終幕:夢幻

2章 終わりなき終わり

4 ひと時の休息/ひと時の休息/ひと時の休息/ひと時の

 びっくりした。静まり始めた酒宴の片隅で、鈴音はそう思った。


 まだ戦域の中だけれど、補給物資は手に入れた。勝ったから呑む、が扇奈の選択だった。気分も体力も、休める時に休んでおこうと、そういう事だろう。


 一鉄も最初は少し眉を顰めていたが、扇奈に何か耳打ちされて、その後は、酒宴の片隅でゆっくり休んでいるようだった。


 思えば、仮眠や簡単な食事はあったけれど、こうやってゆっくり休むのは一鉄と会って初めて、一鉄にとっても数日ぶりのはずだ。


 それで、鈴音は思ったのだ。この機会にもう一回聞いてみたい。


 前世で鈴音がどうだったのか、とか。一鉄が何をどう思っていきなりお慕い申し上げてきたのか。お慕い申し上げますは額面通りに受け取るべき発言なのか。


 鈴音も少し、酔いが入っていたのかもしれない。とにかく初めて言われた時よりはもう少しちゃんと聞いてみたい気になって、……何となく周りが寝静まるまで待ってみて、聞いてみようとして、けれど一鉄の察しが悪く、まあ良いかと拗ねた気分で質問を別にしてやって………。


 びっくりしたのは、その、後だ。

 突然、一鉄の様子がおかしくなったのだ。


 動きを止めて、と思えば頭痛に苛まれたかのように顔を顰めて、それから突然、抱きしめられた。


 しかもそのまま泣かれては、………どうしろと?

 とりあえずあやして、落ち着いてから事情を聞いて、それから、鈴音が油断した頃に、一鉄は言うのだ。


『ただの、恩返しじゃありません。一目惚れでした。でも、もう、一目惚れでもありません。……今度こそ、絶対に死なせない』


 恩返しって何の話だろうか?そしてこの男はなぜ突然こういう事を言うのだろうか。真顔で。恥ずかしい奴だ。凄い、恥ずかしい。……周りで皆見てるから。


 扇奈も、何か、呆れたようににやついている。

 鈴音は後ずさりし、頬を赤らめ、そっぽを付いて、心に誓った。


 油断しないようにしておこう。この男は油断ならない。………まったく。


 *


 びっくりした。静まり始めた酒宴の片隅で、鈴音はそう思った。


 まだ戦域の中だけれど、補給物資は手に入れた。勝ったから呑む、が扇奈の選択だった。気分も体力も、休める時に休んでおこうと、そういう事だろう。


 一鉄も最初は少し眉を顰めていたが、扇奈に何か耳打ちされて、その後は、酒宴の片隅でゆっくり休んでいるようだった。


 思えば、仮眠や簡単な食事はあったけれど、こうやってゆっくり休むのは一鉄と会って初めて、一鉄にとっても数日ぶりのはずだ。


 それで、鈴音は思ったのだ。この機会にもう一回聞いてみたい。


 前世で鈴音がどうだったのか、とか。一鉄が何をどう思っていきなりお慕い申し上げてきたのか。お慕い申し上げますは額面通りに受け取るべき発言なのか。


 鈴音も少し、酔いが入っていたのかもしれない。とにかく初めて言われた時よりはもう少しちゃんと聞いてみたい気になって、……何となく周りが寝静まるまで待ってみて、聞いてみようとして、けれど一鉄の察しが悪く、まあ良いかと拗ねた気分で質問を別にしてやって………。


 びっくりしたのは、その、後だ。

 突然、一鉄が動きを止めて、酷い頭痛がするかのように顔を顰め、と思えば、声を掛けた鈴音を見て、言うのだ。


『俺は………また……。………死なせません。絶対』


 そして、言うが早いか、一鉄は扇奈の元へと歩んでいって、事情を話すのだ。

 何度か、やり直しているらしい。前回の状況やらなんやら、手短に話した後、一鉄はすぐに鎧の元へと向かう。帝国を探しに行くらしい。


 放ってはおけないと、鈴音もついていくことにした。

 そんな鈴音に、一鉄は真剣に言うのだ。


『はい。……絶対に、俺が守ります。今度は、傍にいてください』


 今度は、って、どういう事だろうか?この男はなぜ突然こういう事を真顔で言うのだろうか。恥ずかしい奴だ。凄い、恥ずかしい……。


 鈴音はとりあえず一鉄の足を軽く蹴った。頬を赤らめながら。

 油断しないようにしておこう。この男は油断ならない。………まったく。


 *

 *

 *


 びっくりした。静まり始めた酒宴の片隅で、鈴音はそう思った。


 まだ戦域の中だけれど、補給物資は手に入れた。勝ったから呑む、が扇奈の選択だった。気分も体力も、休める時に休んでおこうと、そういう事だろう。


 一鉄も最初は少し眉を顰めていたが、扇奈に何か耳打ちされて、その後は、酒宴の片隅でゆっくり休んでいるようだった。


 思えば、仮眠や簡単な食事はあったけれど、こうやってゆっくり休むのは一鉄と会って初めて、一鉄にとっても数日ぶりのはずだ。


 それで、鈴音は思ったのだ。この機会にもう一回聞いてみたい。


 前世で鈴音がどうだったのか、とか。一鉄が何をどう思っていきなりお慕い申し上げてきたのか。お慕い申し上げますは額面通りに受け取るべき発言なのか。


 鈴音も少し、酔いが入っていたのかもしれない。とにかく初めて言われた時よりはもう少しちゃんと聞いてみたい気になって、……何となく周りが寝静まるまで待ってみて、聞いてみようとして、けれど一鉄の察しが悪く、まあ良いかと拗ねた気分で質問を別にしてやって………。


