第1話
周囲には、同じ制服の十代後半だろう少年少女が多数、右往左往している。
白い空が頭上を覆い、地面も白い何かに覆われていた。
全てが白くまるで真っ白な膜の様で、何等かの人工的な空間に思えるが確かな事は分からない。
十代後半位の、一際圧倒的に整っている容姿と高い身長を誇り、本来なら衆目を集めずにはいられないだろう少年は、辺りを忙しなく動き回り、たった一人の少女を血眼になって探し回っていた。
その少年に目を留め、声を掛ける一人の少女が居る。
「丹羽君! 良かった丹羽君も居たんだ! 丹羽君、瑠那ちゃん知らない!!?」
その声にようやく動きを止めた少年は、声をかけた少女を見る。
「近藤か。そちらも瑠那は知らないんだな?」
どうしようもなく人目を惹かずにはいられない少年を丹羽と呼んだのは、長い黒髪を真っ直ぐに伸ばした日本人形染みた容貌の、日本人の平均身長より確実に高いスレンダーな美少女だった。
その少女は、濃紺のブレザーに緑を主体とした紺と赤のチェックのベストとスカートを身に纏っている。
彼女の名前は
聖東学園に中等部から通う、現在高等部の一年生だ。
「うん、知らないの。丹羽君も知らないんだね?」
確認の意味で問いかけると、少年は顔を顰める。
その丹羽と呼ばれた少年は、杏と同じ制服を身に纏っているが、兎に角容姿が整っていた。
全てが芸術の神が手間を惜しまず精緻に作り上げた人形染みている上、人間離れした妖艶さをも兼ね備えた絶世のが付く圧倒的な容貌と容姿を誇るのに加えて、背も日本人の平均身長よりずっと高いのだから、目立つのは必然だったろう。
そんな少年の名前は
杏と同じ学園に初等部から通い、現在は同じクラスの高等部一年生だ。
そんな彼に誰も注目しない事にこの事態の異常さが現れているのかもしれない。
「ああ。同じ教室に居たのにな……近藤や他の連中は居る訳だが、何故瑠那は居ないんだ……?」
彼女達が探しているのは、
瑞貴と幼稚園から一緒の幼馴染だ。
ちなみち、杏とは中等部から同じクラスで、親友でもある少女である。
杏としても、同じ教室に居たはずの同級生で親友の瑠那がどうして此処に居ないのかが分からない。
そもそもここが何処かが分からないのだから、ひたすらに混乱中だった。
それでも周りを見回すと、見知った顔がちらほらとあるし、何より馴染みのある制服姿の男女ばかりだったからこそ、彼女は一呼吸置けて、そして瑠那がいないと気が付けたのだ。
それからは同じ制服の同じ年齢位の男女の中を行ったり来たりしながら、目を凝らしつつ没頭して探しているのに、瑠那の姿はまるで見つからない。
瑠那は平均身長より小さく小柄だ。
だから同じ制服の多数の人に紛れてしまったのかとも思って、更に注意深く探しても、本当に見つからない。
焦りばかりが押し寄せてくる中、ようやく見つけたというか気が付いたのが瑞貴の存在だったのだ。
「瑠那ちゃん、どうしちゃったの……」
不安で涙が零れそうになる。
杏は大変な人見知りで、親しいと言えるのは瑠那位だ。
近寄りがたい美しい容姿と相まって、本当に仲が良いのは瑠那しかいない。
瑞貴は瑠那の幼馴染だから、辛うじて親しいと言える相手で、杏にとっては貴重な存在。
だからだろうか。
瑞貴の姿を見たら、どこかホッとしてしまって、張りつめていた糸が切れそうになっているのだが、杏自身はその事に気が付いてはいない。
それでも無意識に安堵の余り涙が零れそうになってもいるというのに、その理由を本人としてはまったく分かってはいなかった。
「――――この場所にいる制服を着た人間を見て回ったが、高等部だけの人間にしては人数が足りない気がする。それに中等部の人間や初等部は居ないな。大学部の人間も居ないだろう。制服を着ていないのは教師だけだ……瑠那は、ここには、居ない、のか……?」
常日頃無表情か余裕そうにしている、妖艶な美貌の瑞貴の表情は、焦燥感が溢れていた。
今にも地面が無くなって、奈落の底に落ちてしまうと言わんばかりの切羽詰った様子だったが、自分も精一杯の杏は気が付かない。
それでも、瑞貴の言葉を聞いて彼女が周りを見回してみると、確かに中等部の人間は居ないような気がするし、初等部の幼さを感じる子等も居ない様だ。
大人達をみてみれば、確かに見覚えがある教職員ばかり。
だから大学部の人間は居ないのだろうと分かったし、ならば高等部の人間ばかりという事になる。
けれど確かに瑞貴の言う通り、それにしては人数が足りないと思う。
どれ位足りないのか調べようにもどうして良いかも分からないし、教職員達を見ても彼等も混乱の最中らしく、頼る事も難しい。
「瑠那ちゃんは、此処に居ないって事なら、何処にいるの……?」
杏の現状を鑑みて不安になって漏れ出た言葉に、力の無い声ではあるが、瑞貴が答える。
「分からない……此処に居ないのなら、元の教室に居るのか……?」
瑞貴の言葉を聞いて、杏はようやくここが何処なのかという疑問にたどり着いていた。
先程までは、訳が分からないけれど何はともあれ瑠那を探さなくてはと、それだけを思い彷徨っていたのだ。
だが、瑠那が何処に居るのかを考える為に、回りだした思考が告げるままに此処に来るまでの今日の出来事を思い出そうと思った時、隣にいる瑞貴の名を呼ぶ甘やかな声が響き渡った。
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