本的に後の先。相手の出方を見てからって方針だろ。それでさっきかなり死んじゃったの気にしてんのかなって思ったんだよ。二重の改造なんて態々するから」


 瑞貴は表情を変えずに雪音へと視線を移した。


「円城寺先輩。斧研先輩の後、そちらの改造もお願いします」


 雪音は目を見開いてから、クスクスと楽しそうに笑いながら肯いた。


「任せて下さい。ただ……亡くなった方々はどうしましょう? 溶かしてしまうのは手っ取り早いですが……」


 物騒な事をいつも通りの清楚な笑顔で小首を傾げながら口にする雪音に、彼女の力も本性も知らなかった瑞貴と周防以外はちょっとどころではなく引いていた。


「溶かすより消すのを提案します。幸いかどうかはさておき魂も此処にはいない。アンデッドとして利用されるよりは良いでしょう」


 瑞貴が顔色一つ変えず、普通に対人仮面も被りつつ返答していたのを尊敬した眼差して見つめる周囲に苦笑しながら、周防は考えたくはなかったがと内心独り言ちながら口を開く。


「つまり、丹羽は魂は元の世界に帰れたとはまったく思ってはいないんだな」


 瑞貴は無表情に声音にも感情を込めず言葉にする。

 皆が考えない様にしていることを。


「魂は既に対価として主催者に接収された可能性が高いのではと。その上で利用され敵対してくる確率も高いと思っています。死体が残っていては余計にどう悪用されるか。せめて器は好き勝手にされないよう完全消去が最善だと判断しました」

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