幼馴染の姉が俺を好きすぎるが、べ、別にモテてるわけではないからな!!

若狭兎

序章 あなたが好き

第1話 お馴染みで幼馴染み

「好きです! つ、付き合ってください!!」


 異性に一度は投げかけられたい、魅力的な台詞せりふだ。

 だが、そんな素敵な台詞を投げかけられている場面のはずなのに……なぜか俺の目は遠くを見つめていた。


「あのね、夏帆姉かほねぇ……なんで、今それいうの?」


「えっ? 気持ちを伝えちゃダメなの?」


 場所はというと、学校一大きい桜の木の下。そして今日は、俺の中学最後の日で、いわば卒業式である。そこにいじらしい女の子が待っているというんだから、こんな運命的なものはない。

 はずだったのだが……その告白主が幼馴染おさななじみで、一つ年上のさかい夏帆かほ、通称『夏帆姉かほねぇ』というのならば、話は変わってくる。


「いや、普通さ、卒業式には同級生からの告白をイメージするじゃん! それが、なんで夏帆姉なんだよ」


 思い起こせば、数日前のこと。

 家のポストに俺あての手紙が入っていたのだ。内容は『夏の大海に希望のを上げる私から貴方あなたへ。大人へと変わる境目さかいめの日に、校庭の桜の木の下でお待ちしております』というもの。どこか謎解きっぽい内容、今時いまどき手紙といういじらしさ、さらに告白への期待値という点からすっかり有頂天になっていた。


 だが……あの時に気づくべきだったのだ。手紙の内容に姉の名前が入っていることに。


「だって、柚希ゆずきくんが卒業するタイミングで、大切な関係になりたかったんだもん」


 回想中の俺をよそに、意味深な発言をしてきたので困惑する。


「それ、どういう意味?」


「そういう意味♡」


 俺はため息をついた。夏帆姉は容姿端麗で成績も優秀だが、扱いにくいポイントがある。それは、俺への依存度が異常という点だ。お嬢様として育てられてきた為か、根っからの世間知らずであり、求愛発言が時と場所を選ばない。

 そして、最近は性への関心も日に日に強くなっているようで、隣の家に住んでおり、幼稚園からずっと一緒の俺へと、それは容赦なく向けられていた。

 

「大体さ、去年のクリスマスにも同じこといってなかったっけ?」


「あの時は断ったじゃん!!」


「そう、丁重にお断りしたよ。受験も控えてたし。なのに、あれから数か月しか経ってないのに……もう再告白って回復早すぎない? 脅威の回復速度だよ」


「だって……好きなんだもん」


 うっ……いかん。不意を突かれた。

 目に涙を浮かべた反則級な上目遣いに、不覚にも少しキュンとしてしまった。その、なんというか、顔は美人さんだからなぁ。

 いや、待て。一旦いったん落ち着け。相手は夏帆姉だぞ? OKなんかしたら絶対苦労する。昔から束縛の強い人だし、わがままだし、甘えん坊だし、わがままだし、空気読めないし、わがままだし。そんな夏帆姉を許せる度量も力量も、今の俺には持ち合わせていない。


「夏帆姉が俺を好きなのはうれしいけど……とにかくダメだよ。学年も違うし、なによりお姉さんとしてしか見られない」


「ええ、そんなぁ~」


「それに、これからは通う高校も別々だろ? 夏帆姉は県内有数の女子高だし、俺は共学の普通高受けたし。仮に、百歩譲って付き合ったとしても、どんどん接点はなくなっていくわけだ」


「え? 柚希君、今付き合うって言った?」


「違う! 仮の話だよ。これからすれ違っていく一方だって言いたいの!」


「そんなのわからないじゃん!」


「いいや、わかる。ダメなものはダメ」


「うえぇぇん」


 俺の「ノー」という返事に夏帆姉はがっくりと肩を落とした。垂れ下がった長い髪が、まるでくらげの触手しょくしゅのようだ。


「じゃあ、俺はそろそろいくよ」


「いくってどこに? 一緒に帰らないの?」


 傷心の夏帆姉は、ぐすんぐすん言いながらも問いかけてくる。


「まだ教室で最後のホームルームが残ってるの。夏帆姉がいたんじゃ、本当に俺のことを好きな子が告白できないだろうし。先に帰ってていいよ」


「え!? 私聞いてない! そんなゴミムシがいるの!?」


「ゴミムシっていうな! そういう人を見下すとこだよ、夏帆姉の悪いとこ!」


「だってぇ、柚希君は私のなの! そう決まってるの!」


「今さっき否定したろ」


「ダメだよぉ、そんな害虫が徘徊はいかいしている場所に行っちゃあ。一緒に帰ろうよぉ」


「いいから一人で帰りなさい」


「ううっ、柚希君を狙うゴミムシ……絶対に許さない」


 夏帆姉はふてくされながらも、殺人計画のようなものをボソボソとつぶいていた。このままではらちが明かないと、妄想中の夏帆姉をその場に残し、俺はさっさと教室へと戻ったのだった。

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