第36話 活動! その2

 放課後、さっそく掃除に取り掛かる俺と岸辺さん。夏帆姉はちょっと準備で遅れるとのことだったので、二人でさっさと始めることにしたのだ。


「よし! じゃあ始めますよ!」


「おー!」


 まず、あちこちに置かれていた備品を処分する。前の部活のもので役に立ちそうなものはない為、段ボールに詰めてごみ置き場へ持っていく……のだが、これが思いのほか重くてハードなのである。3往復目でヘトヘトな俺をわき目に、岸辺さんはそれらを両脇に担いで、平然と歩いていく


「はぁはぁ。き、岸辺さん……タフですねぇ」


「そうかな? まぁ、体力には自信あるからね」


「さすが運動部のアイドルです」


「そんなことないって。でも、なんだかこうして二人でいると、体験入部の日を思い出しちゃうね」


「はは、既に苦い記憶です。俺、体力からっきしだったもんで」


「ねぇ、一つ聞いていい? どうして沢藤君は苦手な運動部に入ろうと思ったの?」


「そりゃ……彼女が欲しいからですよ」


「え、ええ~! 彼女ほしいの?」


「だって、モテる男はスポーツマン多いじゃないですか。うまくいけばマネージャーとかといい感じになれたらなぁ~と思って」


「それは聞き捨てならないなぁ。ここに超絶セクシームチムチガールがいるのに」


「性癖に難ありですが」


「うっ、それを言われると辛い」


「す、すいません。俺、やっぱ普通の子がよくて」


「むぅ、やっぱそこはこだわるか」


 少しムッとした表情の岸辺さん。


「まぁ、いいよ。壁は高ければ高いほど登りがいがあるし。こう見えても、ボルダリングだってできるんだから」


「岸辺さんの運動神経のすごさは疑ってませんよ」


 こうしてゴミ置き場へ着き、段ボールを再度下ろした。


「ふぅ~、これでだいぶ片付いたんじゃない?」


「はい、おかげさまで」


「しかし、お姉さんはなにしてるのよ。私たちだけに働かせちゃって」


「まぁ、マイペースな人ですから」


 再度ふたりで部室へと戻る途中、中庭に咲いた花を見つけた。何気なしに俺はその花を摘み、ふと岸辺さんの髪に飾ってみた。


「な、なに?」


「綺麗ですよ……なんちゃって」


 なんというか、ちょっとしたイタズラ心のつもりだった。今の時代だと、こういうのって嫌がられたりするものだが……まずったかな。


「ちょっと、キュンとしちゃった……」


 あれ? 思いのほか好反応。小学校の頃、同級生にこれやってめちゃくちゃ気味悪がれた、あの記憶は一体。夏帆姉はまぁ、いわずもがなであるが。


「す、すいません。ちょっと悪ふざけのつもりで……迷惑でしたよね」


「ううん、そんなことないよ。嬉しい」


 岸辺さんは俺の腕に抱きつく。


「私、普通の子になれるよう努力するね」


 ちょ、ちょっとやり過ぎたなぁ~……と自分をいましめつつも、頬を赤らめる可愛い岸辺さんを見れて、ちょっとだけラッキーな気分の俺であった。

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