第33話 求愛宣言 その5

 部室内にて。

 俺と夏帆姉、そして対面には岸辺さんがテーブルを挟んで座る。何ともいえない空気感だが、このままでもいけない。俺は二人に対し、お互いを紹介した。


「夏帆姉、こちらは岸辺さん。体験入部の時にお世話になったんだ」


「ああ、校内新聞のダイオウグソクムシさん。これは、これは、私の柚希君を毒牙どくがにかけてくれたようで」


 しょぱなから、夏帆姉は臨戦態勢だ。またも闇の笑みを浮かべている。


「ダイオウグソクムシ? なんこと?」


「プールに住む害虫なのでしょう」


「な、害虫!?」


「変なあだ名をつけるのが、夏帆姉の悪い癖なんです。気にしないでください」


「むむむ」


 悔しそうな岸辺さんに、優越気味な夏帆姉。俺は無視するように紹介を続けた。


「そんで岸辺さん。こっちが夏帆姉で、俺の幼馴染みです。簡単に説明すると、空気読まないで、いつも俺を束縛して、なんでもかんでも思い通りに進めようとするマッド・デーモンです」


「ひどいよ、柚希君! 簡単じゃない! ばっちり説明しちゃってる」


 優越な態度は消え失せ、夏帆姉が目にうっすら涙を溜めて訴える。俺が言ったこと自体は否定しないんだなぁ。


「へぇ、マッドデーモンなんだ。そりゃあ、沢藤君に害をもたらすわけだ」


「なー! なんですか、あなたこそ害虫じゃないですか!」


「なによ!」


「なんですか!」


 二人はバチバチと火花を散らす。俺はため息をつき、続ける。


「とまぁ、俺にはこんな姉がいるわけで……岸辺さんとの清き交際は難しいと思うんですよね」


「ええ~? あなた柚希君に振られたの? かわいそうな人~」


「夏帆姉とも付き合ってはいないけどね」


「こ、これから付き合うんだもん!」


 岸辺さんはこちらを一瞥し、何かを察したように目を閉じた。


「なるほど、そういうこと。沢藤君が言いたいことはわかったわ」


「わかってくれましたか」


「つまり、この人を負かせば恋人になれるってことね」


「「はっ!?」」


 俺たちは予想だにしない言葉に驚く。


「岸辺さん、ちがいます……そうじゃなくて」


 夏帆姉と対面させたことで、面倒事に関わるということを知ってほしかった。さすれば、諦めるだろうと……思惑が違った。


「沢藤君、私をみくびらないで。これまで、どんな大会だって自分で勝利を掴んできたんだから。好きな人くらい振り向かせるのだって訳ないわ」


「あらあら、ダイオウグソクムシごときが調子に乗っておられますわね。誰の御前か、身をわきまえなさい」


「あなたこそ、沢藤君の恋人でもない癖におこがましいよ」


「だから! 今からなるって言ってるでしょ! もうキスだってしたんだから!」


「な!?」


 岸辺さんが思わず、俺の方を向く。


(あ~あ、言っちゃった)


 俺は片手で顔を抑えた。


「き、キスくらいなによ。私と沢藤君は、裸で体を密着させたんだから」


「なー!! そんな馬鹿なことがあるはずありません」


「岸辺さん、それは誇張です。裸ではないでしょ。水着つけてましたって」


「ふん、そんな事だろーと思ってました。愛に偽りとか、虫以下ですね」


「ぐぐぐっ! もう決めた」


 少し間を開けた後、岸辺さんが何やら決意した様子。


「私もこの部に入部する。あなたみたいな人と、これ以上、沢藤君を二人きりでいさせられない」


「何を言ってるの? この部活は二人用なの」


 どこぞやの、金持ち友達の、嫌味な言い回し。


「そんな規定はない! 先生に抗議するわよ」


「いいもん。教員は私の機嫌そこねるようなことしないから」


「だったら、私も同じよ。この学校に、どれだけ部活で貢献こうけんしてきたか。簡単に黙らせられると思わないで」


 おお! 岸辺さんが引かない! こんな人は初めてだ。夏帆姉と互角に張り合うその勇姿。まるで、ゴジラとキングギドラの攻防のようだ。


「いいぞいいぞ。やれやれ、もっとやれ~!」


 王者同士の激突に、場もわきまえずワクワクしてると、不意に二人が冷たい視線でこちらを見ていた。


「じゃなかった……夏帆姉、さすがに部活の入部は断れないでしょ」

 

「だだだ、だって」


「ふふん、ほうら見なさい」


「うぅ~、柚希君はどっちの味方なの?」


「俺は中立だ。モスラだ」


「モスラ?」


「とにかく、キスについてはおくれを取ったかもだけど、沢藤君の貞操だけは絶対私がもらう!」


「駄目! 柚希君のはじめては無条件で全部私のものなの!」


(ひぇぇぇ、バトルが白熱してる)


 こうして、ゴジラとキングギドラの大激戦はしばらく続いたのであった。

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