第11話
瑞貴は色々装うのを止めた為にそのまとう雰囲気に飲まれ、空間は静寂に包まれる。
それを破り決意した眼差しで進み出た真宮は、目を閉じ、掌の上にナイフを出現させた。
「……本当に思うだけでとは……」
呟いてから精一杯気を張りつつ、瑞貴からある程度離れた瀕死の兎に似た生き物の前へと歩を進める。
しゃがんで瀕死の兎の様な生き物を真宮理人は見る。
大きく息を吐いてから、必死にどうにか感情を抑えてナイフを胸に突き立てた。
すると、兎に似た異形の生き物は光の粒になって瞬時に消え、跡には大きめのハンカチ程の毛皮が一枚と、角が一つ、一キロ前後の肉の塊が一つ。
険しい表情でそれを見詰める真宮。
震えそうになるのをどうにか抑え込んでいた。
真宮と殺した跡に残された物を交互に見詰めてから、副会長でもある円城寺雪音は、次は自分だと瀕死の兎擬きへと近づく。
瑞貴の直ぐ近くまで歩を進め、しゃがんでからナイフを出現させると瀕死の兎っぽい生き物へと瞬時に突き立てる。
今度は光の粒になった跡に現れたのは、毛皮一つと、角が一つ、一キロ前後の肉の塊が二つ。
荒い息をしながらそれらを凝視し、一度目を瞑った後に雪音は気丈に瑞貴へと微笑んだ。
瑞貴は静かに肯き、近付いて来た逢坂へと視線を向けながら土岐への注意と周囲の警戒も怠らない。
本来ならばすぐさま今の状態を調べるのが最善なのだろうと思う。
試してはみたのだが、職業やスキルを見る方法、つまりステータスの見方が分からない。
ステータスを見たいと思っても見られない事から考えられるのは三つ。
一つは声に出して言わないと発動しない。
二つ目はひとつ目と被るところもあるが、何等かの条件を満たさないと見る事は出来ない。
三つ目はそもそもステータスを見せる気が無い。
最後に予想したモノが当たった場合は非常に厄介だ。
だがこれが正解な気がして仕方がない瑞貴である。
此処に連れてきた相手は、どうやらあまり真っ当な存在には思えないのだ。
だからこその予感ともいえる。
それを裏付ける様に、殺した跡に遺された物を収納するアイテムでもあれば良いが、それの入手方法も提示はされていない。
手で持って態々セーフティーゾーンまで持ち帰れとでも言うのだろうか……?
雪音と同じ物がいわゆるドロップしたのを青い顔をして見詰めている逢坂楓馬とバトンタッチをするように、月見芽依咲は気楽な様子で近づいて手にナイフを出現させた後、顔を顰めた一瞬で死にかけの兎に似た生き物を絶命させる。
彼女が殺した兎擬きのドロップ品は、角が一つと二キロ前後の肉の塊一つ。
「何かわたしのだけ毛皮ないんだけど……」
頬を膨らませて不満そうな芽依咲に、どうにか平静を保とうと必死になりながら真宮が声をかける。
「……だが芽依咲君、君のものは肉が多いと思うよ。それぞれ違うという事だろう。個体差かもしれない」
それを聞いても芽依咲は不満そうだ。
「でもさー」
雪音がどうにか苦笑の形の表情をしながら諭す様に言葉をかけている。
「芽依咲、食料の事を考えたら今は毛皮よりお肉が多い方が良いと思うわ」
雪音の言葉に逢坂も肯いたのを見てから、芽依咲も目を見開いて納得した。
「あ、そうか、そうだよね。さすがユッキー!」
聖東学園高等部の生徒会のメンバーは、どの代においても中等部でも生徒会に所属しているのは常である上、幼稚園からエスカレーターの者ばかりだ。
どうしたって他の者よりは絆は強固、と思われている。
「生徒会長、殺してない者を俺の近くに寄こせ。ナイフさえ出せればいい」
土岐がこの場に居る生徒会のメンバーでは最後に殺したのを見終わってから、微動だにしない他の者達へと視線を向け、瑞貴が冷厳に言い放つ。
生徒会のメンバーも聖羅も杏も、瑞貴の意図を察せられた。