 びっくりしたのは、その、後だ。

 突然、一鉄が動きを止めて、と思えばまるで頭の中を穿り回されているかのように、痛みの声を上げて頭を抱えながら、崩れ落ちたのだ。


 鈴音は一鉄に声を掛けた。そんな鈴音を見上げて、一鉄は、言うのだ。


『……すいません。また………、』


 そして、それだけ言って、扇奈の元へと歩んでいき、事情を話し出す。

 何度も、やり直しているらしい。説明は端的で酷く要領を得ていて、こうしろと、扇奈に指示を出してもいた。


 それから、一鉄は鎧へと歩き出す。帝国軍を探しに行くらしい。

 なんだか、様子がおかしい。放ってはおけないと、鈴音はついて行くことにした。


 そんな鈴音に、一鉄は、どこか弱く笑って、言うのだ。


『そうだ……。その前に、返事を書いても良いですか?ほら、そうしたらって、』


 なんの話だか、鈴音にはわからず、首を傾げた。

 その瞬間に、一鉄の張り付けた笑顔に、ひびが入った気がした。


 何も、鈴音は覚えていない。けれど……何か、酷い事をしてしまったような、そんな気がした。


 *

 *

 *

 *

 *


 びっくりした。静まり始めた酒宴の片隅で、鈴音はそう思った。


 まだ戦域の中だけれど、補給物資は手に入れた。勝ったから呑む、が扇奈の選択だった。気分も体力も、休める時に休んでおこうと、そういう事だろう。


 一鉄も最初は少し眉を顰めていたが、扇奈に何か耳打ちされて、その後は、酒宴の片隅でゆっくり休んでいるようだった。


 思えば、仮眠や簡単な食事はあったけれど、こうやってゆっくり休むのは一鉄と会って初めて、一鉄にとっても数日ぶりのはずだ。


 それで、鈴音は思ったのだ。この機会にもう一回聞いてみたい。


 前世で鈴音がどうだったのか、とか。一鉄が何をどう思っていきなりお慕い申し上げてきたのか。お慕い申し上げますは額面通りに受け取るべき発言なのか。


 鈴音も少し、酔いが入っていたのかもしれない。とにかく初めて言われた時よりはもう少しちゃんと聞いてみたい気になって、……何となく周りが寝静まるまで待ってみて、聞いてみようとして、けれど一鉄の察しが悪く、まあ良いかと拗ねた気分で質問を別にしてやって………。


 びっくりしたのは、その、後だ。

 突然、一鉄が頭を抱えて唸り出したのだ。酷い頭痛に耐えかねたように。


 鈴音は、そんな一鉄へと手を伸ばし掛け、けれど、反射だろうか。一鉄が鈴音の手を振り払った。


 振り払ってから、一鉄は泣きそうな顔をして、何かを言い掛け、けれど何も言わず、俯いたままに、扇奈の元へと歩んでいく。


 何度も、何度も何度も、やり直しているらしい。事情の説明は端的でぶっきらぼうだった。そして、扇奈にこうしろ指示を出し、一鉄は鎧へと歩み出す。


 帝国軍と合流するようだ。 

 放ってはおけない、とついて行こうとした鈴音に、一鉄は言うのだ。


『来るな!』


 その声に、鈴音は怯えて、おびえた鈴音を前に、一鉄は頭を掻きむしり、力なく『すいません』とだけ言って、一人、鎧へと歩んでいく。


 鈴音は、固まったまま、そんな一鉄を見送った。

 ……でも、放ってはおけない。扇奈は許可をくれた。だから、鈴音は、一鉄が心配で………。


 *

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 *

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 *

 *


 びっくりした。静まり始めた酒宴の片隅で、鈴音はそう思った。


 まだ戦域の中だけれど、補給物資は手に入れた。勝ったから呑む、が扇奈の選択だった。気分も体力も、休める時に休んでおこうと、そういう事だろう。


 一鉄も最初は少し眉を顰めていたが、扇奈に何か耳打ちされて、その後は、酒宴の片隅でゆっくり休んでいるようだった。


 思えば、仮眠や簡単な食事はあったけれど、こうやってゆっくり休むのは一鉄と会って初めて、一鉄にとっても数日ぶりのはずだ。


 それで、鈴音は思ったのだ。この機会にもう一回聞いてみたい。


 前世で鈴音がどうだったのか、とか。一鉄が何をどう思っていきなりお慕い申し上げてきたのか。お慕い申し上げますは額面通りに受け取るべき発言なのか。


 鈴音も少し、酔いが入っていたのかもしれない。とにかく初めて言われた時よりはもう少しちゃんと聞いてみたい気になって、……何となく周りが寝静まるまで待ってみて、聞いてみようとして、けれど一鉄の察しが悪く、まあ良いかと拗ねた気分で質問を別にしてやって………。


