第33話
意識を集中させ、嵌められている”枷”を外す感覚。
”枷”にありったけの力を注ぎ込んで崩壊させるイメージ。
淡い金色の光で能力持ち全員を包み込んでから、聖羅がホッと息を吐いた瞬間、光は霧散して何も無かったかのようだった。
「どうですか? 異常を感じる場合は仰ってください。調整できると思います」
聖羅の言葉を聴きながら、能力持ち全員が手を握ったり開いたり、ピョンピョンと跳んでみたりと自分の体を確かめていた。
「……私に何か特殊な力があるとは思えないんだが……」
真宮が心底不思議そうに首を傾げていると、斧研がため息を吐きながら腰に手を当てて忠告する。
「あのさ、理人。ちょっと記憶を探ってみよう。理人が触れると結構な割合で萎れた活けられている植物、元気になってたよね。特に如月と居ると顕著だったと思うんだけど」
目を見開いてから納得するように肯いた真宮。
斧研の自分の呼び方が、最近は絶対にしない幼い頃と同様になっている事には一切気が付いてはいなかったが。
「ああ、確かに。如月が園芸部で育てていた植物を生徒会室に活けてくれるんだが、どうしても時間が経つと萎れてきてな……。それを見ると如月が肩を落とすものだからどうにかしたいと思うと、不思議と生き生きと戻ったな、そういえば」
瞬時に現在の生徒会メンバーの残りの全員プラス斧研による脳内会話が開催された。
『どういうことだ……? 理人が特定の異性へ感情が動くなどということは初耳だぞ』
驚愕と共に神崎が言えば、芽依咲も力強く肯いた。
『だよね。あの朴念仁が……? モテにモテてたけど見事に分かってなくて、土岐が取り巻きの女子連中を良い様に使っているにも関わらず気が付きもしない鈍感ど真ん中の理人がだよ……?』
雪音も恐々と言葉を零す。
『会長は……こう……恋愛面の情緒は未発達どころか存在しないものと……』
愛美はどこか遠くを見ながらため息と共に呟いた。
『理人……喜ばしいけど喜べないジレンマ……何故よりによって如月さん……』
鬼ケ原は乾いた笑いが漏れている。
『まったくだ……どうして如月……待ってる先は地獄だぞ……』
逢坂は痛ましそうにチラリと真宮を見たのち大きく息を吐く。
『……気が付いていない可能性が高いと思うんだが……如月への感情の出どころ含めて、如月がどういう立ち位置か……』
斧研ももう色々憐憫の情が湧いて止まらない。
『理人はさ……僕にとっても可愛い後輩っていうか弟みたいなもんだけど……だから誰かに関心を持ったら応援したいなって思ってた……思ってたけどさ……』
周防は頭をガリガリと勢いよく掻き毟り、ため息を吐いた。
『……あいつ分かってないぞ……真宮は誰かがナニカで肩を落としたとしてもソレはそれってタイプだからな……別の提案をすることはあれど、どうにかその愁いを取り除きたい的な感情を誰かに持つ奴じゃないぞ……だっていうのにどうして如月にだけそうで、力まで発揮されてるのか本っ当に本人分かってない……』
麗奈は面倒そうに口を尖らした。
『つまり、理人ってば無意識にナニカの力を使っちゃうくらいには如月さんに感情を向けていると。そういう事?』
脳内会話実行中の全員が見事に首をたてにしたのが印象的である。
「そういえば、真宮会長は能力使っている自覚なかったんですよね。そういう事ってあるもんですか?」
竜堂の不思議そうな言葉に、一瞬視線を瑞貴に向けてからビクッと全身が痙攣したのち、どうにか立て直した斧研が答える事にした。
「そうだね。何らかの強い感情って能力を開花させる要素になりえるよ。その感情が強ければ強い程目覚めやすいかな。だから死の危機に瀕して能力が目覚めるって言うのは定番だね。理人の場合、如月さんがいないと強く感情が動かなかったんだろうね。だから他の場面で力が使えなかったというか使う気がまったくわかなかったというか……だから如月さんが居ない時には分かんなかったという……」
斧研はそこまでどうにか言ってから、ピシっと固まる。
もう瑞貴の方を見るのが怖かった。
兎に角怖かった。
どうにか話を逸らしたい斧研は、ギシギシと油の切れたブリキさながらに首を動かしながら、紫子へと顔を向ける。
「そういえば、紫子の家って丹羽の家と親しかったよね。一族は能力持ちな感じなの、丹羽って?」
紫子は苦笑しながら肯いた。
どこか責める様な色を瞳に纏わせながら。
「確かに花山院の本家と丹羽の本家は親しいですけれど、瑞貴さんとはあまり……本来なら幼稚園から一緒でしたのに別の所に通ってしまわれましたし……初等部で初めてお逢いましたのよ。伝統的に幼稚園に入る前には顔合わせしますのに……両家の行事にも瑞貴さんはあまり出席しませんから、わたくしも本当に寂しいのですわ……丹羽の家には代々伝わる能力があるらしいのですけれど、詳しくは知りませんのよ。ただ、その能力を持った方が家を継ぐという話ですわね」
本来の調子で話し出した紫子に、瑞貴は面倒そうに眉根を寄せる。
「そうだな。俺が跡継ぎだ。これで良いか?」
周囲が凍り付きそうな程の冷気をまとった声音に、ミスったと斧研が頭を抱えてももう遅かった。
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