第2話 えっ? このまま卒業?

 教室に戻った俺は、最後のホームルームへと参加した。

 

 先生から一人一人『贈る言葉』などというものをかけられ、いよいよ本当にお別れなんだと実感する。女子たちなんか、泣きながらお互いに別れを惜しんでいる。俺も別の高校へ行くクラスメイト数名に「元気でな」と声をかけ、やるべきことは終えた。中学最後の日というだけあって、割と感動的だったと思う。だが、俺が本当に期待している展開はそれではない。


 俺が期待しているもの……それは卒業式恒例の行事といっても過言ではない、そう、告白の呼び出しである。

 夏帆姉はああ見えても中学時代、結構男子には人気があったのだ。よく一緒にいるところを羨望の眼差しで見られた記憶がある。そんな夏帆姉にあそこまで執着されるほどの俺……少しくらいモテてもおかしくはない、いや、下手をすれば恐ろしいほどの魅力を漂わせているのではなかろうか。となると、告白の呼び出しがないことがかえって不自然である。いい機会だし、可愛い彼女でも作って夏帆姉の鼻を明かしてやるか。

 そんなことを考えること約数分、俺は自席にとどまっていたのだが……。


(なぜ女子から声をかけられないのだ?)


 俺を置いていくように、クラスメイトはみな教室から出て行ってしまった。一応、念の為に机の中などものぞいてみるが、呼び出しの手紙などが入っている様子もない。教室の窓から、みな校庭でもよされている花のアーチへと向かっていくのが見える。

 

(まずいな……)


 このままでは俺を好きでいる照れ屋な女の子が、アタックできる絶好のチャンスが消えてしまうぞ。それでいいのか? まだ見ぬ未来のステディよ。

 う~ん……俺はしばし考えを巡らせる。花のアーチは華々しい活躍をした部活生がメインといわんばかりに悪目立ちするので、あまり行きたくはない。しかし、もしそこで俺を待つ女子が待ちぼうけを食らっていたら? それは由々しき事態である。仕方があるまい、これが最後のチャンスだぞと言わんばかりに、俺は校庭へと繰り出すことにした。


 校庭へ出ると、手に持っている卒業証書を確認したのか……教員が花のアーチ内へと案内する。この中を通ってしまうと、あとは帰るだけになってしまうので、それはけたい。


「いいえ、大丈夫です」


 断る俺をいぶかしむ教員。それを横目に、俺はしばらくその場に立ち尽くし、様子をうかがっていた。だが、どれほど経っても、誰からも声をかけられない。そして、恋のイベントも起こる様子がない。

 え……まさか、このまま終わっちゃうの? 少し焦りが見え始めた、その瞬間。


「あの……」


 きた! きたきた! 一人の女子が俺に声をかけてきてくれたのだ。制服のリボンの色を見る限り、どうやら2年生らしい。これはアレだ。憧れの先輩に対する「第二ボタンください」パターンだ。そうかそうか、よく考えれば、いきなり告白っていうのはハードルが高いよな。まぁ、この際だから、これでもいいだろう。随分ずいぶんと待たせやがって、いじらしい奴め。俺は第二ボタンを引きちぎる準備をする。


「何?」


 白々しく聞いてみるが、キリッとドヤ顔を決めてしまった感はいなめない。


「もうそろそろ校門閉めるみたいなんですけど、帰らなくていいんですか?」


 え? ふと周りを見ると、卒業生やその親たちであんなににぎわっていたのがウソのように閑散かんさんとした校庭。そして、在校生たちが既に後片付けに入っている。通り過ぎる在校生たちはみな、俺に対し、見てはいけないといわんばかりに視線をらしている。


「もう帰ります……」


「お気をつけて」


 後輩の女子はそう言い残し、軽く頭を下げると、そそくさと行ってしまった。


(そうかぁ……俺ってモテないんだなぁ)


 天を仰ぎ、ほんの少し目を閉じたのであった。

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