第17話

 情報を伝えるべきだと判断し、瑞貴は自分の知り得る事を話す事に決め、口を開く。


「チュートリアル中は、入手した情報をチーム全員に開示しないとペナルティーが科されるとある。『塔の攻略競争について 入門編』に追加された情報だ。『説明』のレベル3で知らされる情報らしいが」


 そこまで言って、反応を待ってみる。


「……うわ……質悪……」


 斧研がうめくように口にした言葉に、ほぼ全員が肯いた。


「ところでだ、丹羽。『説明』のレベルが3ってどういうことだ。まさかポイントが多い、のか?」


 周防が確認するように瑞貴を見る。

 周囲も弾かれた様に瑞貴に視線が集まった。



 また『説明』のレベルを上げると何かしらの情報が新たに分かるようになるのは確実で、であればすべて伝えて良いものかは悩む。

 が、知らせないのも今知り得る限りでは危険。

 元々さして親しくはない相手ばかりなのだ。

 下手な隠し事は後々足を引っ張りかねないかと判断した瑞貴は、ついでのように口にした。


「”職業”らしい『暗殺者』のレベルが4となっている。ポイントも1400あった」


 周囲の目を瞠る反応に拙かったかと内心ため息を吐いた瑞貴は、仕方がないかとこれも告げる。

 どうにか対人用の仮面を被り直しつつ。


「ところで訊きたいんだが、”職業”の所に(仮)と小さな文字で書いてある者はいるか?」


 斧研が苦笑しながら瑞貴を見る。


「あー……確かに丹羽のは視れる情報少ないなって思ったんだよね……ってことは、レベルが離れれば離れる程視れる情報が少ないって事か……丹羽なら他の人の”職業”全部視れるよ。慣れれば簡単。他の人を視るんだよ。自分の『ステータス』を視る感じで」


 周防はボサボサの頭を掻きながらため息。


「レベルがこうも違う理由ってなんだ?」


 神崎がさも当然の様に答える。

 彼にとっては至極当然の事だったので。


「モンスターを多く殺したからでしょう。俺はレベル3ですよ」


 続けて鬼ケ原も肯く。


「おう、俺もレベル3だな。こういうのはゲームらしいっちゅうか」


 斧研、雪音、逢坂、紫子、小鳥、萌奈、聖羅、風早、竜堂にとっては当たり前だと思っていたので、逆に驚いてしまう。


「え……? あの、周防先生。普通モンスターを倒してレベルアップっていうのは常識じゃないんですか?」


 斧研が思わず訊いてしまうと、他の常識だと思っていた面子も周防を凝視する。


「あのな……考えてみろ。確かに場数を踏めばそれだけ経験が付くんだ。確かにいわゆるレベルは上がる。だがな、世の中にはどうしようもない”才能”っていうもんがあるだろうが。同じだけの経験、努力をしたとしても、どうしたって差が出る。だから俺はまあ、丹羽の才能所以のレベルだと思ったんだよ。言わなかったがな」


 愕然となる周囲を見渡しながら、周防が更に口にした。


「そもそも、レベルというもんで数値化ってのはな……そう単純なもんじゃねえだろうが。それとも足運びやら気配の読み方やら相手の動向の読みやら体の動かし方とか全部含めてのレベルなのかどうかも分からんし。大体だな、気配の読み方に特化してたりとか、体のキレが抜群だとかだな、総合したら同じレベルかもしれんが個性はあるだろ。例えば同じ競技をやってたとしてもそれぞれ長所短所ってもんは出てくる。そこを踏まえるとどうもで単純に示してるのかわからんなと思ってな。いわゆるパッシブスキルみたいに個人個人で効いてるとかが違うかもしれんが。それを可視化してるかどうかも分からんだろ。筋力だのは数値化されてないしな。マスクデータが多すぎる気がする。お前ら注意しろよ。ここはゲームっぽい仕様だが、それでも現実だからな」


 周囲の大多数が周防の言葉を胸に刻む中、顔色を変えた相手を瑞貴は注視しつつ別の事を口にする。

 出来得る限りの対人仮面を装着しながら。


「近藤と土岐先輩の”職業”に(仮)とあるな。後は……ああ、成程」


 そこまで言って口を閉ざした丹羽に、周防がため息を吐きながら促した。


「あのなあ、丹羽。知りえた情報は開示するんだろ。で、何が分かった」


 瑞貴は忌々しいのを抑えつつ素直に答える。

 周防にイラっとしたのではなく、この仕様にイラっとしたのだ。

 勿論、感情が荒れているので普段以上に上から目線の罵詈雑言がもれないように注意しながら。


「どうやら、腐……失礼、”主催者”が与えた”職業”になった者に(仮)が付いているようだ……ですね」


 周防は苦笑しながら肯く。


「そんなこったろうと思ったよ。助かった、丹羽。他に何か新しい情報はあるか?」


 瑞貴はもう一度見渡しながら、『スキル』欄の赤くなっている『スキル』の追加情報がある所へと視線を戻す。

 必要とは思えず先程は軽く流した箇所だった。

 伝えるだけ伝えるかと口を開く。


「下ら……いえ、『スキル』の赤くなっているモノを取得するには複数の『スキル』がいるとなっている……いますね」


 途端に風早と竜堂がいち早く反応した。

 他のゲームやら小説やら好きも思わず瑞貴へと視線が集まったが。


「マジかー! 『説明』のレベル2だと取得は難しいってなってるだけだったから」


竜堂も肯きながら疑問を呈する。


「だよな。それで凄い気になってることがあって、ほら、『スキル』の所に”職業”みたいなのあるだろ。自分の”職業”と同じのを取得した場合、どうなるんだろ?」

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