だからこそ真宮が動けない者達へと向き直り、言葉を発しようとしたのだが……
「否、大丈夫ですよ、丹羽くん。僕達が手助けしますから」
伊達眼鏡を片手で押し上げながら満面の笑みを浮かべる土岐に、瑞貴は無表情になりながら、ほかの者は目を見開いて見詰める。
「会長、一般生徒の丹羽君にばかり負担をかける訳にはいきません。ぼく達生徒会役員こそがこの緊急事態に真っ先に動き、率先して汚れ仕事もするべきです」
そう言い切る土岐にらしいなと瑞貴は思う。
主導権を握ろうとする所が本当に土岐だと。
プライドが馬鹿みたいに高いのが土岐という少年だ。
だが一番上に立とうとしないのは単純に責任を取りたくないから。
その上で虎の威を借る狐なのだ。
傘に隠れて好き勝手し、都合の悪い事は他人に押し付ける。
コバンザメというよりは寄生虫というのが土岐の正しい在り方だった。
それを知っているからこそ、土岐の次の行動も瑞貴には手に取るように分かる。
「皆、会長が手助けしてくれますから。さあ、こっちに」
瑞貴の予想通りの発言をする土岐。
優しい笑顔で何の躊躇もなく真宮に押し付けたのだ。
自分の手は汚したくないあたりが実に土岐だった。
彼の小さめの手は、傷一つ、汚れ一つない程白く綺麗だ。
自分だけはいつまでも清らかでいようとする象徴の様でもある。
生徒会長の真宮の名前が出たからだろう、おずおずと皆が近付いてくる。
それを横目にしながら誰も自分に注目していないのを確認し、瑞貴は試しに聖羅の殺した犬の様な生き物の、ドロップアイテムと言えるだろう物を手に取ってみようとしたのだが、何か見えない壁でもあるかのように触れられない。
だが、瑞貴が殺した相手のドロップアイテムは何の障害も無く手に取れた。
しばし考え、瑞貴は聖羅へと声をかける。
「仁礼、このアイテムを俺に譲ると言ってくれ」
瑞貴なりに気を使って言ってみてこれだった。
「ええと、あそこにあるのを丹羽君に譲ると言えばいいの?」
聖羅が戸惑いながらそう口にした瞬間、瑞貴と聖羅の脳内に声が響き渡った。
『ドロップアイテムの譲渡を許可します。以後ステータスより行うことを推奨します』
レベルアップと言っていた声と同じものだと思われた。
無機質で機械的な女性の声。
特徴が無いのが特徴の様だと瑞貴は独り言ちつつ、先程は弾かれたドロップアイテムへと手を伸ばす。
「なるほど」
瑞貴を見ていた聖羅も理解した。
どうやらドロップアイテムは殺した相手に所有権があって、本来は譲るという宣言ではなくステータスで譲渡は行われるものらしい。
そう把握しつつ、瑞貴は真宮や逢坂に手を握ってもらいながら止めを刺していく女生徒達と、雪音と芽依咲に良い所を見せようと冷汗を垂らしながら殺していく男子生徒を視界に収めていた。
……聖羅と杏にも注目して欲しい男子生徒も多かったのも把握はしつつ。
やはり生徒会のメンバーの人気は高い。
なんとしても生き残るには、やはり生徒会のメンバーはある程度必要だろう。
仲間割れさえなければとも思うが、命がかかっているのだから何があるかも分からない。
不安要因も幾つかある現状に頭を痛めながら、それでも瑞貴は諦める気はさらさらなかった。
瑠那にまた逢う。
その為だけに全てを利用する。
そう内心宣言し、最後の一人が殺し終わるのを確認して皆に告げた。
「殺した相手以外には遺されたものは触れられない。譲渡の正しい方法は調べるしかないな。各々で自分の殺した跡に遺ったものを持って帰るしかない。一度戻って残った全員にも殺してもらう。職業を得られなければどうにもならん」
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