第35話
また空間の温度が急激にマイナスへと移行したのを感じつつ、聖羅が全員の能力の”枷”を外したのを確認した周防は、もう瑠那関連の話題は出さないと密に決意した。
うっかり口にしてしまったのは失策であるのはわかっていた。
周防としては、瑠那の一族の事を良く知らなかったので興味深かったのもあり、良く視ていた結果ではあるのだが。
ただ瑞貴のガードが硬いので、瑠那については良く分かっていない状態だった。
それもあって周防としては普通以上の注意を向けていたからこそ、能力以外の人間関係については詳しいのだ。
今回の事で、能力系としてはどうやら聖羅とは同族らしいという事がようやく分かったくらい。
聖羅の一族の事は知っていた。
彼女を匿ったのは周防の祖父だったので。
逃げ込んできた親子を保護したのにも理由はある。
聖羅自身あまり自分たちの一族に対しての知識が無いのはおそらく生贄として育てられたからだろう。
加えて聖羅は自分の評価が低すぎる。
低すぎると言えば、いつもガードされて読めなかった聖羅の内心が、今回仮面を外した事で読めるようになった結果、彼女の家の本家筋だと分かった瑠那も大概だ。
瑠那は瑠那で自覚が無さ過ぎる。
周囲に常に精霊が舞っている事も気が付いてはいないのだろう。
――――瑞貴が瑠那には見えなくしているのだ。
彼は瑠那にだけ見えなくしている。
「よし、全員終わったなー。鬼ケ原、後は任せた」
周防はやはり空元気に声を張る。
瑞貴は瑞貴でこれっぽっちも自覚が無いのは知っていた。
どうしたって瑞貴の中心は瑠那で。
だから通常の瑞貴は、瑠那関連でなければ不機嫌にならない。
基本的に感情らしい感情はあまり無いのだ。
――――問題なのは、彼が不機嫌になった圧力だけで、存在強度が弱いと消えてしまう点だろう。
まったく瑞貴が気が付いていない要因の一つは、無意識に瑠那が瑞貴の消し飛ばした存在を元に戻しているからだ。
瑞貴と瑠那が離れていてもどうやらそれはオートで行われるらしく、瑞貴が敵として認定して消した相手以外は復活する。
そしてそれにまったく瑞貴も瑠那も気が付いてはいないのだ。
瑞貴が消した存在は、本当に消滅する。
存在したことが消滅するのだ。
そしてその事にも瑞貴は無頓着なあまり気が付いてはいない。
敵として認識して消した場合は存在したことは消滅せず普通に消えるだけだ。
おそらく無意識に瑠那へ負担をかけないようにしているからだろう。
ただ、周防の見立てではそれくらいは瑠那の負担にさえならないレベルだと思うのだが……
「任されました。それじゃちょっくら全員目を瞑ってくれるか?」
鬼ケ原の言葉に竜堂が首を傾げながら口を開く。
彼は今まで自分自身を普通で一般人だと信じて疑った事が無かったので。
結果、鬼ケ原の能力も知らないのだ。
何故か彼が敵対的な意識を向けて触れた相手は吹き飛んでいたのだが、本当にたまたま車が突っ込んできたり誰かがぶつかったりという様な事ばかりで、彼は自覚が微塵も無かった。
それに特定の場合だけなのもあり、見れば分かる連中にしてみれば無自覚な台風さながらに認識されていた事も知らない。
「ええと、何が起こるのか教えて欲しいんだが、ダメかな?」
鬼ケ原はチラリと瑞貴と周防、神崎に斧研、紫子へと視線を向けた。
周防は瑞貴が自分が見たのでため息一つで説明役を担う為に口を開く。
「ま、いわゆる”精霊”って存在の護衛を付けようって事なんだ。それぞれに合ったのをな。鬼ケ原が一番得意なのは植物系の精霊だが、動物系のも相性が良いのなら大丈夫だったと思うんだが……」
周防の言葉を受けて鬼ケ原は肯きながら補足する。
「妖精なんかもいけるぞ。幻獣系はちょっとな……動物系の精霊より格上だから難しいかもしれん。動物系の精霊は妖怪って分類のも入るんだが、基本的に俺は植物系でな……」
鬼ケ原の言葉に、風早がピコんっと反応する。
ワクワク顔を隠しもせず踊っているのは浮かれているからだ。
諦めていた動物系の相棒が出来るのでそれはそれは心が歓喜に包まれている。
嬉しくて嬉しくてクルクル回っているが、彼は基本的に眼は回らない。
そういう存在なので。
「それは大丈夫ー!!! 任せて任せて! 動物系は得意分野だから! 幻獣系も多分協力したらいける気がする!! なあなあ丹羽! どうしたら幻獣系召喚出来ると思う? 絶対幻獣系いたら助かるって! 精霊系より幻獣系だって!! 両方居たらよりお得!!!」
瑞貴は浮かれに浮かれている風早に眉根を寄せながらそれでも解決策を提示する。
「確かに両方居ると助かるか。与えられた能力は使わないに越した事はないからな。紫子、仁礼、姫野。鬼ケ原と風早と協力してもらえるか?」
鬼ケ原は目を瞠ってから静かに肯き、風早は力強く肯いた後飛び上がってグルグル踊っているのを横目に、紫子と聖羅、小鳥の三人はキョトンとしながら顔を見合わせてからどうにか肯いた。
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