第3話 夏帆姉再び

「よっしゃー! 無事、合格!」


 人目もはばからず、歓喜の声と共にガッツポーズをとる俺。

 卒業式から一週間。今日は受験した高校の合格発表日なのだ。やはり、合格発表というのは高校の張り紙で緊張と共に確認するからこそ、報われた喜びもまたひとしおである。

 とりあえず、これで肩身の狭い思いで中学や元担任に報告に行かなくて済む。ようやく肩の荷が下りたこの安堵感は、普段の日常生活ではなかなか味わうことができない。


「ゆーずーきーくん♪」


「どわっ! か、夏帆姉!?」


 背後から肩をつかまれ、唐突に現れた夏帆姉に驚く。


「合格おめでとう」


「あ、ありがとうね、夏帆姉。いつからいたの?」


「ふふん、柚希君の喜ぶ顔が見たくて、合格者発表の張り出しの時間から待機してました」


「そうなの……」


 相変わらず、俺のことになるとすごいパワフルになるなぁ、この人。本当に落ちなくてよかった。


「というわけで、こちらへ来ていただけますか?」


「いいけど、どこに行くの?」


「いいから、いいから」


 夏帆姉に手を引かれるままに、俺は後をついていった。


♢♢♢


 「柚希君! お姉ちゃんとお付き合いしてください! まずは結婚前提の間柄からお願いします!」


 なんかすっごいデジャヴ……高校近くの公園のベンチに座らされ、またも愛の言葉を投げかけられた俺は遠くを見つめていた。


「ええ……またぁ?」


「うん。柚希君が合格して、浮かれている今ならワンチャンいけるかと思いまして」


「なんでいけると思ったんだよ」


「だって、柚希君が高校生になるタイミングで、どうしても大切な関係になりたかったの」


「いつもタイミングがずれてるんだよ。っていうかさ、卒業式でも同じようなこと言ってたよね」


「あの時は振られたもん!」


「まぁ、お断りはしたけどさ……それにしてもスパン早すぎない? まだ一週間くらいしか経ってないよ? 鬼神の回復速度だよ」


「だってぇ、あのあとね、柚希君を狙うゴミムシを駆除しようと待ってたんだけど……柚希君見てたら、告白なんかされてなくて、背中がすっごく寂しそうだったんだもん。やっぱりお姉ちゃんが守ってあげなきゃと思ったの!」


「み、見てたの?」


「はい。しっかり見てました」


 なんて場面を見られてしまっていたのだ。告白どころか全くモテないという現実を突きつけられたあの場面。くそ、あの日の根拠のない馬鹿強がりをかき消してしまいたい。あの日の自分、否、否、否!


「お姉ちゃんなら、柚希君のいいとこいっぱい知ってる。きっと幸せにできる。だからお願いします」


「それって、男側の言う台詞じゃあ……」


「柚希君が普段いうように、告白のロケーションもしっかり選んだよ! だから、ね? ね? まずは一か月だけでもいいから交際しよ?」


「新聞の勧誘じゃないんだからさ」


 プライドもかなぐり捨てて、求愛をしてくる夏帆姉。そのチャレンジ精神には心底驚かされる。告白なんてのは、すっごく精神的にナイーブな事柄なのではないかと思うのに……そこだけは敬意を表したい。

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