 びっくりしたのは、その、後だ。

 頭を抱え、痛みに歪み切った顔で、一鉄は喚くように、頭を抱え、


『どうして………どうして………生きてた……うまく行ってたのに……』


 呟き続ける。

 鈴音は、そんな一鉄へと手を伸ばした。どう見ても、尋常な様子ではない。けれど、一鉄はどこかおびえるように、鈴音から逃げた。逃げて、言うのだ。


『すいません………』


 そして、頭を抱えてよろめきながら、扇奈の元へと歩んでいく。

 碌に、説明はない。ただ、こうしろとだけ、一鉄は命令していた。


 そして、それが済むと、何も言わずに、一鉄は鎧へと歩いて行く。


 帝国軍と合流するのだろうか?この様子では、放っておけない。ついて行こうと、鈴音は動きかけ、それを、どこか暗い、絶望に飲み込まれたような、そんな目で一鉄は睨み、言うのだ。


『来るな。……来ないでくれ……お願いだから……。それが、一番、………』


 そう、何かを言い掛け、けれど言いきらないまま、何かを諦めでもしたように、一鉄は俯き、そのまま、立ち去って行った。


 鈴音は、どうして良いか、わからなかった。


 *

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 *

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 *


 びっくりした。静まり始めた酒宴の片隅で、鈴音はそう思った。


 まだ戦域の中だけれど、補給物資は手に入れた。勝ったから呑む、が扇奈の選択だった。気分も体力も、休める時に休んでおこうと、そういう事だろう。


 一鉄も最初は少し眉を顰めていたが、扇奈に何か耳打ちされて、その後は、酒宴の片隅でゆっくり休んでいるようだった。


 思えば、仮眠や簡単な食事はあったけれど、こうやってゆっくり休むのは一鉄と会って初めて、一鉄にとっても数日ぶりのはずだ。


 それで、鈴音は思ったのだ。この機会にもう一回聞いてみたい。


 前世で鈴音がどうだったのか、とか。一鉄が何をどう思っていきなりお慕い申し上げてきたのか。お慕い申し上げますは額面通りに受け取るべき発言なのか。


 鈴音も少し、酔いが入っていたのかもしれない。とにかく初めて言われた時よりはもう少しちゃんと聞いてみたい気になって、……何となく周りが寝静まるまで待ってみて、聞いてみようとして、けれど一鉄の察しが悪く、まあ良いかと拗ねた気分で質問を別にしてやって………。


 びっくりしたのは、その、後だ。

 突然、一鉄の様子がおかしくなったのだ。


 さっきまで、本当に、ついさっきまで、一鉄もどこか暢気に、過ごしていた。そう、鈴音には見えた。


 けれど、突然、一鉄は苦痛にのたうち回る。頭を抱え、唸り声のようなモノを上げた。


 心配で、鈴音は手を伸ばした。けれど、その手を、一鉄は睨み、弾くように払いのける。


 何所か、憎悪に近いような暗さがその表情にはあった。そして、何か、それこそ恨み言でも言いそうな剣幕で、一鉄は声を上げかけ………だが、次の瞬間、どこか諦観でもしたように、一鉄は俯き、呟く。


『どうせ、か………』


 何もかも自己完結した、諦めきった、……そんな雰囲気だ。そして、結局一鉄は、鈴音に何を言うことなく、背を向け、扇奈の元へと歩き出した。


 鈴音には、何もわからない。

 さっきまで一鉄は穏やかに過ごしていた。それは間違いない。


 けど、突然、それこそ人が変わったように、雰囲気が一変している。


 何かがあったことは間違いない。そして、一鉄の話を信じるなら、一鉄は前世の記憶を持ったまま時間をさかのぼっているらしい。それが今、起こったのだろうか?


 それは、わかる。だが、鈴音にわかるのはそれだけ。一鉄だけが知っている前世、多分、鈴音も関わっているだろうそれについて、今の鈴音は、言ってくれなければわからない。


 わからないのに、鈴音に何も言わずに、一鉄は立ち去ろうとしている。知らないところで思いつめ、知らないところで勝手に何かを決めてしまう。


 ふと、鈴音は、弟の、あるいは兄の事を思い出した。

 いろいろ、知っていたはずなのに。わかってあげられたはずなのに。ある日、鈴音の目の前から去って行った時を。


 そして、……鈴音は、その時、素直にはなれなかったと。


 そんなことを思って、鈴音は何も言わず去って行こうとする、明らかに様子の可笑しい一鉄の手を取った。


 振り向いた一鉄の顔にあったのは、やはり憎悪。そして諦観。様々な暗い感情がまじりあったような、………どれであっても、暗い顔だ。


 それを前に、鈴音は、意を決して……そういうモノなのかもしれないとどこかで思いつつ、それでも、と。ただ、問い掛けた。





「ねえ。……どうしたの?」


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