第14話 もし俺がヒーローだったならば

 朝の通学路を歩く俺は、空を見上げ、大きな溜息ためいきをついた。

 岸辺さんの本性を知った点での落胆らくたんもあるが、彼女のアプローチを拒絶しまった。そのことへの罪悪感が半端ない。


(傷つけてしまっただろうか)


 そりぁ傷つくよなぁ。乙女に恥かかせておいて、何を言ってんだか。更衣室に置きざりにした岸辺さんが心配になる。

 ただ、間違った選択ではなかったと思う。恋人関係を築くには、やはり段階を踏まなければいけない。サーティーンで二人は出会い、フォーティーンで幼い心を、傾けてあいつに預けたフィフティーン的な。


(んん?)


 俺は高校一年生で16歳。そうなるとシックスティーンではじめてのキスなわけだから……ダメだ、とんだチキンだ。

 嗚呼ああ、もし、俺がヒーローだったならば、あの場面でカッコよく決めれたのだろうか。でも、あんなフラグすっ飛ばして危険な関係を築くのはなぁ、やっぱ嫌だもんなぁ。


「はぁ」


「柚希君どうしたの? さっきから何度も溜息ついて?」


 一緒に通学路を歩く夏帆姉がふと俺の顔を覗き込む。

 そういえば、昨日助けてもらったということで、特別に一緒に登校する許可を与えたのだった。といっても、拒絶してもついてくるけど。


「なにか心配事?」


「なんでもないよ」

 

「そう? なら、いいんだけど……それより、あの話考えてくれた?」


「あの話?」


「お姉ちゃんと一緒の部活入ろうって、は・な・し♪」

 

「だから、それは嫌だっていったろ? 夏帆姉に構われてたら同じ部員に何言われるかわかんないよ」


「ふぇぇぇ! 柚希君と同じ部活ができないなんて……私、まるで翼をもがれたエンジェルだよ~」


「どういうこと?」


「セブンティーンで初めての朝を狙ってるのに……」


「俺の心を読んだの……?」


「ふふっ、お姉ちゃんだもん♪」


 昨日のセンサーといい、今のといい……本当にこの人が怖くなってきた。

 そんな会話をしつつ、俺たちは学校へと到着した。すると、校門の前で待ち伏せていた女性が、こちらを見るなり、そそくさと駆け寄ってきた。


「ねぇ君、沢藤君だよね?」


「えっ? まぁ、そうですが?」


「昨日の岸辺さん救出劇について聞きたいんだけど、いいかしら?」


 聞くところによると、彼女は新聞部の部員で竹雪さんというらしい。名刺のようなものを渡され、さらっと自己紹介される。昨日、水泳部で起こった出来事を校内新聞に掲載するため、俺に取材を申し入れたいようだ。


「はいはい! 柚希君へのインタビューはまず私を通してもらわないと困りますね」


 横から、すかさず夏帆姉がしゃしゃり出てくる。


「あなたは?」


「柚希君のマネージャーけん幼馴染みけんお姉さんけん恋人です」


 兼ねすぎでしょ、夏帆姉。


「恋人……」


「いや、最後のは虚偽申告なんで無視してください」


「え~、これから事実になるのに~」


 そんな噓ばっかの夏帆姉は置いといて……昨日の件は既に騒ぎになっているだろうし、下手に隠してもいいことはないだろう。取材を了承する俺であった。

 さすがに登校時間に長々と時間をとられるわけにもいかないので、時間は昼食後の休み時間。場所はいつも夏帆姉とランチを食べる屋上を指定したのであった。 

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