第46話
さも当然という風に瑞貴は言い切った。
「視る訳がない。プライバシーの侵害はいけないだろう」
竜は即座に突っ込んでしまう。
「『どの口が言うとるんじゃ!』」
やはりかと竜は襲い掛かってくる頭痛と戦っていた。
他人は視放題な上、見て気にする気も無いだろうにこれである。
その竜の内面を一切気にせず、瑞貴は眉根を寄せながら更に言葉を続けた。
「別に他のは視たくて見ている訳ではない。勝手に入り込んでくるだけだ。息をするのや心臓を動かすのと同じに無意識にな。彼女の場合だけは視ない様にしっかり意識して隠している。……嫌われて疎まれているのを直接視た場合、正気でいる自信が微塵も無いからな。声も聞こえたら自分で自分を抑えらない自信もある。――――やはり見て見ぬ振りが一番だな」
瑞貴は何度も力強く肯いているのだが……竜としては本当にこう……面倒くさいというのが感想だ。
「『で、その大切な彼女が、少しは思ってくれているという確信は無い訳じゃな』」
もう投げやりな口調で言い切ると、瑞貴が目に見えて落ち込みだしたので慌てた。
あれ程余裕綽々という態度を微塵も隠さない人間が、何故こうも萎れた花さながらになるのかが分からないし、何より本当に面倒くさい。
竜としてはこれに尽きる。
これだけ思われている存在に純粋に同情した。
逃げられないだろう事は分かっているのだが、あのド畜生が一体何を考えているのかも思考すると疲弊が凄まじい。
何よりも、もし瑞貴が原因でその彼女にド畜生がナニカした場合が怖い。
何がと言われると悩むが、本当にこう……内側から沸々と恐怖が湧いてくるのだ。
結局、急いだとしても既に手遅れであるだろう可能性も高いのだ。
瑞貴と彼女のいる場所の時間の流れが一緒ではないだろうと、彼も竜も思い至ってしまったのだから。
今更ドタバタと焦るより、じっくり腰を据えてどうにかする方が良いとは思う。
――――彼女について目を瞑るのなら。
抜本的な対策を講じるのならあのド畜生を……という事になるのだが、無理に行動して瑞貴の守る彼女に被害が行くのは分かっている。
少しずつ出来る事を封じるのが一番だろう。
だからどうしても、時間稼ぎには瑞貴の守る彼女の気持ちが重要なのだ。
それだけでド畜生に集中出来るのだから。
「微塵も無いな」
――――本当にこの男は……!!!
竜としては自分でも何故これ程親身になっているのかは分からないけれど、それでも恩もあるからと打開策を考えているというのに、きっぱりはっきりこうも堂々と言い切られると……
瑞貴と彼が守りたい彼女を見捨てるに見捨てられなくなってしまった竜は、やはり人風に言うのなら人が良いのだろう。
「『何か交換したモノはあるか? 物でも言葉でも良いのじゃ』」
竜の言葉を聴いた途端、瑞貴は真剣に、それこそ今までの態度は何だったのかレベルで真剣に悩み、最後はおそろしく顔を顰めてから口を開く。
「プレゼントは毎年彼女の誕生日に渡しているな……お返しにといつも彼女は俺の誕生日にプレゼントを。それとクリスマスにプレゼントの交換も毎年している。バレンタインにもらったお返しはホワイトデーにしているが……彼女からのモノは全て俺の腹の中だ。――――やはり保存用と観賞用も頼んでおけば……!!!」
忸怩たる思いが滲んでいる瑞貴にちょっとどころではなくドン引きしながら、嫌な予感に震えつつ、竜はおそるおそる確認をしてみることにした。
出来れば逃げたいというのが本音だ。
予想が当たった場合、どういう表情をすれば良いかが本当に本当に分からない。
この竜は、人に親身な人よりの感性の持ち主であったからだろう。
どうにも瑞貴の言動の先が怖くて聞きたくない。
――――普通の竜の感覚でも”ちょっとないわー”というレベルであろうことは、この竜にも分かっていた。
それでも確認しなければと謎の義務感から問いを発する。
「『――――……腹の中、というのは……どういう、そう、どういう意味じゃ?』」
瑞貴は竜から感じる冷気に首を傾げながら、それでも素直に答えを返す。
彼としても竜が親身に心配している事をしっかりと理解していたからというのが理由だ。
彼にしてみれば、瑠那の事を誰かに話す事は好まない。
どこで彼女に危害が及ぶか分からないからだ。
だがこの竜からは彼女へのマイナスの感情を受けないばかりか、どうやら瑞貴と引き離した方が良いのではという心配までしてくれている。
それが正しいと瑞貴も思うからこそ、出会って短い期間だが竜に珍しく心を開いていた。
竜は瑞貴が瑠那を絶対に手放す気が無い事も諦め気味に分かっていて、それでも瑠那を案じてくれているのが更に好感度アップである。
「全て捕食しただけだが」
端的に、そう瑞貴はいつも通り端的に答えた。
竜にしてみれば……顔面が引き攣るのを抑えられないけれど、それでもどうにかもう一度確認する事に踏み切る。
……確信したら何か色々諦めたくなるのを分かっていながら……
「『……それは……勿論食べ物であろうな?』」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます