第37話 活動! その3

 部室に戻り、岸辺さんとワックスがけをしていると、ようやく夏帆姉がやってきた。しかも、手に色々と何かをたずさえて。


「遅いよ、どこ行ってたのさ? 夏帆姉ってば」


「ごめんね、ちょっと準備に手間取っちゃって。だいぶ綺麗になったね~♪ さっすが、私の柚希君♪」


「私も手伝ったんだけどな~、お姉さんがいなかった分も。だ・い・ぶ」


「あら、いたんですか。お疲れ様。もういいですよ、帰っていただいても」


「ちょっと! それが頑張った人に対する言葉? もっとねぎらってよね」


「そうだよ。岸辺さん、だいぶ頑張ってくれたんだから」


「ふん、誰があなたなんかに……ん? なんですか、その綺麗なお花?」


 すかさず夏帆姉が岸辺さんの髪の違和感に気づく。


「これは……べ、別に、お姉さんには関係ないでしょ」


 岸辺さんは少し頬を赤らめ、髪に飾られた花を隠すように夏帆姉に顔を背ける。


「柚希君が好きなの花のように見えますけど……」


 夏帆姉がこちらを振り向いた。うっ……俺の好きな花も把握済みか。俺は知らぬ存ぜんでワックスがけに専念した。夏帆姉は照れた俺と岸辺さんを交互に何度か見た後、何かを察したように発狂した。


「ふぇ! ふぇぇぇ! お姉ちゃんがいない間に、なに良い雰囲気になってんですかぁー!!」


 そう叫んだと思いきや、すかさず俺の足にしがみついてきた。


「ちょ、やめてよ。掃除できないでしょ」


「やだ、やだぁ~。お姉ちゃんの髪にもおはな~!!」


「も、持ってないもん。今」


「うわぁぁぁん」


 泣きわめく夏帆姉に対し、岸辺さんは勝ち誇った笑みを浮かべているのであった。


♢♢♢


「ぐすんぐすん。実は『おつかれ会』の部訓を作ろうかと思いまして……」


 少し落ち着いた様子の夏帆姉は、遅れた経緯を説明しだす。携えてきたのはどうやら習字セットのようだ。


「部訓?」


 岸辺さんが聞き返す。掃除ついでに、殺風景な部室の壁に習字文字の部訓を掲げようと思い立ったそうなのだ。


「なるほど。確かに部活っぽくていいね」


 部の個性が出て良いと、俺はちょっと感心する。夏帆姉には夏帆姉なりの考えがあったようだ。


「でしょ? えらいでしょ? だから、お姉ちゃんの髪にもお花くれる?」


「はいはい。あとでね」


「いよーし! そうと決まれば部訓を作りましょー!」


 夏帆姉は大きな用紙に、匠が如く、達筆で『乙女おとめ歩理志位ポリシー』と当て字を書いていく。それから三人で色々と話し合って、条文を連ねていった。

 こうして出来上がったものが……。


『第一条 乙女たるもの、ピンチの時もあきらめない。そうよ、ピッと凛々しく』


『第二条 乙女たるもの、大きな夢を掴むべし。だから、ピッと凛々しく』


「第三条 乙女たるもの、涙もたまにあるよね。だけど、ピッと凛々しく」


 なんか知らんけど、乙女たるものは『ピッと凛々しく』は外せないらしい。そこだけは譲れないと、夏帆姉も岸辺さんも珍しく意見が合うのであった。

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幼馴染の姉が俺を好きすぎるが、べ、別にモテてるわけではないからな!! 若狭兎 @usawaka

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